第6話
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2017年5月18日午前10時2分。月井と今村は歌舞伎町を練り歩く。昔からデカは足で稼ぐのだ。繰り返し現場に行き、見分する。月井もそういった刑事の捜査手法の細かさには慣れていた。
捜査一課にいて、普段から新宿区を担当している。繁華街は人やモノが多く動く分、危なっかしい。いつも銃か警棒を携帯している。護身用だ。デカの持ち物としては必須である。それに月井は合間に射撃訓練を欠かさない。外回りしてたかと思ったら、急に戻ってきて、射撃場で銃の腕を試す。そんな器用な警官なのだ。
「月井巡査部長」
「何ですか?」
「夜までいるつもりですか?ここに」
「ええ、そのつもりですが。……今村巡査部長は繁華街が苦手で?」
「いえ。……ですが、私も刑事である前に人間ですからね。ここに長居するのはちょっと……」
「じゃあ、いったん捜査本部に戻りましょう。夕方からまたということで」
「そうですね。その方が助かります」
今村がそう言い、街の出入り口方向へと歩き出す。大勢の人が行き交っていた。欲望の街の昼の姿が目の前にある。風俗店や一部のパブ、それにパチンコ店などが午前中からでも営業していた。
2017年5月18日正午。月井たちは帳場のある新宿山手署刑事課へ戻った。多くの警官が入り浸っている。中には食事にカツ丼などの丼物を食べている捜査員がいて、食べ物の臭気がタバコ臭などと混じり、辺り一帯に漂っていた。
「月井君、お疲れ様」
「ああ、岸間班長、お疲れ様です。……高木梨帆は行方を晦ませたままです」
「うん、大概想像はついてる。……ルール―のママの野際仁子と会うんだろ?」
「ええ。さっき妹の野際兼子と会ってきました。何か隠していると思って間違いないです」
「そうか。……じゃあ、月井君も今村君も食事取って、少し休みなさい」
「班長は大丈夫なんですか?」
「ああ。俺なんか、未だに睡眠時間1時間ぐらいだよ。それでもぶっ倒れないからな。タフなんだ」
岸間がそう言って笑う。月井が一礼し、フロア隅に出前で取ってあった親子丼の丼を手に取った。今村も同じように丼と割り箸を手に取って食べながら、しばらく寛ぐ。夕方からまた歌舞伎町だ。野際仁子に会わないといけない。そう思いながら、食事を取ってコーヒーを口にする。ブラックのホットコーヒーは苦い。だが、この味に慣れてしまっている。
2017年5月18日午後1時40分。月井たちはソファーで仮眠を取った後、捜査本部内を見渡す。辺りは警官が多数いて相変わらず喧しい。それにデカ部屋は中年や初老の男性が中心で、清潔感は正直言ってあまりない。
月井も今村もフロアにあるパソコンに向かっていた。高木の個人情報は警察も詳しく入手してないのだし、未だにどこにいるのか見当すら付かない。だが、港区内のマンションにはいないはずだ。警察の捜査の手が伸びているから、どこかに潜伏しているだろう。果たして、夕方ルール―に出勤してくるか?それすら判断できない状況下にあった。月井も頭を抱え込む。しばらくずっと。(以下次号)