第210話
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2017年6月9日午前3時。月井は枕元のアラームで目が覚めて起き出し、汗の染みたシャツを脱いでスーツに着替えた。充電器からスマホを抜き取り、電源を入れてネットに繋ぎ、ニュースをチェックする。コーヒーをアイスで一杯淹れて飲み、洗面して出かける準備をした。何かと物憂い夏の朝は一際辛い。月井もリズムに慣れてはいるのだが……。
午前3時45分。月井は自宅マンションの駐車場から車に乗り込み、エンジンを掛けて走らせる。早朝の新宿区は路上が閑散としていて、時折見かけるのはホームレスなどだ。東京都にも家がない人は大勢いる。月井もそういったことは十分知っていたのだが……。
いくつか交差点を抜けて、新宿山手署へ向かった。まだ午前4時過ぎで、人はほとんどいない。繁華街の方は人口が集中し、やがて夜明けになると、減っていく。慌てずに安全運転で行った。スーツの背中の部分や脇からは早々と汗が出ている。ハンドルを切り、署の駐車場で車を停止させて着いた。
午前4時15分。月井は出勤し、捜査本部内で岸間と会う。
「班長、おはようございます」
「ああ、月井君か。おはよう」
「待機しておきます」
「そうだな。俺も今日の仕事の概要は分からん。……ひとまず帳場にいてくれ」
「分かりました」
月井は頷き、デスクへと向かう。タブレットを取り出し、画面を立ち上げて、キーを叩き出した。この場で刑事としてやれるのは、作業ぐらいなものだ。プラスチック製のカップにコーヒーを一杯淹れて飲み、作業を続ける。捜査員は午前4時台はそういなかったのだが、午前5時を回ると、増えてきた。今村も来て、隣のデスクで作業を始める。月井も不安はあった。今日の任務は一体何だろうと。岡田徹・高木梨帆連続殺害事件で、第一容疑者である加納猛はすでに逮捕され、今現在、別班が取り調べているのだし……。(以下次号)




