第14話
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2017年5月20日午前8時2分。月井と今村は朝の新宿を歩く。新宿山手署は大通りに面していて、署の捜査本部から人の動きが見える。歌舞伎町は夜が終わると、眠りに就いてしまう。この街は異様だった。まるで雑多で、普通の人間の活動状況とは違うので……。
午前10時前になると、同じ街でもパチンコ店やファーストフードの店などは営業を開始していた。クラブや風俗店などは夜間営業するのだから、今は店仕舞いだ。ルール―に行ってみると、表は閉まっている。シャッターが下ろしてあり、今は誰もいないようだ。
ママの野際仁子や妹の兼子、それに他のホステスたちも何かを知っているものと思う。岡田徹が殺害された事件に関して、だ。特に仁子は、高木梨帆が行方を晦ませている理由を知っていて、それで警察を撒いているものと思えた。
だが、仁子のマンションに押し掛けていくわけにもいかないのだし、現時点で令状を取って捜索する訳にもいかない。ジレンマがあった。捜査員としての、だ。月井も今村も同じことを考えていて、暗中模索状態である。
午前10時半になり、コーヒーショップに入って、空いている窓際の席に座った。モーニングを頼み、届くまで待つ。朝何も食べてなかったので、空腹を覚えていた。今村が、
「月井巡査部長、胃の調子とか大丈夫ですか?」
と問うてきたので、
「ええ、まあ。……今村巡査部長、あなたの方は?」
と問い返す。
「胃酸が出過ぎてて、少し参ってます」
「いけないですね。捜査でお疲れなんでしょう?……夜は眠れてますか?」
「いや、熟睡できてないですね」
「毎晩?」
「ええ。疲れが溜まってまして」
今村は捜査の相方相手に本音を漏らす。そして持ってこられたコーヒーを啜る前に、ミルクに替えてください、と言ってトーストを一口齧った。すぐにミルクが持ってこられ、今村が口を付けた。月井もトーストを齧り、スクランブルエッグやサラダなどを食べる。ここで栄養を付けておかないと、出来る捜査も出来ない。
「今日は現場に行けませんよ。ずっと新宿を張るよう、班長から言われてますから」
「そうですね。疲れますよ。……胃の調子、悪いんだし」
今村がそう言い、時折外を見る。朝の歌舞伎町は静かだ。特にこういったカフェなどの近辺は。夜が不夜城になるので、昼間は寝ている。
2017年5月20日午前11時3分。月井と今村は揃ってコーヒー店を出、通りを歩き出す。新宿区内はどこも基本的に人口密集地帯で、今の時間帯は人も多かった。月井たちは街を行く。多数の人の中に紛れ込みながら……。電車や地下鉄の駅周辺は混雑していた。それに辺りには高層ビルなどもある。この街は常に犯罪の香りがする場所だ。一際高らかな分、相応に生臭くて……。(以下次号)




