掴んだ幸せ
次の日の朝、目が覚めると今日も隣に妻がいない。
すぐに朝御飯のいい香りが僕の空腹を刺激した。
今日こそは僕が作ろうと思ったのに…。
朝に弱い僕は、いつもいつも朝御飯を彼女に作ってもらってばっかりだ。昨日は誕生日も祝ってもらったし、結婚してほしいことも伝えたから今日こそはと思ったのだが。
確かに彼女に朝御飯を作ってもらえるのは嬉しいし、彼女の大切さを身に染みて感じられる。しかしそれは彼女に甘え、依存しているのを表しているのかもしれない。彼女に甘えてばかりはいられない。僕はもっと頼られる存在になっていかなければならない。
寝室のドアを開け、テーブルの向かいのキッチンに見える背中に、おはよう。と声をかける。
すぐに彼女は振り向いて、おはよう。といつも道理の笑顔を返してくれる。テーブルの上には既に、焼き鮭と味噌汁が並べられていた。キッチンでご飯をついでいる彼女のところへ行き、ご飯が盛られた茶碗を二つ貰う。そして、テーブルへ持っていってランチョンマットの上に置いた。彼女とテーブルに向かい合って座り、いただきます。と手を合わせて、朝御飯をいただく。
ご飯を食べていると、急に彼女が持っていた箸を置いて「昨日の話だけど、遠山くんは私なんかでいいの?」と聞いてきた。
僕は曖昧な返事ではいけないと思い。「希。僕は君とずっと一緒にいたい。」と答えた。しかし僕にも不安はあるのだ。ずっと彼女のことを真摯に愛せるか。彼女を幸せにすることができるのか…。
しかし、今それで悩んでいても答えはでない。だから、今彼女と一緒にいることが幸せだと感じるこの事実だけを頼りにしている。
「本当に?不安に思うことはないの?」ともう一度問いかけてくれる。
僕は正直に言うか迷った。彼女には不安も何もかも全て話すべきなのだろうか…。
返事に戸惑っていると「もうそんな顔してる時点でバレバレだよ。私には何でも話して。」と笑顔で話しかけてくれる。
僕の迷いは一瞬にして消えた。そして、やっぱり希と結婚したいと再度思う。
「正直に言うと、ずっと君のことを愛していられるか。守ることができるか。幸せにできるか。不安なところはある。
でも、今は何があってもそうでありたいと思う。」と返事をした。 すると、彼女は「分かった。遠山さんの正直な言葉が聞けてよかった。」と、受け止めてくれた。
そして、初めて名前を呼んでくれた。「渡くん。これから益々お世話になります。」
と座ったまま軽く礼をしてくれた。
「本当に!?」
「はい。」
すぐに喜びが頂点に達したが、冷静に質問をした。
「僕も聞きたいんだけど、希は僕でいいの?まだまだ僕は未熟だから沢山不安を感じさせていると思うんだけど。」
「うん。やっぱり不安もあったよ。だから即答はしなかった。
だけど、今の話とか今までのこととかぜーんぶひっくるめて考えたら、私も渡くんがいいと思った。」と笑顔ではなく真剣な顔で話してくれた。
「ありがとう。」それしか出てこなかった。感じた幸せが大きすぎて言葉にできなかった。