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新宿  作者: 竹仲法順
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第18話

     18

 2017年5月21日午前6時半。新宿山手署の捜査本部で、点呼を兼ねた捜査会議が始まった。月井も今村と共に参加する。昨日までの時点で、警察でも鑑識は岡田徹殺害事件に関し、現場に残っていた第三者のDNAを鑑定するまでに至ってない。だが、仮に物証が確認できれば、捜査自体大きな進展となる。

 会議は続いたのだが、捜査員は連日の過酷な捜査で幾分疲れ気味だった。月井も今村も、他の捜査担当者も朝が早い分眠く、会議中は辛さがある。

 会議終了後、岸間が、

「月井君と今村君はルールーに行ってきてくれないか?ホステスの高木梨帆のことを調べてほしいんだ」

 と言い、軽く息をつく。月井が、

「ホステスや、ママの野際仁子は夕方からしか出てきませんが……」

 と言うと、岸間が表情を硬くして、

「じゃあ、今から仁子のマンションを訪ねてきてくれないか?」

 と言ってきた。今村が、

「仁子は寝てますよ。クラブのママは仕事柄、夜が遅く、昼間が睡眠時間なんじゃないですか?」

 と言うと、岸間が、

「高木梨帆が事件に絡んでる。野際仁子は本件の重要参考人になる可能性が高い。行ってきてくれ」

 と言い、硬かった表情を幾分和らげた。

「分かりました」

「了解です」

 月井と今村が各々頷き、捜査本部を出て歩き出す。署の駐車場に停めていた車に乗り、走らせた。仁子の自宅マンションは成城にある。彼女自身、高い物件が居並ぶ高級住宅街に一人暮らし用のマンションを借りる独身貴族だった。

 午前7時32分。成城の仁子のマンションに着き、ドアをノックすると、見覚えのある顔の女性が出てくる。夏用の部屋着は少し薄手で、年齢不相応に見ている男性の気をそそった。月井が警察手帳を提示し、

「野際さん、おはようございます」

 と言うと、

「ああ、刑事さん。……こんな朝早くに何の御用?」

 と言ってきたので、今村が、

「お休みのところすみませんが、ちょっとお話を」

 と言い、軽く頷いてみせる。仁子がどうぞと言って、月井たちを部屋に上げ、コーヒーを淹れて待たせる。部屋着の上から一枚羽織り、重たげに息を吐きながら、

「警察の方って、どんな時間でも活動されるのね」

 と言って大欠伸した。

「お疲れのところすみません。……高木梨帆さんの行方はご存知ですか?」

「いえ。あの子ずっと店に来てないのよ。……無断欠勤してるから、辞めたのかしら?」

 仁子は眠そうにしながらそう言い、言葉尻を上げる。そして、

「梨帆ちゃんが事件に関わってるとでも言うの?」

 と訊いた。月井が回しているICレコーダーを気に掛けながら、

「その可能性大です。殺人現場だったビジネスホテルにご本人の毛髪が落ちてました」

 と言い、息をつく。仁子がコーヒーのグラスに口を付け、

「だったら、あなた方警察が梨帆ちゃん捜し出して、事情聴取でも何でもすればいいじゃないの!」

 と、激高気味に言う。今村が、

「高木さんは別の刑事が捜しておりますので、野際さんには少しお店のことなどをお聞きしたいのですが」

 と言い、仁子を宥めた。午前8時40分過ぎで、彼女も眠たいようだ。だが、眠気を振り切るように、

「じゃあ今から店のこと話しますから、それが終わったら帰っていただけるかしら?」

 と言った。月井が一言、

「助かります」

 と言って手元の録音機器の様子を確認しながら、聴取を録音する。異例の聴取だった。警察署内じゃなくて、一般人の自宅マンションで行なったからだ。朝の成城は静かで、辺りにはやや年齢層の高い人間たちが住んでいる様子が窺える。月井も今村も出されたコーヒーを飲みながら、仁子から話を聞いた。相手が一際迷惑そうにしているのを察しながら……。(以下次号)



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