第503話
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2017年7月8日午後6時42分。月井は駐車場から車に乗り込み、エンジンを掛けて走らせる。身も心も疲れ果てていた。千代田のビル街を抜け、新宿区の自宅マンションへと向かう。別にそう考え込むこともない。単に一日の仕事が終わり、今からゆっくり出来るというだけで……。
警察官としての仕事は一際きつい。そう思うことは多々あった。だが、ずっと続くわけじゃない。いつか終わるのだ。そう思えば、今の苦にも耐えられる。長年刑事をやっていて、いろんなことがあった。新宿の街は与太者が何かと多い。月井もだいぶ苦労してきていた。交番勤務時代を含め、20年以上、同じことを続けてきているのだ。しかも、文句一つ言わずに……。それだけいろいろなことに耐え抜いてきた。並々ならぬものを経てきている。今までずっと。
新宿区に入り、街を見ると、繁華街は賑わっていた。不夜城は燃え盛り続ける。今まで普通の人間が三回ぐらい生き抜いたような量の苦を味わってきた。思う。これから定年まで、大きなことがなければいいだろうと。新宿を担当しながら、いろんなものを見てきた。まさに一つの時代が動くようなことまで……。
1990年代の新宿も、今の街も基本的に雰囲気は変わらない。未だに街の中枢ではいろんなことが巻き起こっている。担当警官の月井だって全部は知らない。一人の警察官が全部の情報を知っているわけじゃないのだ。仮にそんなデカがいたとしたら、犯罪はゼロになる。現実問題、そうはならないから、日々刑事は所定の場所に配置されるのだ。日々身が引き締まる。ずっと街に張り付いていた。いろいろなトラブルを一手に引き受けながら……。(以下次号)




