第四話:香澄③
香澄は家に帰り着くと、焼肉の臭いが体についているような気がしたのですぐにシャワーを浴びた。
肌の手入れをして、雑誌を少し読んだらもうなんだか眠くなってしまって23時過ぎには香澄はベッドに入った。
部屋の壁のキャラクターの絵柄の入った時計が0時を示す。
深い眠りの中にいたはずの香澄はその頃、夢を見ていた。
香澄は何もない薄暗い空間に放り出されていた。半身を起こす。座っていられるので地面があることは分かるがその境目を眼で判断することはできなかった。香澄にはここが夢の中だという認識はあった。
目の前の地面に当たる部分が盛り上がる。目を凝らす。最初それが何だか分からなかったが徐々に形を成して人の頭だと気づく。後ずさって香澄は警戒する。浮き上がるようにしてやがて顔を現したそれは桜だった。
「か~す~み~」
目の前の桜は気味の悪い調子で名前を呼んでにぃと笑った。その態度がわざとらしく感じて、思わず突っかかる。
「何の用?」
次桜に会ったら謝ろうと思っていたのにこの様だ。夢の中とはいえ、桜の態度もよくないと香澄は思う。
「つまんない」
桜は吐き捨てるように言うと、地面から抜け出すように体全体を現した。腕を組んでこちらを見る。
「あんたは全然反省が足りない。真理と同じ日数でいいかと思ってたけど、もう少し長く恐怖を味わえばいいわ。そうねえ」
桜は一旦言葉を切り、考えるような仕種を見せた後、続けた。
「一週間でいいかな。私ものんびりしてられないし」
相手の出方を見ていた香澄だったがさすがにいらっとして口を挟む。
「何の話よ」
「死の猶予よ。一週間、私にしたこと存分に反省するといいわ。ま、反省しても許さないけど」
桜は得意気に笑った。
何がおかしいのだろう。
香澄は苛立ち気味に心の中で思う。けれどその苛立ちは表に出さずに、桜をせせら笑う。
「リアルも気持ち悪いけど、夢でもあんた気持ち悪いのね」
ムッとしたのかどうか分からないが桜の目がすっと細くなって、先ほどの饒舌振りが嘘のように静かに告げた。
「カウント開始よ。7日目の0時にあなた死ぬからね。じゃ、また明日」
桜は現れた時とは正反対に一瞬でかき消えた。桜が消えるのと同時に香澄は目を覚まし、勢いよく起き上がった。
「はぁ」
香澄は息を吐いて、額の汗を拭った。
「嫌な夢だった」
ひとりごちた。
香澄はベッドから抜け出すと、キッチンへ行き、緑茶のペットボトルを取り出すと洗って置いておいたコップに注ぐ。一口飲むと、緑茶の冷たさに少し頭が冴えた。
思った以上に罪の意識感じてるのかしらねぇ。
心の中で思い、香澄は緑茶を一気に飲み干した。




