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迷宮〔あな〕のせんたく屋さん (童話バージョン)  作者: 弥竹 八
子きつねタタ  〔スライム・ワールド番外編〕  
17/18

カマちゃん オン・ステージ!

「んん~・・・ん?」


 目が覚めたチェロはベッドの上に起き上がってキョロキョロしました。


「あれ?」


 朝です。

 隣ではタタとピアノがまだクークー寝ています。

昨日は真夜中にお外でカマちゃんとみんなでおむすびを・・・?

お部屋を見回すとチェロのコートもピアノのコートもいつもの場所にかかっています。マフラーも帽子もです。

 夢でも見たのかと思いましたが、確かに今でもごはんのにおいがただよっています。そうそうこのにおい・・・あれ?


「ちぇおちゃんおはよ~」

「きゅ~ん」


 ピアノとタタも起きました。

 チェロは急いでピアノにおそろいのモコモコどてらを着せて下へ降りました。ごはんのいいにおいがたまらないのが不思議です。

 なぜなら日曜日以外、朝ごはんはお向かいのティンパニさんのカフェで食べるからです。

 台所に降りるとちょうどおじいさんがお店から入ってきました。


「じいちゃんおはよー!」

「おい~ちゃんおあよ~!」

「きゅんきゅ~ん」


「ああ、みんなおはよう。チェロ、今朝はいつの間にごはんを炊いてくれたんだね? そんなにあのお釜を使ってみたかったのかい?」


「えっと~」


 チェロはどう答えようかと考えながらまずはかまどを探してみました。

 いました。お釜さん。

 かまどに座り込んで普通のお釜のフリをしています。

 でもかまどには火をつけた跡がありません。

 

「えっとね~じいちゃん・・・これは~マホーの~お釜で~」


 朝からしどろもどろのチェロでした。

 でもそんなことより朝から炊き立てごはんです。

 おじいさんがお味噌汁を作ってくれる間に、チェロは大葉を細かく切って、海苔とちりめんじゃこと鰹節を和えました。

大きめの深皿に盛り付けて、お醤油をピーッとかけて出来上がり。


「いただきま~す!」


 そして、


「おいし~!!」


 みんなご飯をモハモハかき込んで、どんどんおかわりします。

 すぐにお釜は空っぽになりました。

 炊き立てご飯、とってもおいしかった!

 おかげでみんな、朝からホクホクのいいお顔になりました。

  


〇  〇  〇   廿   〇  〇  〇




 ごはんの後、チェロはピアノとタタに昨日の夜の出来事を聞いてみました。

 やっぱり夢なんかじゃなくふたりともちゃんと覚えていました。

 そこでチェロはいいことを考えました。 

 今日は教会のバザーがあります。

 昨日ブルさんが荷車いっぱいにもらってきたたくさんのごちそうをどうしようかって話をして、教会に寄付しようということになったのです。もちろんタタの了解もとってあります。

 いろんな人がたくさんくるはずですから、昨日のように街の人たちにも聞いてみようと思ったのです。

 朝ごはんの後、いそいで着替えたチェロは紙とクレヨンを持ち出してゴシゴシなにか描きはじめました。



 バザー会場には一際目立つチェロのブースでした。

 ビックリするほど大きな新巻鮭や酒樽がどんどん並んでいます。

 その一番前には岩みたいなハムがドーンと置かれて、その前に可愛いポスターが張られていました。


『ふしぎおさめ』

ことしの年おくりはふしぎなことがあるよ

おさめのみつかいが、ふくろにはいったちいさな白いつぶをまちのどこかにかくしたよ

みつけた人にはハムをプレゼント

だれがみつけるかな?

それから春のさがしかたってしってる?

しってる人はおしえてください



 その隣ではチェロとピアノとタタ。

 お手伝いに来てくれた聖騎士のサロンさんと冒険者のウルルさんもお客さんの対応にてんてこ舞いでした。


「へえ、御使いさまがねえ? そりゃイキなことをなさるもんだ」


「見つけたらこのハム丸ごともらえるの!?」


「はる~春ねえ・・・う~ん探して見つかるもんじゃあないだろうしねえ」


「そういやうちのばあちゃんの名前がハルだよ~! それじゃダメ?」


挿絵(By みてみん)


 たくさんの人たちがブースの前にきては声をかけていきます。

 大人たちはニコニコと嬉しそうに、子どもたちはハムを目当てに街中に駆けだしていきました。

 商品が目立つことと、二本足で立ってエプロンを付けたタタが珍しいのか周りには人がいっぱいです。

 でもやっぱりコレという話は出てきませんでした。

 それでも一生懸命売り子をしていると、チェロのクラスメイト、キツネの獣人ササノハちゃんがおめめを白黒させながらやってきました。

 

「チェロちゃん! この不思議な子はだれ?」


「え~っとえっと。キツネの国から遊びにきたの」


 タタが御遣い本人だってことは秘密にしておいた方がいいってウィンディさんがいったので、どうしようかとチェロのおめめはあっちこっち大忙しでした。


「キツネの国! おばあちゃんに聞いたことあるよ! すご~い! ねえキミお話聞かせて!」


 ササノハちゃんはタタに、「キュンク~ン」とキツネ語で話しかけました。

 タタは驚いたようでしたが、やはりキツネ語でなにか答えていました。

 しばらくふたりで話していた後、どういう流れになったのかササノハちゃんがタタの手を取って歩き出そうとしました。


 ふたりの様子をなんだかおもしろくなさそうにジト~っと見ていたピアノでしたが、慌ててふたりの間に割り込みます。


「らめらよ! タタちゃんはお手伝いすぅんらから!」


「え~。ちょっとデートするだけだよ~」


「らめ~! タタちゃんはピャーノのおとーとらもん。おねーちゃんがちゃんとみててあげるんらもん!」

 

 ピアノは両手をワッタワッタと上下に動かして、「めーっ!」ていいました。

「ちぇ~」っとふくれたササノハちゃんですが、なぜだかそのままブースを手伝うことになりました。



 ブースの商品は、街の商工会や冒険者組合の人たちがどんどん買ってくれて、お昼を過ぎるまでには全部売り切れてしまいました。

 あいにくコレといった話は聞けませんでしたが、たくさんの人たちが探してみるよといってくれました。なので少し様子見です。

 なのに夕方にはブルさんがまた荷車いっぱいに贈り物を持ってきて、ちょっぴり苦笑い。

 贈り物があるってことは昨日と同じように新しい手掛かりはつかめなかったってことですから・・・。



 その日の夜も人間に化けたタタは、今夜はその姿のままで過ごすことになりました。

 教会の神父さまにだけこっそり事情を話したら、男の子用の子供服を用意してくれたのです。

 古着でしたがチェロとピアノは早速タタに着せてキャーキャーいいながらコーディネイトを楽しみました。



 そして夜更けです。

 やっぱり今夜も目を覚ましたみんなは、さっそく上着を着こんで広場に向かいました。

 今夜も人の気配はなくて街はとても静かでしたが、広場には別の賑わいがザワザワと広がっていました。

 昨日のもじょもじょ達がもう待っていたのですが、それだけではありません。なんだかもっと大きな変なのたちもいて、ぎょっとするほどの数が集まっています。

 いくらなんでも多過ぎます。

 全員におむすびを配ろうと思ったら朝までかかっても無理です。

 どうしようかとお釜さんを見たチェロに、お釜さんはグッと親指を立てて見せました。


「大丈夫なの?」


 心配そうに胸の前で両手を組んだチェロの前で、お釜さんは体を反らせると昨日と同じように力み始めました。

 するとお釜さんはその場でどんどん大きくなっていったのです!

 チェロの膝くらいしかなかったのに、みるみるチェロの身長を追い越してあっという間に見上げる程の巨大お釜に早変わりしました。


「しご~い!」

「わああ・・・」


 ピアノもタタも目を丸くして見上げていましたが、それを得意げに見下ろしたお釜さんはモガモガと低い声で何やら言いました。


「?」


 首を傾げたチェロの袖を掴んで跳ねるピアノが通訳しました。


「あのね! カマちゃんがね、『それらけじゃないんらぜ~』って、いった!」


「え! なんだろ!?」


「なんらろ~! ね、タタちゃん!」


「うん。なんだろ~!」


 三人とも目をキラキラさせていると、お釜さんはやっぱり昨日と同じようにググ~っと膝を曲げてジワジワと熱くなっていきます。

 

「わ~!」


 すぐにそれを察した三人は、サッとお釜さんから離れて応援を始めました。


 ウンキー! フンキー!

「よいしょ! よいしょ!」


 ウンキ! フンキ! ウンキ! フンキ!

「えしょ! えしょ! えしょ! えしょ!」


 なにしろお釜さんはあんまりにも大きいのでスゴイ迫力です。

 もじょもじょたちも遠巻きにみんなで一緒に応援しました。

 ただ、今夜のお釜さんは一味違いました。

 一通りの屈伸運動が終わったかと思うと、今度はズシンズシンと四股を踏み始めたのです。

 高く上げた足を下ろすたびにビリンと広場が震えます。


 ズシン! ズシン!

「どすこ~い! どすこ~い!」


 みんなマネをしました。


 次にお釜さんは四股の合間にヒョコヒョコと踊りはじめました。

 重いステップを踏みながら、時々バレリーナのようにつま先立ちでクルンと回り、さらに蓋を押さえてのヘッドバンキングまで混じります。


「あはははは!」


 お釜さんのオンステージにみんなお腹を抱えて笑いました。

 みんなはその動きに合わせて、キャーキャーいいながら踊っていましたが、やがてお釜さんはゆっくりと動きを止めてドッスーンとあぐらをかいて座りました。

 満足そうに目を閉じてフムフムとうなずくと、大きな蓋をとって地面すれすれにチェロの前に差し出しました。


「乗れってことかな?」


 首をかしげたチェロにお釜さんはニッコリ笑いかけます。

 靴のままのぼっていいのか迷いましたが、思い切って蓋の上にのぼったチェロたちをそっと持ち上げます。

 お釜さんの上にはものすごい湯気がボーボー吹き上げていましたが、パタパタ払いながら中をのぞきこんだチェロたちは、思い切り声をあげてしまいました。


「すごーい!」

「おもちら~!」

「おもち!」


 お釜さんの中にはボ~ッテ~ンと、とっても大きな白いお餅がホカホカモカモカ丸まっていたのです。

 ですが喜んでいたのもつかの間。

 チェロは、「フ~ン」と腕を組んで考え込んでしまいました。

 おむすびを結ぶための用意はしてきましたが、こんな大きなおもちをどうすばいいのでしょう?


―― きなこもち、磯部もち、あんころもち・・・。っというかそれより、こんな大きなおもちをどうやって取り出せばいいのかな?


 その時、ブワン! と風が舞い。広場にドド~ンと大きなものが振って降りました。

 慌てて音の方を見たチェロの目線がミョミョミョ~ンと上に上がっていきます。

 ほぼ真上を向いたチェロが見たものはギラギラと銀色に光る、巨大な竜の頭でした。


「キャー!」


 慌ててピアノとタタをかばって蓋の上に伏せます。

 

「わわあ~!」

「どらごんら~!!!」


―― ドラゴン~?!


 あまりのことにチェロの頭はばくはつしてしまいそうでした。

 この世界に竜がいるってことは知っています。

 大人たちにも色々聞いていたし、学校でも習ったし、図鑑だって見たことあります。

 でも本物なんて見たことがありません!

 街の時計塔よりも大きくて、その口が開いたらお家ひとつパクっと丸のみできてしまいそうです。

 悪さをしないかぎり暴れたりしないって聞きましたが、こんな時間に子どもだけでお外に出ている自分たちはどうなってしまうのでしょう?

 悪い子だ! って食べられてしまうかもしれません。


 ドラゴンはズドン、ズドンと地響きを立てて近づき、グーッとチェロたちを覗き込みました。

 その顔は、まだ随分上にあるのに、大きなギョロリとした瞳までハッキリ見えます。

 チェロはふたりを抱きかかえたまま震えあがりました。

 タタがチェロの腕の中にキューっと身を縮めるのがわかりました、ですがピアノはポカーンと口を開けて一生懸命首を反らせています。


「わ~、しゅごいねえ。ピャーノはじめてみた~! どらごんおっきいね~!」


 その声に反応したドラゴンは長い首を曲げてググーンと顔を寄せました。

 ギラリとしたオレンジ色の瞳にも、顔中の鱗にもチェロたちの姿が映るのが見える程でした。

 チェロは全身の力を込めてピアノとタタを抱きしめました。

 ですが、怖がるチェロを見て、ドラゴンの口の端がにゅうっと上に上がりました。

 なんと竜はニッコリ笑ったのです。


『恐れることはない人の子らよ』


 不思議な声が聞こえました。

 直接聞こえるような、頭の中に響くような。

 どこで聞こえているのかはっきりしない声です。

 

『我の使いの者がな、おもしろいものがあるというのでチョイと見に来たまでよ。それより難儀をしているのではないか? 我が手を貸してやろう』


 そういうとドラゴンは、鋭い爪の生えた大きな手をお釜さんに近づけました。おもちを出してくれるみたいです。

 その意思がわかったチェロは、ハッと息を飲みました。


「だめー!」


 思わず大声で叫んでしまいました。


 ピアノもタタも、そして銀色の竜さえも驚いた顔でチェロを見ました。

 その視線の中、フルフルと膝立ちで身を起こしたチェロはギュッと両手を握り締めました。

 まだちょっと怖いけれどこれは譲れません。

 竜は親切で言ってくれたのもわかりましたがやっぱり譲れません。

 

「お手々洗ってからー!」


 大声を出したチェロは、ムムッと竜を見上げて鼻から、「フンム!」と気合の息を吐きました。

 

 手を洗わずに食べものに触るだなんて絶対に許せないチェロでした。

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