第32話
32
2017年5月23日午前6時。点呼を兼ねた朝の捜査会議が始まった。一課長の両角は来てなかったのだが、田川理事官が臨席していて、刑事たちは皆引き締まる。会議が滞りなく進み、最後に讃岐が、
「害者の高木梨帆は、新宿山手署のヤマである岡田徹社長殺害事件の口封じのため、殺害されたと目される。新宿山手署や他の港区内の所轄署と連携を密にし、捜査に当たってくれ。では解散!」
と言った。皆一気に士気が上がり、そのまま捜査に向かう。月井と今村も讃岐の指示で外回りになった。蒸し暑い中、帳場を出て、港区の歩道を歩く。月井は普段から足で稼いでいるので平気だ。もちろん、これまで何足も靴を履き潰してきたのだが……。
午前7時2分。最寄りの定食屋に入り、食事を取った。朝から何も食べないと、夏バテなどでやられる。揃ってレギュラー朝定食を頼んだ。食べながら、今村が、
「月井巡査部長、今回の高木梨帆殺害は予期していたことですか?」
と訊く。
「ええ。高木の身は危ないと思ってました。彼女は岡田社長殺しで、志村浩と一緒に事件に何らかの形で関与してる。私は依然そう踏んでます」
「じゃあ、次に消されるのは?」
「それは分かりません。……ただ、志村浩は危ないでしょうね。あの人間は事件に関して、何か知ってるはずですし」
「帝都物産……マークしますか?」
「そうですね。……でも他のデカたちがもう行ってるでしょう」
「まあ、それはそうなんですが……」
今村が舌打ちした。月井が茶碗のご飯と納豆を掻き込み、食事を取り終えてから、椅子の背凭れに凭れる。しばらく黙っていたのだが、やがて立ち上がり、
「今村巡査部長、そろそろ行きましょう。デカも軟な仕事じゃないですから」
と言って歩き出す。
「ええ。……ああ、缶コーヒー買いますよ」
「アイスのブラックでお願いします」
「分かりました」
揃って食事代を支払った後、店を出て、店表の自販機で今村が二人分のアイスコーヒーを買う。そして渡してくれた。
「ああ、すみません」
缶コーヒーを飲みながら、街を歩く。殺害現場は程近い。歩きながら、いろいろ考える。自ずと現場に行き着いた。車で行っても10分程度なので、徒歩でもきつい距離じゃない。水死体はすでに解剖が済んでいる。新宿のクラブのホステスが何者かによって殺害され、水死させられた。月井も今村も、ほとんどの捜査員もそう踏んでいる。まあ、刑事事件など一般的に推理通りじゃないことの方が圧倒して多いのだが……。(以下次号)




