第22話
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2017年5月21日午後4時25分。月井と今村は淡々と新宿の街を歩いていた。疲れている。足が重たい。ふっと月井が立ち止まり、スマホを取り出して岸間に連絡した。
「班長、お疲れ様です」
――ああ、月井君か。お疲れさん。……今、まだ新宿だろ?
「ええ。今からもう一度現場のビジネスホテルに行ってみます」
――現場百遍か?君も面白いデカだな。……午後6時半の捜査会議までには本部に戻れよ。
「分かってます。では」
月井が電話を切り、今村に、
「今村巡査部長、現場に行きましょう。何か分かるかもしれません」
と言った。
「ああ、分かりましたよ。月井さんがそこまで仰るなら、行きましょう」
今村が応じ、揃って歩き出す。ビジネスホテルまでは徒歩で15分ほどだ。通りを横切って、歩いていく。人の波に呑まれた。大都会らしい人の洪水が絶えず押し寄せてくる。月井たちはそれを交わしながら、歩き続けた。
岡田が殺害されたビジネスホテルに着き、現場だった7階の部屋へ向かう。事件が発生した日の午後1時過ぎに害者の遺体が702号室で発見され、大騒ぎになった。現場には黄色い現場保存用ロープが張ってあり、月井も今村も警察手帳を提示して出入りする。
「事件時、この部屋に岡田社長と高木梨帆、それに別の人間がもう一人いたんですね?」
「ええ。……きっと殺人の実行犯ですよ。私はそう思ってます」
今村が頷き、入念に部屋を見る。事件が起きた時、ドアに鍵が掛かっていた。密室というやつだ。だが、ホシが作った密室など、刑事にはすぐ分かる。意図して作ったものであっても。
デカは互いにけん制球を投げ合うことがある。月井もそういったことは十分分かっていた。実際、長年の刑事生活で鍛えた勘は鋭く当たる。
午後5時2分。月井が一言「検証は終わりです。行きましょう、今村巡査部長」と言って、出入り口へと歩いていく。今村が当惑し、
「まだ着いてから、そんなに時間経ってませんよ。大丈夫ですか?」
と言って現場を退出し、月井に付いていった。どうやら月井は見たものを目に焼き付けておき、後で頭の中で組み立てて再構成するのだ。まさに天才的な刑事である。今村はそんな相方を侮れないと思っていた。
午後5時33分。月井たちは新宿山手署刑事課の捜査本部に戻った。そして午後6時半からの捜査会議までパソコンに向かう。事件を粗方整理しておいた。あのホテルの密室はホシが意図的に工作し、作ったものだ。必ずバラバラに出来る。月井は確信に至っていた。事件発生時、犯人サイドが岡田社長を亡き者にするため、選択した偽装工作の類を――。(以下次号)




