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2015年/短編まとめ

恋のエンゼル

作者: 文崎 美生

コンビニの袋に入ったままだったお菓子を取り出して、透明の包みを剥がした。

ペリペリと音を立てて剥がれたそれを、コンビニの袋に入れてから全ての蓋を開ける。

お目当てのそれは直ぐに見付かった。


「うわ、また食べてるの?」


幼馴染みで大切な友人が、私の机の上を見て顔を歪めた。

綺麗に整った顔が歪むのは見ていて微妙な気持になる。


チョコボールを食べ始めてもう二週間。

毎日のおやつはチョコボールと決めていた。

日によって食べる量は違うけれど、少なくても一箱は食べ切ってしまう。

多い日には五箱は余裕。


飽きないのかと言われれば飽きる。

一応チョコボールってやつは、基本として三種類の味があるけれど飽きる。

二週間も食べていればそりゃあ飽きるだろう。

因みに味はピーナッツ、キャラメル、いちごがある。

私のお気に入りはキャラメルだ。


「銀のエンゼルが本日で五つ目になりましたよ」


ドヤ顔でそう言いながら、筆箱の中に大切に入れていた銀のエンゼルを四枚取り出す。

もう一枚は今日買ってきた新しいチョコボールについたまま。

キャラメル味に感謝だ。


「……それ、どうするの」


「え、おもちゃのカンヅメになるんじゃないの?」


真顔で言えば彼女の眉が寄る。

そう言う事じゃない、とでも言いたげな顔。

今はおもちゃのカンヅメだけじゃなくて、開かずのカンヅメに移行しつつあるらしいけど。

どの道中身が気になっているのは言うまでもない。


まぁ、本当の理由はおもちゃのカンヅメや開かずのカンヅメが欲しいからって訳じゃない。

……欲しいけど。

それよりも大切なことがある。


「因みに、金のエンゼルもいる」


そう言ってもう一枚取り出して見せれば、彼女は目を丸めてから眉を下げて笑った。




***




「今日も精が出ますね、お兄さん」


クスッ、と笑いながらフェンス越しに声をかければ、彼は弾かれたように振り返る。

サラサラの色素の薄い茶色の髪が揺れて、同じ色の瞳が私を映す。


「同い年だけどな」


苦笑を見せる彼に私も笑顔を向けた。

スポーツサングラス越しに薄い色素の瞳を細められると、何だかふわふわと足元が浮き立つ。

だから口元が自然と緩んで嬉しくなって、自然と笑顔を向けてしまうのだ。


泥と汗にまみれたユニホームに、どこまでも響く掛け声が、部活生ですと言っていた。

存在そのものが青春なんだと見せ付ける。


「カズくんは、チョコボールって好き?」


只今休憩中、という雰囲気を出しているからきっと休憩中なんだろうと思って声をかけた。

じゃなかったら、彼の目には柔らかな光は宿らないはずだから。


マネージャーさん辺りが作ったのであろうスポーツドリンク片手に、んー?と不思議そうに首を捻った彼はしばらく私の顔を見てから緩く首を振る。

否定、でも強くない否定。

好きじゃない、でも嫌いなんじゃなくて苦手なだけ。

そういう意味合いの否定。


「最近よく食ってるもんな」


「うん。でも、今日で終わり」


「飽きたの?」


「それもあるけど、そうじゃないかな」


肩に引っ掛けていた黒い革のスクールバッグから、可愛げの無い茶封筒を取り出す。

それの中身を隅っこに振り落としてから、小さく畳んでフェンス越しでも彼に渡せるようにした。


彼は不思議そうに私の行動を見ている。

そして「どうぞ」と小さくなった茶封筒を差し出せば、フェンス越しに手を伸ばしてそれを摘む。

部員含め見学している他の生徒からの視線が、チクチクと刺さっているような気がしなくもない。


そんな視線を感じていないように彼は「開けていいの?」と私に問う。

こくこく、と首を縦に数回振れば彼は、私が小さく折り畳んだ茶封筒を開いていく。

そんな光景を見て私は口元に小さく笑みを浮かべた。


「うお!金のエンゼルも銀のエンゼルもコンプリートしてるのかよ……」


「どやぁ」


素直に驚いた顔をしている彼に、効果音付きでドヤ顔を披露しておく。

この為だけにひたすら二週間もチョコボールを食べ続けたのだ。

虫歯になりそうで恐ろしかったので、毎日しっかりと歯磨きをするようになった。


取り敢えず驚いてくれたので、私は満足だ。

大大大満足。

だから今日はもう帰ろう。

「目的を達成したんで、今日は塩気のあるお菓子を買って帰りますかな」と言いながら、鞄のチャックを閉める。


彼が「帰るの?」なんて聞くから「帰りますとも」と頷いて見せた。

それから笑って手を振る。

彼も笑って手を振った。


だけどそれから直ぐに私の背中に声が投げられる。

銀のエンゼルに気持ちを託して。

金のエンゼルに愛を込めて。

『アイシテル』と『♡』なんて酷くベタ。


でもさ、ほら、確率が低いだけあって何だか凄くロマンがあるじゃない。

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