第118話
118
2017年5月31日午後3時2分。月井も今村も新宿の街を歩いていた。月井は時折タブレットを取り出し、キーを叩いて、記録していた捜査情報を見る。またディスプレイに脂や汗染みが付いていた。
「月井巡査部長、バリバリですね」
「ええ。……今村巡査部長、あなたもしっかりやってくださいよ。殺人事件の捜査なんですから」
「分かってます。……それにしてもクソ暑いな」
今村がそう言って、街のど真ん中の道路に佇む。お互い顔に疲労が滲んでいる。月井はタブレットを仕舞い込み、再び前を見据えた。ここは盛り場だ。警官相手でも気の荒い人間はいるだろう。新宿にも指定暴力団の関係者がショバ代などを漁りに来たり、店の経営などに首を突っ込んだりするケースが多々ある。しかも上下ともスーツを着こなして、だ。今のマルBは制服である。警察も怖がっていた。暴動などを起こしたりする可能性だってあるのだし……。
辺りに複数の所轄の捜査員が散らばっていることは、無線の応答などで粗方想像が付く。危険な場所なのだが、警官たちも踏ん張っていた。月井は一課のデカで、ここが普段の勤務地だから、しっかりやる。
風俗店など、一見してアジア系の外国人女性が娼婦として出入りするところが複数ある。背後にいるのは、そういった女性たちを本国から引っ張ってくる暴力団組織の人間たちだ。マル暴刑事などはそういった手合いに対しても手慣れているようだが、一課や刑事課の人間たちは専門外だ。警察にもいろいろ事情がある。人間誰しも、専門以外のことは詳しく知らないのだし……。月井たちは街を見張り続けた。スーツには警視庁管轄の警官が必ず付けている警察バッジがあり、一応威嚇ぐらいにはなるのだが……。(以下次号)




