第175話
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2017年6月5日午後2時1分。月井たちは新宿の繁華街にいて、街を張り続ける。疲れていたのだが、合間にビルの死角となっている木陰で休む程度で仕事は続く。タブレットを取り出し、得ていた捜査情報などを見ながら、街に佇む。
常に気を張っていた。警察官も仕事中は無理にでも緊張を強いられる。もちろん、感情は弛緩するから、ずっと緊張感が続くわけじゃない。今村も時折水の入ったペットボトルに口を付けて飲みながら、街やそこにいる人間たちに目を向ける。
互いに気を付けていた。暴漢などが襲ってきた時は、鍛錬している武道の技でねじ伏せるしかない。月井も剣道に関しては達人なのだし、警視庁にいる時は絶えず鍛えているから、腕力には自信があった。
午後2時55分。アイスの缶コーヒーを二缶買い、片方を今村に手渡す。相方も疲れているだろう。月井も街の様子を見ながら、疲労を感じ取っていた。近くには新宿山手署の捜査員が数名いて、電波を飛ばし合っている。月井も耳に付けていた無線機の端末で、時々聞いていた。岡田徹や高木梨帆を葬った人間たちは、今どこにいるのか?気になってしょうがない。二件の殺人事件は発生地である新宿区や港区と未だに繋がっている。月井だけじゃなくて、捜査員たちは皆そう思っていた。
午後3時20分。夏場に長い時間外にいると、熱中症になってしまう。月井たちも心身ともに疲れ果てていた。仕事だから仕方ないのだが、撤収時間が待ち遠しい。おそらく午後5時には現場を離れられるだろう。そう思い、しばらくの間、気を張る。今村も辛そうだった。外回りの刑事は屋外での拘束時間が長いのがネックだ。夏は暑く、冬は寒いのだし……。(以下次号)




