第5話
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2017年5月18日午前9時27分。月井と今村は歌舞伎町にあるクラブ、ルール―へと行き、警察手帳を提示して店に入れてもらった。極普通の酒場で、変わったところはない。
「ホステスの高木梨帆さんは普段どんな感じですか?」
月井が持っていたICレコーダーのスイッチを押して回しながら、訊く。たまたま居合わせた40代ぐらいの女性が、
「梨帆ちゃん、別に変わってませんよ。極普通の30代女性です。……ちょっとミステリー好きで、その手のドラマとか小説なんかには詳しかったみたいですが」
と言った。月井が、
「他に何か特徴は?」
と訊くと、
「ああ。確か、男性の客とは幾分揉めるところがありましたね。……特に妻子持ちの方なんかとは」
と女性が答える。
「例えば、IT企業家の岡田徹さんとかは?」
「ええ。……岡田さんがどうかしたんですか?」
「殺害されました。5月17日の午後1時過ぎに新宿のビジネスホテルの客室内で」
「そうですか。お気の毒に」
女性はそう言って軽く頷く。どうやらこの女は普段店でも、高木とはあまり接点のない人間のようだ。それに年齢も行ってるようで、高木や他のホステスのように、頻繁に接客などをしていたわけじゃないらしい。
「あたし、店のママの実の妹の野際兼子です。いつもは手伝うだけで」
女性がそう言った。
「ママの……野際仁子さんは今夜店に来られますか?」
「ええ、来ると思います。……でも、岡田さんが殺されたなんて」
兼子が軽く俯き、掃除していた流し場の水を止めて、脇に置いていたペットボトルに口を付ける。中には飲み水が入っていたようで、朝から暑いから、水分補給だろう。絶えず汗が出る。月井も今村も兼子からグラス一杯水をもらい飲んだ。
「刑事さん、今夜姉に会いに来てください。多分、岡田さんや梨帆ちゃんのことも詳しく話してくれると思いますので」
「分かりました。また伺います」
月井がそう言って一礼し、歩き出す。今村も付いていった。店を出て、月井が一言、
「野際兼子は事件のことを何も知らないんだな……」
と呟くと、今村が、
「不自然ですけどね。高木梨帆がマル害と接触してた疑いがあることは、すでにニュースでも報道されてるはずなのに」
と返す。
「とにかくまたルール―に行きましょう。きっと何か隠されてると思いますよ」
「ええ」
今村が頷いた。新宿の繁華街の朝は一際静かで、夜のような威勢はない。歌舞伎町も夜間動く。月井たちは街を回り続けた。午後5時がルールーの開店時間であることを、店前に置いてある小ぶりな看板で知ってから……。(以下次号)