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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

雪の色

作者: M(みゅー)
掲載日:2017/01/21

『不思議だな。今、とても穏やかな気分なんだ』


男の頭を自分の膝に抱え上げて、私は最期の言葉を聞く。


「苦しいか…?」


私の問いに、男は微かに首を振る。


『いや…君は一流だな。よくツボを心得ている』


「暢気なこと言ってる場合か。お前…死ぬんだぞ?」



私に撃たれて。



『何…君に殺されるなら、それもいいなと思っただけさ』


男は弱々しく微笑む。その表情に、僅かに胸が苦しくなった。


「お前は…私が何者か知ってたのか?」


『まぁね…すぐには気付かなかったが、違和感はあったな』


そいつが軽く咳をする。頭に添える手に、無意識に力がこもる。


「じゃあ何故。わかった時点で私を殺さなかった?お前なら、できたはずだろう」


『さぁ、それはどうかな』


飄々と。こんな状況に陥ってもなお、そんな言葉がぴったりと当てはまる。


「馬鹿…」


毒づかずにはいられなかった。そいつは、何も言わずに笑うだけだった。



温かい赤色は。

とめどなく地面に伝い、座り込んだ私の膝を浸し、そいつのシャツを染めて、流れだして行く。


もう、押さえようとしたところで止まりはしない。止めたところで既に手遅れだと、わかっていた。


「馬鹿…」


自分に向かって、呟いた。



そいつが、長い息をつく。先刻まで浅く、早かった呼吸が、次第に深く、速度を落としていく。


『君の組織の奴らのことだ。もうじきやってきて、僕の後始末をするんだろう』


他人事のように、そんなことを言う。それから、そいつは私の目を覗き込む。


『君は早く戻れ。いつまでもこんなことをしていたら、変な疑いをかけられるぞ』


「うるさい。お前に言われるまでもないことだ」


そうは言ってみたものの、この体勢を解く気にはなれなかった。声が震えた。


体の奥で、妙な気持ちが沸き上がってきた。


『僕も馬鹿だが、君もつくづく馬鹿な奴だな』


もう、力があまり入らないのだろう。笑おうとしているのは、何となくわかる程度で。


「私は…」


私は?


そいつの真っ直ぐな眼差しを受けて、妙な気持ちが、あらがうことなく形を成していく。



「お前を…愛していたんだ…」



嘘ではない。

今までは、それが偽りの感情だと、自分を欺いて生きてきたが。



『…嬉しいよ』



しばらくの空白の後、彼の目が、優しく微笑む。


舞い始めた雪が、体温に触れて消えていく。


『僕もだ…』


目を閉じて、1つ、大きく息を吐く。



「……っ」



彼は馬鹿で、どうしようもない馬鹿者で。

そして私は、それ以上の大馬鹿者だった。



「今からでも、遅くはないか?…貴方に、ついて行けるか…?」


もう応えない彼に問い掛ける。すでに、答えは決まっているけれど。


一筋頬を伝ったものは、溶けた雪などではなく。




傍らに落ちた銃を拾い上げる。そっとその銃身をなでて、両手で包み込む。


私の得物。

もう少しだけ、手伝ってほしい。




同僚は驚いていた。

それと同時に、恐怖の感情に飲み込まれていくのを私は感じていた。


狙ったものは撃ち損じない。


それが私。



1人。また1人。


真っ赤な、綺麗な噴水を起こして。


私はぼんやりとそれを見ていた。



背後から1人、こちらに走ってくる。

振り返りながら右手を伸べる。

相手が息を飲む気配を感じた。



ピシャッ



乾いた音をたてて、銃が泣いた。



次の瞬間、右足を熱いものが貫く。バランスが崩れると同時に、激痛が脳に一気に押し寄せる。


…それでも訓練してきた身か、この下手くそ。


今度は、左腕の感覚を持っていかれる。


…どこ狙ってんだ馬鹿。


コンクリートの地面に崩れ落ちる。彼の横たわる、そのすぐ近くに。


深く吐いた息が、うっすら白く、空に昇って行くのが見えた。



バラバラと周囲に集まる足音。


何故?


そんなことを言っているように聞こえる。


「さぁ…ただなんとなくだよ」


小さく、小さく、呟いた…

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