第201話
201
2017年6月8日午前4時10分。早朝の新宿の街を走り抜ける。月井も起き抜けで幾分眠かったのだが、気を入れて車のハンドルを切り、署へと向かう。繁華街は、まだ夏の夜の余韻が濃厚だ。恐ろしい場所に入ってきている。絶えず警戒していた。
交差点をいくつか抜け、午前4時20分には署に着く。職員通用口から刑事課に入り、捜査本部へと行った。夜勤の刑事たちの中に岸間が混じっている。老警官は昨夜も泊まり込みだったようだ。
「おはようございます、班長」
「ああ、月井君、おはよう。……すぐに仕事始めてくれ」
「分かりました」
上司に対し、一言答えてから、デスクへと歩き出す。座ってからタブレットを取り出し、電源を入れてキーを叩き始めた。慣れていても、朝の時間帯は眠気が差す。コーヒーをプラスチック製のカップに一杯淹れて飲み、作業を続けた。まあ、カフェインを含むと、一気に神経が高まるのだが……。
月井も長年警察官をやっている。いろんな経験をしてきた。人生経験というものは何ものにも増して変え難い。それに警視庁捜査一課の刑事として、様々なことを経てきている。強みだった。デカは修練を積めば積むほど、タフになる。それが身を以て分かっていた。確かに面白くないこともあったのだし、不平や不満もあるのだが、総じて経験だ。考え方が前向きで、過酷な任務を遂行する警察官としては的確だった。
キーを叩き、作業を続ける。午前4時台は静かで、5時台になると、捜査員が大量に出勤してきた。一際騒がしくなる。今村も午前5時10分過ぎには来た。そして共に作業する。午前6時に捜査会議が始まるまで……。(以下次号)




