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迷宮〔あな〕のせんたく屋さん (童話バージョン)  作者: 弥竹 八
子きつねタタ  〔スライム・ワールド番外編〕  
11/18

めそめそプレゼント

 ちゅん。


 ちゅん、ちゅん。


 元気なすずめの声を聞いてチェロは、


―― 今日の朝はきっとさむいね・・。


 と、目を閉じたまま、まどろみのボンヤリの中で思いました。


 寒い朝ほどすずめたちの声が澄んで聞こえるのです。


 朝が来たようです。


―― ・・・あさ・・・・!


 バチン!と音が鳴る勢いで目を開いたチェロは、慌ててぐるりとうつ伏せに体をねじりました。

 その勢いで隣に寝ていたピアノは目を覚まし、パチリパチリと大きな目を瞬くと、ニコ~っとゆっくり笑います。


「ちぇおちゃんおはよー・・」


 大人用のおっきなベッドで手を繋ぎながら一緒に眠っていたので起してしまうのも無理はありませんでしたが、それどころではなかったのです。


 ごそごそと起きだしたベッドのヘッドボードにはピアノのお母さん、ピアニカさんが作ってくれた大きな靴下が吊るしてありました。


 その靴下が、チェロの方はちょっこり、ピアノの方はもっこり膨らんでいます。


「ピアノちゃん! プレゼント! プレゼント入ってるよ!」


 その瞬間、ピアノもカッと目を開きます。


「そうらった! プぇジェントの日ら!」

 朝の冷え込みも忘れて布団を跳ね除けると、さっそく大きな靴下を抱え顔を合わせてニッコリ笑います。


 チェロの靴下に入っていたのは、リボンつきの花柄の包装紙に包まれた平たい箱でした。

 わくわくしながらも包みを破かないよう丁寧にはがします。


 ピアノはさっさと靴下をひっくり返すと出てきた白いもこもこを抱え上げました。


「わんわん!」


 それはおでこにリボンを巻いた真っ白なぬいぐるみでした。


「んんふ~」


 嬉しそうにぎゅっと抱きしめます。


 その姿をニコニコ笑って見ていたチェロでしたが、手にした包装紙から出てきたのはテカテカした布を張ったなんだかすごそうな箱でした。

 わくわくしながら上下の合わせになった箱を開けてみたチェロは・・・ちょっとがっかりしてしまいました。


 中にも布の張られた箱の中身は、白い石でできた花の髪飾りがふたつ。きちんとくぼみに収められてなんだか仰々しい構えでした。

 石の花もずいぶんと精巧な作りですごくキレイです。

 ですが・・。

 チェロには全然ピンときませんでした。どうにもシックで大人っぽ過ぎるのです。もっと可愛いものが欲しかったのです。


「う~ん・・・」


 これまで「年送りのお祭り」にもらったプレゼントは必ず欲しいものを贈ってもらえました。なのでチェロにとってははじめてのハズレです。


―― 大きくなったら使えるかな?


 溜息をつきそうになるところを、それでもチェロは小さな声で、「ありがとうございます」とペコリと頭を下げ、箱を閉じました。


 それにひきかえピアノは嬉しそうです。

 にこにこしながら胸に抱いたぬいぐるみを撫でています。


 ですが・・・


「わあ!」


 急にピアノが素っ頓狂な声を上げました。


 びっくりしたチェロでしたが、ピアノを見てさらにびっくりしました。


 白いぬいぐるみがピアノの手の中でなんだか遠慮がちにごそごそ動いているのです。


「ええっ!」


 チェロも思わず声を出していました。


 ぬいぐるみはゆっくりピアノの腕の中から這い出るとおどろくふたりに目をやり、ベッドの上にちょんと正座しました。

 そしてペコリと頭を下げます。


「うごいた! ねーぐぅみ、うごいたよ、ちぇおちゃん!」


 ほああっと目を見張るピアノですが、チェロも一緒に目をまんまるにしてぬいぐるみを見つめます。

 

 ぬいぐるみはなんだか恐縮するようにおとなしくふたりの様子を見ていましたが、やがて小さな声でキューンキューンと鳴き始めました。


 その様子にチェロもピアノも顔を見合わせましたが、ぬいぐるみはとても小さくてかわいかったので、びっくりさせないようにそっとベッドの上を這いよりました。


 近づいてきたふたりにぬいぐるみの方も少し緊張したようでしたが、我慢してジッとしているのが伝わってきてチェロはその手にそっと触れてみました。


 ちっちゃくてやわらかいその手は、ぬいぐるみの手よりずっとあったかです。それにちゃんと硬い爪も生えています。


「ピアノちゃん、このコぬいぐみじゃなくて本物だよ。でも・・」


「やった~! ピャーノのいもーとにすぅ~!」


 ピアノも正座したままベッドの上でピョンピョン跳ねました。そしてぬいぐるみみたいなそれをさっと捕まえると、抱きしめて頬ずりしました。


「う~ん」


 チェロは首を傾げました。


 本物なのはいいにしても、正座して頭を下げる犬なんて聞いたこともありません。というか本当に犬なのでしょうか? 


「なあ~あ」


 ベッドの傍らに眠っていたベジ・キャットのベジタローがいつの間にかムックリ頭を上げて長い声で鳴きました。


「ベジ?」


「んな~~ん?」


 ピアノの腕の中の犬みたいなのはその声にはっとしたように、「きゅんきゅん!」と鳴きます。

 そしてまた思慮を感じさせる動作でピアノの手から逃れると、なんとベッドの上を二本足でトコトコ歩き、ベジタローの前まで行きました。


「なお?」


「んきゅ~ん・・」


 なんだかお話しているみたいにベジタローとぬいぐるみ犬は少しの間、ナオマオ、ンキュンキュいっていましたが、やがてベジタローがぬいぐるみ犬の肩越しにチェロに向かって、「んなお~ん」と鳴きました。


「ごめんねベジ~、わからない~」


 チェロは困って顔をしかめました。

 何かいっているのはよくわかりますが、何をいっているのかさっぱりです。


 ベジタローは少し首を傾げて、「にゃお・・」といいました。

「まあ、そうだよね」って言った気がしましたがそこだけわかっても仕方ありません。


 白いぬいぐるみ犬は、ベジタローとチェロとピアノの間をキョロキョロしていましたが、突然、ハッと尖った耳とふわふわの尻尾を高く尖らせました。

 両手でしきりに胸の辺りを探り、首の周りに手をまわしています。

 さらにはすごく慌てた様子でベッドやチェロとピアノの周りをパタパタ駆け回りました。

 やがてぺたんと膝をつき、がっくりと頭を垂れてフルフルと肩を震わせたかと思うと天に向かって大声で泣きはじめました。


「え?え?」


「らいじょーぶらよ、泣かなくていいよ! ほあ、いいコいいコ」


 混乱するチェロをおいて、ピアノはさっそくおねえさんぶりを発揮しぬいぐるみ犬をやさしく抱きしめて背中を撫ぜはじめます。

 ですが、ぬいぐるみ犬は泣き止みません。

 大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、きゅんきゅん、くんくん泣くばかりです。


 チェロは胸にぐっと迫ってくるものに引っぱられて思わずもらい泣きしそうになりましたが、ベジタローの大きな頭を抱き寄せてガマンました。


 きっとなにか大事なことがあるのでしょう。

 お話を聞いてあげたいのにこんな時に限ってピアニカさんがいません。

 ピアニカさんは、動物とお話でできる「通訳」なのできっとこのコの話もわかるはずなのですが、今朝早くお仕事に出かけてしまったはずなのです。


 チェロは、抱き寄せたベジタローの頭の横に顔を埋めながら、「どうしよう・・」と考えました。


 ピアニカさんの他に動物とお話できる人なんて知りません。

 でも、なんとか助けてあげたいと思ったチェロは、そっと部屋を抜け出して台所に下りていきました。

 ストーブに火をいれて、ミルク壷から小鍋に牛乳をそそぎます。


 年送りのプレゼントに生き物を贈られるなんて聞いたことがありませんが、ピアノといっしょにいるとなんだかいろいろと不思議なことが起こるのでそういうこともあるのかもしれませんし、おまけに困っているのならどうにかしてあげたいと思いました。

 

 この季節、置いているだけでヒエヒエになってしまう牛乳をあまり熱くならないように気をつけながら、チェロは力になってくれそうな人をあれこれ思い出していました。

 そして・・・


「あ! ブルさん!」


 冒険者のブルさんのことを思い出しました。

 犬の獣人のブルさんは、犬とならお話できるっていっていたのです。


 チェロは足をパタパタさせながら、それでも手元はしっかり注意してほんのり温もった牛乳を深皿に移すと二階のピアノに大きな声で呼びかけました。

 

 



 


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