第10話
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2017年5月19日午前11時22分。月井と今村は新宿の繁華街一角にあるコーヒーショップでコーヒーを飲みながら、軽く休憩を取った。値段が手頃なランチセットを頼み、食べながら事件を整理する。倦怠はあった。それに上下ともスーツを着ていると暑くてたまらない。
ランチセットに付いていたハンバーガーを齧りながら、コーヒーを飲む。同じものを頼んでいて、旺盛に食べながら空腹を満たす。何せデカはきつい仕事だ。寝不足は続くのだし、疲れてしまっていた。
「月井巡査部長は岡田社長殺害は高木の犯行ではないと?」
「ええ、その可能性大ですね。……あんな図体のデカい男性を、ホステスが殴って殺せるわけがありません。きっと偽装の一環でしょう。第三者がいます。事件に関わっていると目される人間が必ず」
「でも、目立った指紋や掌紋、毛髪などは現時点で出てませんからね」
「鑑識も徹底して現場を当たるでしょう。事件当日の犯行時間帯にあの部屋にいたのは、岡田社長と高木梨帆、そして害者を殺害した人間です」
「面倒なことになってきましたね」
今村がそう言い、軽く息をつく。そして冷めきり、湯気の出てないブラックのコーヒーを啜った。月井がハンバーガーを食べ終え、コーヒーを一口飲んだ後、チキンナゲットを摘まむ。今村もセットにある食事を口にした。
「とにかく根気よくやりましょう。……新宿の街は闇夜でまるで謎だらけです。事件もいろいろありますし」
「そうですね。……それに殺人に公訴時効はないですしね」
月井の言葉に今村が頷く。ホットコーヒーも時が経ち、すっかり冷めてしまう。月井は店の中を見渡した。店は歌舞伎町の一角にあり、この時間帯は混雑している。刑事が休憩を取る類の場所じゃない。だが、月井も今村も十分休養が取れていた。
岡田を殺害した第三者を高木が知っている可能性が高い。だが、その参考人が行方を晦ませている。事件発生時、現場にいた複数人が偽装工作に関与していてもおかしくはない。それを今から警察が調べる。まだ発生から日が浅く、物証等も薄れていないだろう。月井も今村もそう思っていた。
2017年5月19日正午過ぎ。月井たちは食事と休憩を取り終えて店を出、歩き出す。これからまた、しばらく外回りだ。新宿山手署の捜査員も街にいて、探っていると思う。事件発生時、現場にいた高木梨帆以外の人間を。デカは切り替えが早い。刑事事件は次々と新たな局面を迎えるのだから……。(以下次号)




