第275話
275
2017年6月15日午前8時2分。新宿駅は人の洪水だった。月井も今村も歩きながら、辺りを見る。繁華街は静まっていたのだが、オフィス街は賑やかだ。捜査員は周辺に散らばっている。月井たち刑事も日中はずっと動いているから、暇なしだ。無線は絶えず飛んでくる。耳に装着した発信機が鳴り続けていた。月井も時折タブレットを取り出して立ち上げ、開く。記載している情報を確認していた。事件捜査は難を極める。多分、外回り班はどこも苦戦しているだろう。そう思えるのだった。
午前9時。オフィスが一斉に開き、営業を開始する。月井たちも近辺を回り続けた。確かに警察官は事件捜査中、いろんなことに巻き込まれる。だが、そもそも人間などそんなものだと思う。実社会というのは、実に複雑だ。考えている以上に。月井も今村も疲労や心労を抱え込んだまま、進む。どうしようもない。それが人間だと思っていて……。
夏の太陽が照り付ける。暑い。月井たちもずっと屋外にいて、下手すると、熱中症になるのだ。十分気を付けていた。酷暑は着実に体力を奪う。疲れは慢性化していた。時々、缶コーヒーを買って飲みながら一息つく。無線は鳴り続けていた。まあ、月井たち警官もきつい状況に慣れてはいるのだが……。
午前9時32分。オフィス街は騒がしい。辺りには大勢人がいる。月井も今村も新宿のど真ん中にいて、周囲を見続ける。繁華街は静まり返っていた。昼間は歌舞伎町も眠っているのだ。もちろん、物騒な場所ではあるのだが、刑事たちはそう視線を向けない。捜査員は散らばり、無線で持ち合わせの捜査情報を流す。月井たちも随時応答する。淡々と事務的な感じで。捜査は続いているのだが……。(以下次号)




