表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新宿  作者: 竹仲法順
538/1001

第538話

     538

 2017年7月12日午前9時21分。朝の歌舞伎町を歩く。規模の大きな繁華街が広がっていた。月井も普通の感覚じゃ対処できないものを相手している。この街の悪は散々見てきた。まさに欲望の塊である。昔からそういったものと正対していて、感覚が麻痺している側面もあった。仕方ないことなのだが……。

 無線が鳴り、応答する。一課の捜査員は、頻繁に無線連絡してきていた。物騒な街を歩きながら、連絡を聞く。大事な要件なら即座に現場へと駆け付けるのだが、そうじゃない場合、後回しにしてもらう。

 午前10時15分。自販機でアイスの缶コーヒーを一缶買って飲んだ。辺りの暑さはうだるようである。東京は連日酷暑だ。ビルの木陰で休憩する。毎年、7月は地獄のように暑気が回っていた。警察官も人間だ。熱中症などで倒れたら、元も子もない。

 カフェインを取り、疲労を癒す。昔は歌舞伎町交番にコーヒーメーカーをセットし、たくさん飲んでいた。一つは眠気覚ましだったのだ。服用していた安定剤の副作用で、眠いことが多々あった。当時、精神科医の南雲が経営していた、新宿メンタルケア第二クリニックに何度か行ったことがある。しかるべき治療を受けていたのだ。

 新宿は夜間の騒音がひどい。20年ほど前も、不眠気味だった。夜、仮眠を取ってもすぐに目覚めることが続いていて、違和感を覚えていたのを思い出す。治療で不眠は何とか治り、晴れて一課に配属となったが、ノイローゼは続いていた。缶に口を付けて傾け、飲みながらそんなことを思う。断片的な昔の記憶だ。

 南雲は月井の不眠症や精神疾患の症状を見抜き、当時普及していた安定剤などの投薬をして、適切な処置を施した。藪医者なら、見過ごしただろう。思う。腕のいい、ちゃんとした医者に掛かって正解だったと。それだけ南雲は名医なのだ。こんな大都会で悩み苦しむ人間を助けられるのだから……。

 午前10時32分。木陰を出て、歩き出す。また太陽に照らされ、肌に汗や脂が浮く。昼食の取れる正午まで頑張るつもりでいた。街は常に動いている。息吹や呼吸音が聞こえていた。大勢の人間がいる場所なのだから……。(以下次号)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ