砂の少女
少女のからだは空中分解し、砂となって、地面になげだされた。
わたしはびっくりして、口をあんぐりとあけてしまったまま、数秒、その場に縫いつけられたように立ちつくしていた。
信号機が赤から青にかわったのを合図として、わたしの意識もすとんと現実にもどされた。
「かるまちゃん!」
道路に車の影はまったくない。ただ、もとはわたしとおなじようなかたちをしていた砂が、そこにひろがっているだけだ。
踏んづけてはいけないと思った。少女の肉体は、こんなさらさらな状態になっていても、まだ生きつづけている。語りかけてみれば、すなおに返事がもらえそうだった。そのくらいなんでもないように、少女はかたちをかえて横たわっていた。
「かるまちゃん、だいじょうぶ?」
期待とは裏腹に、少女から返事はなかった。もうほんとうの砂になってしまったのだろうか。
信号はとっくに赤色になっている。車は姿をみせない。おおきな通りなのにおかしいなと思いながらも、わたしの考えはすべて砂になった少女にむいていた。
手のひらだけじゃない、肩からさきを全部つかうようにして、わたしは必死になって砂をかきあつめる。不自然なくらいさらさらとした砂は、うすく広がったものをすべて一か所にあつめると、それはそれはすごい量になった。
「どこにいるの?」
砂山に声をかけても、返事はなかった。
砂をひとつまみして、左の手のひらにぱらぱらと落としてみた。
「あなたがかるまちゃん?」
やっぱり返事なし。手のひらの砂は少女じゃない。わたしは振りむいて、その砂を放りなげた。
「じゃあ、あなたがかるまちゃん、ちがう?」
すこしの沈黙があって、次のひとつまみもうしろに放りなげた。やっぱり、この砂も少女じゃない。
そんなことを何時間もくりかえしてしていると、とうとう、砂山はひとつまみの砂をのこすだけとなってしまった。
「これでさいごだわ。あなたがかるまちゃんだったのね」
少女は、そうよ、と返事をした。
わたしはにっこりと笑ってみせ、その少女のからだを、すすすっと流すようにポケットにしまった。
「かえりましょうか」
一歩踏みだすと、ちょうど信号が青から赤にかわった。きょう何度目かわからない赤信号だった。