表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

砂の少女

作者: 宮森透

 少女のからだは空中分解し、砂となって、地面になげだされた。

 わたしはびっくりして、口をあんぐりとあけてしまったまま、数秒、その場に縫いつけられたように立ちつくしていた。

 信号機が赤から青にかわったのを合図として、わたしの意識もすとんと現実にもどされた。

「かるまちゃん!」

 道路に車の影はまったくない。ただ、もとはわたしとおなじようなかたちをしていた砂が、そこにひろがっているだけだ。

 踏んづけてはいけないと思った。少女の肉体は、こんなさらさらな状態になっていても、まだ生きつづけている。語りかけてみれば、すなおに返事がもらえそうだった。そのくらいなんでもないように、少女はかたちをかえて横たわっていた。

「かるまちゃん、だいじょうぶ?」

 期待とは裏腹に、少女から返事はなかった。もうほんとうの砂になってしまったのだろうか。

 信号はとっくに赤色になっている。車は姿をみせない。おおきな通りなのにおかしいなと思いながらも、わたしの考えはすべて砂になった少女にむいていた。

 手のひらだけじゃない、肩からさきを全部つかうようにして、わたしは必死になって砂をかきあつめる。不自然なくらいさらさらとした砂は、うすく広がったものをすべて一か所にあつめると、それはそれはすごい量になった。

「どこにいるの?」

 砂山に声をかけても、返事はなかった。

 砂をひとつまみして、左の手のひらにぱらぱらと落としてみた。

「あなたがかるまちゃん?」

 やっぱり返事なし。手のひらの砂は少女じゃない。わたしは振りむいて、その砂を放りなげた。

「じゃあ、あなたがかるまちゃん、ちがう?」

 すこしの沈黙があって、次のひとつまみもうしろに放りなげた。やっぱり、この砂も少女じゃない。

 そんなことを何時間もくりかえしてしていると、とうとう、砂山はひとつまみの砂をのこすだけとなってしまった。

「これでさいごだわ。あなたがかるまちゃんだったのね」

 少女は、そうよ、と返事をした。

 わたしはにっこりと笑ってみせ、その少女のからだを、すすすっと流すようにポケットにしまった。

「かえりましょうか」

 一歩踏みだすと、ちょうど信号が青から赤にかわった。きょう何度目かわからない赤信号だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ