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人は可能性で論を立てる

作者: 矢光翼
掲載日:2015/03/12

一日一筆複数連題です!

お題「新学期型Android345,1」「金が嫌いな一人の少年」「曇天」

 こんな日は気分が沈む。広く高い空を少しだけ低く濁らせる灰色の雲。いわゆる、曇天。

 雲は何かを擁している気がして、秘密主義なこの天気を僕はあまり好いていない。

 この曇天の中に雨が含まれていたって、巨大な鯨が泳いでいたって、僕ら人間如きがそれを知ることは出来ない。

 知ることができないからこそ人間は雲の中身を想像する。雨がこれから降るんじゃないかって、巨大な鯨が泳いでるんじゃないかって。それはもう、伏し目がちに、目を輝かせながら。

 可能性で中身を論を立てる人間が苦手だったりする。転じて自分が苦手だったりする。雲が何かを擁している?何を言ってる。

 あの雲はただの雲で、あの雲で今日はただの曇りで、有り得るとしても雨もしくは雪ぐらいしか僕らにもたらすことがない。まして、金なんて。


 人間が道具に金をかけるようになって百年程度。最初は高価だったものが誰の手にでも入るように安価になったのが数十年前。それからは性能ばかり求め道具本来の利用価値を忘れどんどん価値を引き上げて、性能こそ古来従来と比べ物にならないほど良くなったものの、価値は古来従来と比べ物にならないほど高価になった。

 例えば電子レンジ。今や家庭用電子レンジが数百万円。これは電子レンジの適応範囲が広がったことが影響している。古来の電子レンジでゆで卵を不用意に暖めると爆発するが、今の電子レンジはその点が改善されている。

 例えば冷蔵庫。家庭用で四千万が相場。これは容量の増加、そして様々な機能追加が影響している。事細かな温度設定に内容物一つ一つの賞味期限など、冷蔵庫として最高の機能や本来ならば冷蔵庫で使うはずの無い機能まで追加された。

 なにもそれだけでこんな価格の高騰が起こっているわけではない。説明しがたい。なんせ、僕は古来の電化製品を知らない。何が凄くて何が凄くないのかを、知らない。

 それでもわかるんだ。両親から話を聞く限り、この価格はおかしすぎるんだと。生活に役立てるものの為にこんな金を使うのは馬鹿げていると。

 そしてそんな話を聞き続ける内に僕は、金そのものに嫌悪感を抱くようになった。

 金なんてありそうもない祠に向かって金を願う貧困者。そんなに金が大事なのか。そういった現場を目撃するとなんとも耐え難い吐き気を催す。

 見上げた先にある雲に、「空から金降ってこないかな」などとのたまう友人を見たとき、僕はそれはもう世界の終わりを感じた。なんだって、そこまで金を求めなければいけないのか。でも悪いのは金を求める消費者じゃないと父親は言っていた。

 本当に悪いのは、家電そのものの価値を引き上げ愉しんでいる人間なのだ。

 そしてそれは家電に限らない。


 携帯電話。時代と共に姿を変えてきた人類の共とも言える一つの道具。これもまた道具の価格隆盛に呑まれた。

 携帯一台六百万。今話題の最新式は七百万で人体内蔵式だそうだ。

 僕がこの度母親に与えられるのは相場よりも少し安価な「新学期型Android345,1」。

 新学期型、とは。同じ組織の人間の連絡先を自動的に登録・整理し、随時更新する機能を主として、様々な組織ぐるみの機能を持ったアンドロイドスマートフォン。

 因みにスマートフォンという携帯の形態は案外変わっていない。先述の人体内蔵式は少々特殊な形をしているが僕のアンドロイドは両腕にリングをつけることで空間画面を立ち上げる従来型だ。

 345,1というバージョンは最新式。これは毎月新型が生まれているため、発売三ヶ月にして最新型ではない。

 この新学期型Android345,1の値段はさっき言った通り相場よりも少し安価の五百四十万。先ほど僕は金に嫌悪感を抱いていると言った。が、それは必ずしも全ての金ではない。むしろ僕は金と同時に金に吸い込まれていく人間を見るのが嫌なのだ。だからもし世界から人が消え僕だけが残ったら、そんな嫌悪感も幾分収まるんだろう。

 そんなことを言っているうちに車が店に着いた。

 僕と母の目的は新学期型Android345,1を買うことのみ。価格隆盛に染められた店員の話を聞く気は無い。


 言っていなかったが、僕はこれが初の携帯。持ってみるとこれが約五百万もの価値があるとは思えない。半分疑いながら両腕にリングを装着する。人口音声が流れてから画面が浮き出す。全ての個人情報を入力する。

 画面に大きく映る「新学期型Android345,1」の文字。早くも家族の連絡先が登録された。

 そしてこれも言っていなかったが、明日から僕は高校生、新たな生活が始まる。

 その生活を円滑に進めるためにも僕は、この携帯を買ったのだ。

 空を見上げる。風に押されているのかゆっくりと厚い雲が大移動を繰り広げている。太陽が見える様子は無く、下手したら永久に太陽を拝むことが無いのではないか、とさえ思う。

 恨めしく、疑わしい。雲という存在を、バラバラに散らせればいいのに。

 

 ピッシュンァアッ


 途端。奇妙な音が鳴ったと思ったら雲が割れた。

 どういうことかわからないかもしれない。でも本当だ。雲が、真っ二つに割れた。

 急に差し込んだ日光を防ごうと手を目の上に上げると同時に画面も上がってくる。

 その画面に映っていた文字。それが、この現象の犯人だった。

 『アプリケーション:エンターテインメント』

 こんなアプリを出した覚えは無い。元からあるものなのか、勝手に動き出したようで、その下に文字が浮かび上がった。

 『雲をバラバラに散らしています...4%...』

 ...まさか。

 僕は咄嗟に日光を防いでいた手を下ろし眩しさに目を細めながらも空を見た。

 先ほど一瞬で真っ二つになった雲が、少しずつ分散を始めている。

 雲が、バラバラになっている。

 母親も驚いている。そして同時にこれが新学期型Android345,1の仕業だと気付く。

「...それも、機能なの?」

 僕はしどろもどろになるのを抑えて答えた。

「...そうみたい。今の携帯ってこんなもんだよ」

 新学期型Android345,1が僕の手から両親の管理下に置かれるまで、そう時間はかからなかった。




 あれから僕は携帯を所持することを許されていない。といっても新学期型Android345,1は解約されていないのだが。

 両親はあのアプリケーションを危惧したらしく、他の携帯のことも調べていた。両親共々古風な性格をしているからか現代的なものには疎い。使っている携帯だってまだ携帯が数十万の価値を保っていたころの品物。いまやアンティークとも言えそうな代物だ。

 今日も今日とて曇天。あれがあったせいか、曇天をみるとどうも頭の中であの雲の群生が真っ二つになってぷつぷつと分裂していく。目を開けてみれば全然そんなことは無いのだが。

 あぁ、僕の貯金は数万だし、携帯買うには少なすぎるな。

 もともとの目当てだった組織間の連絡先掌握も出来ず僕の交友関係は最小のものに限られてしまった。僕があの時あんなこと願わなければなぁ...むしろ、僕がもっと金を持ってればなぁ...

 あの空を塞ぐ雲が何かを擁しているのなら...

 あぁあ。


「空から金降ってこないかな」

如何でしたか?


こんな携帯があったら驚きもんですよね。恐らく世界征服だって楽そうです。もしかしたらとっくに携帯で3Dプリントぐらいできるようになってるんでしょうね。僕は好きなキャラを3Dプリントして部屋に並べて友達に引かれるのを生き甲斐にしていこうかと思います。もちろん嘘です。3Dにしたいのは本当ですが。

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