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冒険者集う街・ゼナンのこぼれ話

お疲れ気味の神官、コーサ・ジョウゾウの休日

作者: 菊華 伴

「先日は、ご迷惑おかけしました」

「ん」

 とある晴れた日。ヤオヨロズ教の神殿で、白い髪の女性が黄緑色の髪をした青年に頭を下げた。白い髪の女性はカミィユ・ナーザだ。彼女は先日お礼参りをした際の事を謝りに来ていた。

「カミィユは、何も悪くない。……アイツらの方が問題だろう?」

「コーサさん……」

 そう、穏やかに言った青年は、身長は200cm程もあった。日に焼けた体は逞しい、されどその金色の目は穏やかで、どこか大木を思わせる。カミィユ・ナーザはこの青年に感謝を覚えていた。

 コーサ・ジョウゾウは山間の村で生まれ育った。幼い頃酒の神から信託を受けた為神官見習いとなり、あれよあれよと司祭補佐の地位までになった。また、『竜人化』という能力を持つ冒険者でもあり、カミィユと何度か依頼を受けた仲でもあった。

 現在は故郷がある山を離れ、このゼナンの街にあるヤオヨロズ教の神殿で働きながらも冒険者として活動している。神官ではあるが、徒手空拳を得意としているため僧兵モンクでもある。


 この世界の僧兵は、基本、武器=己の体である。ガードのために手甲をつける事はあるが、基本的に武器は所持しない。最近では武器を使用する神官戦士の方が多いのでごっちゃにされやすいが、嘗ては武器の使用を認められなかった場所などでの護衛や、街中での活動などで大活躍していた。

 また、コーサは酒の神の力も使う事が出来る。その気になれば空を飛んでいるドラゴンを酔っ払わせて墜落させダメージを与える事も可能かもしれない。


「ま、いやな事は忘れるに限るね。たまには一緒にご飯でも食べようじゃないか」

 そう言ってコーサは近くに新しく出来た食堂があるから、カミィユを神殿から連れ出した。

 並んで歩くと、女性としては背がそこそこ高いカミィユでも、低く見える。コーサは背が高いし、逞しいのでよりそう見える事だろう。

(?)

 ふと、立ち止まり不思議そうな顔で辺りを見渡すコーサ。カミィユはそんな様子に首を傾げる。

「コーサさん、どうしました?」

「いや、妙に騒がしいと思ってさ」

 彼の言うとおり、少しざわついているように思えたカミィユは、それに片眉を上げる。2人はちょっと耳を済ませ、人々が話す内容に表情を険しくした。

「サイクロプス退治の失敗……ですか」

「多分例の、だろう」

 コーサはちらり、と山のほうを見た。ゼナンは比較的国境に近い街であり、北の方にいけば隣国との玄関口である関所があった。

 しかし、その近くにある谷、ホシロにサイクロプスが住み着き、通して欲しくば通行税として若い娘が欲しいと言っているそうだ。噂では討伐に出た冒険者のうち2、3人が食べられたらしいが、真実は定かではない。現に1度目の討伐に出た冒険者5人のうち、2人しか帰ってきていないのだ。戻ってこなかった3人は若い娘であった事も、噂に拍車をかけていた。

 カミィユもコーサも念の為動向を見守っていたのだが、どうやら3度目の討伐も失敗に終わったらしい。2人は顔を見合わせて溜息をついた。

「ギルドに行ってみるか?」

「そうしましょう。……案外、私が役に立つかもしれない」

 カミィユが自嘲的な笑みを浮かべると、コーサが厳しい眼差しを向けて頭に軽く拳骨を落とす。顔をしかめる彼女に、コーサはきっぱりと

「その能力のことを言うな。お前を無駄死にさせたくない」

 と言われてしまった。彼女が自分の超再生能力で囮など危険な事に及ぼうとしているのではないか、と思ったのだ。彼女の能力は実を言うと長い間出た事の無い能力で、わからないこともある。それ故、よけいに死なせたくないという思いがあった。


 2人が冒険者ギルドに行くと、丁度3度目のサイクロプス討伐の記録が閲覧できる状態になっていた。それには長蛇の列が出来ており、依頼が張り出される掲示板を見ると、既に4度目となるサイクロプス討伐依頼が出ていた。

「討伐に出たメンバーの殆どが大怪我だそうな」

「大人数で作戦組んで叩いたほうがいいんですけどねぇ」

 コーサとカミィユは討伐依頼に添付された地図を見て眉間に皺を寄せた。そこにはどうやら結界があるらしく、一定人数以上のニンゲンが来ると追い返されるらしい。

「騎士団が討伐隊を出した際、結界に阻まれて隣国の街アウスラまで飛ばされたらしい。アウスラの方からも冒険者が来ているようだけど、結果は芳しくないそうだ」

 参考資料として添付された情報を読みながら、コーサは真面目な顔で付け加える。

「これはちょいと骨が折れそうだが……行こうかな」

 コーサ曰く、最近は神殿での仕事などで追われていて依頼を受けていなかったそうだ。カミィユに「どうする?」と問うと、彼女もまた1つ肯いて受ける意思を見せる。

「他の人で受けるって言っている人は?」

「今、丁度腕利きの連中が怪我しているか、遠出の依頼を受けているかであんましいないっぽいな」

 コーサが待っている間に聞き込みした事を伝え、肩をすくめていると……一人の少年と目が合った。その少年は2人に「こんにちわ~」と軽く挨拶し、カミィユににっこりわらった。

「貴女、噂のカミィユさんですよね? いやぁ、なっかなかの美人だなぁ!」

「いきなり何をいうんだ」

 カミィユが苦笑していると、その少年は憮然として「こんな美人を避けたりするなんて、絶対損しているよなー」なんていう。面白い人だな、と思っていると、コーサが少年の腰に下がった剣を見てふむ、と唸った。

「神剣……って事はヴァルター・ローか?」

「そうですよ、僧兵殿」

 少年、ヴァルターの言葉にコーサはこめかみをもみながら「頼れる奴だけど人柄がなぁ」と悩む。しかし、腕利きの冒険者が少ない今、なんともいえないのが現状である。

「兎も角、後数名必要ですし待ちますか……?」

 カミィユがそう言って辺りを見渡していると、1人の青年を見て苦々しい顔をした。その青年はというと、申し訳なさそうな顔でカミィユに一礼する。黙って見合う2人。コーサが何となく2人の間に因縁があるのだなぁ、と思っていると、猫耳の女の子が近づいてくる。

「あの、まだ空いてます? サイクロプス退治に出陣希望なんですけど……」

「いや、君が受けたいっていうのなら5人目だから丁度良いけど」

 コーサがそういえば、彼女は「よろしくおねがいします」と頭を下げる。あっという間に集まったメンバーを見つつコーサは、このメンバーならどうにかなるかもな、と何となくの直感でおもうのだった。


 (終)

 

 



とりあえず、短編でぼちぼち。

読んでいただき有難うございました。

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