5 ヨーコの悩み
今回はヨーコの現代人としての苦悩です。
ちょこっとフラグも立ててます。
ヨーコの人物鑑定日記
アタシがこれまでに出会ったエルの人間について≪能力測定≫した結果をまとめよう。
アタシはベッドの上に寝転がり、ポーチから何枚もの紙切れを取り出して1枚1枚確認していった。
【サラ】
体力:C
技術:B ≪風見の構え≫の補正有
魔力:F ≪忌み子≫の補正有
経験:C
知識:B ≪察言観色≫の補正有
う~ん≪察言観色≫の意味が解らない。四字熟語は苦手…。ホントに魔力が全然ないんだ。なのにけっこうスキルを使っている気がする…。燃費がいいのかな?素直で健気で一途で完璧すぎるし。
【フォン】
体力:A 種族補正・部族補正有
技術:B ≪短弓速射≫の補正有
≪長弓確射≫の補正有
魔力:C
経験:D
知識:C
げ!!かなりの脳筋系女子なんだ。てか体力Aって…。エ、エルの体力…持つかしら?……やだ、何考えてんだろ?…でもあのスイカのような胸…。ホントに羨ましい。
【エフィルディス】
体力:B ≪長命≫の補正有
技術:C
魔力:AA 種族補正有
経験:E
知識:E ≪3拍子のそろった姫≫の補正有
へ、へえ…エルフって長生きするから体力あるんだ。でも、あの子すぐ「疲れた!」て言ってるけど、それって嘘なのかな。それにこの無駄な魔力AAが正直気持ち悪い…。
【ベラ】
体力:D
技術:C
魔力:D
経験:C
知識:B
知識が意外と高い。まあ、アタシと違って冷静な子だし。でも、もう一つぐらい取り柄があったほうがいいかも。
【ウルチ】
体力:E ≪精神分裂≫の補正有
技術:B 部族補正有
魔力:B 部族補正有
経験:E
知識:E
【ウルチ】(竜戦士化状態)
体力:A ≪竜戦士化≫の補正有
技術:A ≪竜戦士化≫の補正有
魔力:A ≪竜戦士化≫の補正有
経験:E
知識:E
この子は偏り過ぎね。…まあ、今まで閉じこもってたからしょうがないけど。でも≪竜戦士化≫を発動させたらまさに戦士って感じよね。でも時間制限があるのが残念。
【カミラ】
体力:D
技術:D
魔力:A 種族補正有
経験:B
知識:C
何気に経験値が高いのが気になるわ…。あの子エルとどんなエッ…。ダメよ。気にしちゃアタシの負けだわ。あと魔人族は基本的に魔力が高いのかな?でも血と精を吸わないといけないのがちょっと怖い…。
【アンネローゼ】(封印時)
体力:C ≪種族封印≫の補正有
技術:C ≪種族封印≫の補正有
魔力:D ≪種族封印≫の補正有
経験:D
知識:D
【アンネローゼ】(封印解除時)
体力:A 部族補正有
技術:AA ≪十槍≫の補正有
魔力:A 種族補正有
経験:D
知識:D
種族のチカラを封印されると普通すぎる能力なのね。この子にはあまり無理はさせられないわ。でも封印解除したらすごい!エルはこの子に余裕の勝利をしたの?あいつ…ほんとに人外だわ。この子の能力でも十分強いのに。
【マグナール】
体力:B
技術:C
魔力:C
経験:A
知識:B
結構強い人だったんだ…。経験値がハンパないし…。ナヴィスさんの下でそうとういろんなことをしてきたんだね。
【エイミー】
体力:C
技術:C
魔力:C
経験:B
知識:B
マグナールさんとの付き合いも長いらしいし、経験値が高い…。でも、そんなことよりも旦那さんに愛されてるのが羨ましい。アタシもいつかエルと…。
【ライラ・バジル】
体力:D
技術:D
魔力:C
経験:C
知識:B
…商人だけあって知識は高いんだけど、やっぱりその他は普通の人なんだね。…でもこの人もエルに好意を持ってる気がする。…なんか人の好き嫌いが見えるスキルとかないのかな?
【ナヴィス・ザックウォート】
体力:D
技術:B
魔力:B
経験:AA
知識:A
はい?…この人、絶対ただの商人じゃないわ。何この経験の高さ。たかが商人でこんな経験は得られないわ。どうしよう?エルに言った方がいいかな?でも逆に勝手に鑑定するなって怒られるかも。
【アリア】
体力:C
技術:C
魔力:D
経験:C
知識:C
貴族の台所を統括していた執事としては、経験と知識が低いのよね。だからファティナ様が修業名目でエルに随行するようにって…。あの子も時々エルを赤い顔して見つめてるからなぁ。
【ファティナ・マリネール】
体力:C
技術:B
魔力:C
経験:C
知識:B
新興の貴族様って聞いてるけど、その前は何やってたのかしら。なんか王太子時代の側近の一人って聞いてるけど…。若すぎるのよね。…ひょっとして愛人?…やだ、何考えてんだろ?
【ロフト】
体力:AA 種族部族補正有り
技術:A
魔力:B
経験:AA ≪獅子王の子孫≫の補正有り
知識:C
アタシが視た中でダントツトップの能力だわ。流石獣人族って感じ。それにやっぱり初代獣人族王の子孫だからいろいろ固有スキルをもっていそう。…≪鑑定≫したいわ。
【カーテリーナ】
体力:B 部族補正有
技術:A
魔力:A 種族補正有
経験:C
知識:B
流石、戦乙女族の元族長なだけあって、全体的に能力が高い。というか高すぎるわ!…でも経験の低さがあの混乱を招いたと言ってもいいかも。
【ヘリヤ】
体力:C
技術:C
魔力:C
経験:B
知識:A
苦労されている分、知識と経験が高いね…。でもこの人はアタシ好きになれない。だってエルが…。
こうやって視ると、エルに関わっているヒトって偏っている人が多いわ。…でもどんなに強くても、例えAAAの能力を持っていたとしても、エルの足元にも及ばない…。いったいアタシ達“この世ならざる者”とはいったいなんなんだろう?
例え、名を挙げてそのペナルティとして力を与えられたとしても、その力を別の事に使ってしまったら…?
アタシは怖い。
一人になるのが怖い。
エルほどでないにしても、アタシにも“人外の力”があって、その力を持て余してしまうときがある。自分の力がどれほどのものか試したくなる時もある。
エルはそんな時どうしてるのだろう?
アタシは…エルが側に居て欲しい。
「ん?どうした?」
やだ!エルがお風呂から戻ってきた!急いでこのまとめ資料を片付けないと!
「ん?なにこれ?」
きゃあ!見ないで!
……み、見られちゃった…。
怒られる…。
エルは紙に書かれた、能力測定結果を見てため息をついてこっちにやってきた。
「次からは俺に言ってからやってね。」
「はい…。」
アタシはシュンとして返事した。エルは怒らずにやさしく抱きしめてくれた。そしてアタシを慰めるかのようにキスを…。
アタシは拒むことはできずにそれを受け入れた。
優しい人。
アタシだけにその優しさを向けてくれるのなら、どんなに気が楽か…。
この世界の人はハーレムに対して抵抗感がないのかもしれないけれど…アタシは他の子がエルの優しさを受け入れてるのを見ると…苦しい。
アタシはエルのキスを受け入れながら、泣いてしまった。エルは唇を離すと、指でアタシの涙をやさしく拭く。
「…ヨーコにはいつも苦労させてるな。前世の記憶を持つお前には……やっぱりハーレムは辛いか?」
アタシは首を振った。
なんでだろう?なんでこの人はアタシが考えてることがわかっちゃうんだろう?
アタシはエルの首に手を回し、もう一度唇を……。
「あ~!ずるい!主~!今日はウチと一緒の日なのに~!」
アタシはエルと目を合わせた。エルは気恥ずかしそうにアタシから視線を逸らした。
時折見せる可愛らしい仕草は、妙に可愛くてアタシの心を満たしてくれる。
「…いってらっしゃい。アタシは大丈夫よ。」
エルの身体を反転させ、扉のまえで喚くカミラに向かって背中を押す。
「ちょ、ちょっと!ヨーコ!俺的にはこのままヨーコと…。」
「ダメよ。夜のお勤めは、均等に平等に!…そう決めたでしょ。」
「何いってんの?決めたのはオタクらが勝手に決めたんであって、そこに俺の意志は…」
「主~…。サラ姉とヨーコ様が決めたコトに文句を言ってはダメです。」
「いや…でも!」
「じゃ、このままここでウチとヨーコ様と3人で仲良くする?」
「嫌よ!」
アタシは即答した。エルが他の女の子と…してる姿なんか見たくない。
「大丈夫~!ウチは平気だし~。」
性に対して天真爛漫な夢魔族が羨ましい。アタシは、二人を追い出そうと一歩進んだところで…。
「ふにゃ!?」
突然カミラが膝を折り曲げて後ろに倒れ込んだ。倒れたカミラの鼻にフックを掛け、フックについた紐が部屋の外から引っ張られた。
「痛い!痛い!痛い!」
カミラが必死に鼻フックに掴まり痛みを和らげようともがきながら部屋の外に消えていった。
呆然とする二人をあざ笑うようにエフィが顔を出して、憎たらしい笑顔を見せた。
「臨機に対応できない妹の躾は姉である妾の役目。…ヨーコ様、今日のカミラの分はヨーコ様にお譲りします。」
エフィの申し出にアタシは戸惑った。どう返事しても恥ずかしい。
「…じゃ、エル、カミラはお仕置きするから、ヨーコ様にと思うたが、ご遠慮されるようじゃ。ここは妾がお相手する故…。」
「そ、それはまだ駄目!」
慌ててアタシはエフィを制したけど、どうしよう。もうアタシが今晩の相手をするしか選択肢がなくなっちゃった。
こんな時、エルは全員に対して同じ優しさを見せる。
エルは扉の前で鼻フックを引っ張って楽しんでいるエフィを軽く窘め、優しくキスをする。エフィちゃんはキスされることに慣れてないみたいで、フリーズしちゃった。
今度は床でのたうち回ってるカミラを抱き起してお姫様抱っこのまま、奴隷部屋へ。これだけでもカミラちゃんはご満悦で首筋に噛みついてた。
そして部屋に戻って来て静かに扉を閉めるエル。
気恥ずかしそうに頭をポリポリ掻いて、でも躊躇いになくアタシに近づき、隣に座った。
彼はアタシよりも20センチ背が高いの。
だから、キスするときはいつも私が上を向いてたんだよ。なんか私が下手になってる感じがして…。でもベッドに座ってキスする時だけは対等って感じがするから………。
前世で友達が自慢してたことを思い出した。確かに座って向かい合うと目線の高さは同じで…でも、そこからは彼はアタシの上に覆いかぶさって…。
あれ?
アタシはエルに引き寄せられ、押し倒すような恰好で、エルの上に…。
「今日は俺がヨーコの言うことを何でも聞こう。どうしたいか言って。」
アタシは顔を真っ赤にして横を向いた。
そんなの恥ずかしくて言えるわけないじゃない。ちらりとエルを見る。エルはいつもの笑顔。
アタシはこの世界に来てから3年間、一人で魂を狩っていた。来る日も来る日も黒い魂を浄化させて…ただ浄化させるだけの毎日で…。
そんなアタシに毛布をくれたのがエルで、エルはアタシの事を気にかけてくれて…。
そんなアタシはエルの事が好きになって、でもあたしはエルのハーレムの一員でしかなくて、でも…今はアタシがエルを見下ろしてて…。
「こ…このまま…アタシが上に乗って…寝る。」
「姫様、畏まりました。」
エルは下から手を伸ばしてアタシを引き寄せ、毛布を上からかぶせてアタシをお腹の上に寝かせ、優しく背中を撫でてくれた。
「ちゅ…チューして。」
「はい。」
「服が皺になる…から、脱がせて。」
「はい。」
「…下着も。」
「はい。」
「アンタも脱いで。」
「はい。」
「…恥ずかしいから≪光彩≫は消して。」
「はい。」
「も、もう一回チュー!」
「はい。」
「…エル、なんか当たってる。」
「…。」
「アタシはこのまま寝るから。何もしちゃだめよ。」
「え!?……は、はい。」
アタシはそのまま寝たふりをした。なんか言ってくるかと思ったけど、ずっとアタシの背中を撫で続けてくれた。
アタシはここにいる。
例え神様にこの体を奪われたとしても、この魂が浄化されようとも、エルの側にいる。
アタシは、そう想って背中を撫でるエルの感触に身を委ねた。