番外04 - 夜空駆ける足
キーとなる魔物は、本編3話で既に登場していたので、修正して整合性を合わせました。
本編3話は2012年に書いたものなので(pixiv参照)、一部ど忘れしていました。
日が暮れる。
辺り一面を照らしていたオレンジ色の光が薄れ、闇が次第に濃くなっていく。
何もない平地に中規模のつむじ風が起き、その中から全身に漆黒の鎧を纏った者が現れた。
その者は、ダークナイトと呼称される化け物である。
ダークナイトは闇から闇へとテレポートを繰り返し、ある洞窟の最奥に来た。
そこは、かつてダークナイトが盗賊から奪った金や財宝を貯め込んでいた場所だ。
「この体で金を持っていても仕方がない。必要最小限を残して、後は換金し、
寄付でもするとしよう」
ダークナイトは独りごちる。
その時、一つの道具がダークナイトの暗い目に留まった。
それはモノクルの形をしていて、装備して対象の生き物を見ると、
その者が殺人を犯した回数が見えるというマジックアイテムである。
悪しき心が強かった昔のダークナイトも、無感動のゼロナイトも、
殺人回数に拘らなかったため、それに興味を示さなかったが、
現在のダークナイトは少しばかりそれに興味を示した。
「モノクルよ、我が力の一部となれ」
そう言いながらダークナイトが魔法のモノクルを握りしめると、
モノクルは闇に溶けて消滅した。
ダークナイトが軽くなった左手を開いて見つめていると、
50703 という数字が唐突に目に映った。
「これが俺の罪の重さか」
ダークナイトは自嘲した。
一方その頃、光輝く白い鎧の戦士、レイナイトは困惑していた。
自身の体を見るたびに、0という数字が浮かび上がっては消えるのだ。
「なんの数字だこれは?」
洞窟を出たダークナイトは、夜空を見上げた。
かつてのゼロナイトが、悪の権化であるダークロードを葬ってから、
魔物の数は全盛期の五分の一ほどに減少したが、
未だ人々を襲う魔物は一定数存在する。
夜空には、30体ほどの魔物が群れを成して飛んでいた。
ライオンの胴体に、人間の上半身、鷹の翼とくちばしを持つ、グリフォンスロープという魔物だ。
ダークナイトの目に、各個体の殺人回数が映る。
2、3、5、4、45。
群れのリーダー格と思われる個体は、45人も殺していることになる。
グリフォンスロープは人間を襲い、食すのだ。
グリフォンスロープの群れは、一つの方角に向かって飛んでいた。
その方角に、人間の集落があるのだろう。
ダークナイトは少し黙考すると、グリフォンスロープと同じ方角に、
恐るべき速度で滑るように移動した。
先に人間の村に先回りしたダークナイトは、グリフォンスロープの群れを迎え撃つことにした。
村の家々からは明かりが漏れ、夜の闇を少しだけ押し戻していた。
グリフォンスロープの群れは村の上空に留まり、先兵として2体だけ村に降りてきた。
浮かんだ数字は3と2。
ダークナイトは漆黒の剣に手をかけると、素早く抜剣し、近くのグリフォンスロープに斬りつけた。
グリフォンスロープは、ライオン部分と人間部分に綺麗に分かれ、絶命した。
もう一匹のグリフォンスロープがダークナイトに気づき、力強く羽ばたいて群れまで逃げようとする。
ダークナイトは剣を持っていない左の手のひらを突き出した。
”ネオダークボール”
ダークナイトが唱えると、真なる闇の球体が手のひらから発射され、
空に逃げていくグリフォンスロープにめり込んだ。
グリフォンスロープの肉体は、大部分を闇の球体に吸い込まれ、
残りはなんだか分からない肉塊となって地面に落ちた。
残ったグリフォンスロープの群れは、この突然の乱入者を警戒してか、
村の上空を旋回して降りてこない。
ダークナイトは上空の群れ目掛けて、ネオダークボールを連射した。
しかしグリフォンスロープは機動力が高く、ネオダークボールは悉く回避された。
”ブラックホール”
ダークナイトは第二の魔法を展開した。
しかし、群れとの距離が遠すぎて、ブラックホールの引力がほとんど効いていない。
ダークナイトは早々とブラックホールを閉じた。
次にダークナイトは月を確認する。
今宵は半月。
出せる力は500人力程度だ。
ダークナイトは脚に力を込めると、全力で垂直に飛びあがった。
数秒でグリフォンスロープの群れまで届いた。
しかし、やはりグリフォンスロープ達に躱されてしまう。
ダークナイトはそのまま更に上へと飛んでいき、跳躍の頂点に達すると物影移動を発動、
すぐに飛び上がる前の位置にテレポートして戻ってきた。
ダークナイトは少しの間考える。
(ゼロナイトの時は問題なく飛行できたし、
レイナイトの奴は使い魔のようなものを召喚し、それに騎乗して飛んでいた。
しかし今の俺に飛行手段など)
そこまで思考を巡らせ、ダークナイトはハッとした。
(こいつを使うのも久々になるな。今の今まで忘れていたとは)
ダークナイトは念じると、その正面に霧状の闇が渦巻き始めた。
闇は収縮し、ダークナイトが乗れるサイズの魔物に変化した。
魔物の名はデモンドラゴフライ。
姿は巨大なトンボに似ているが、刃のように鋭い四枚の羽、
まるで桑の実を思わせるような多数の丸い目と、その目と目の間から時折生える角が合計10本ほどある。
トンボ型で小型の魔物、ミニドラゴフライの上位種だ。
色はダークナイトと同じく漆黒。目だけが不気味に赤く発光している。
デモンドラゴフライはダークナイトに首を垂れた。
従順の意を示しているようだった。
ダークナイトがデモンドラゴフライの長い腹部に跨ると、
デモンドラゴフライは高速で飛翔し、
瞬く間にグリフォンスロープの群れの中へとたどり着いた。
ダークナイトはこの隙を見逃さなかった。
”ギガス・ブレイカー”
8メートル弱の黒い巨剣が出現、横に一回転した後、通常サイズへと戻る。
10体のグリフォンスロープが真っ二つになって息絶えた。
ダークナイトは45の数字が浮かぶ、一回り大きなグリフォンスロープへと飛んだ。
彼は片手に装備した大きな棍棒で反撃してきた。
その棍棒をダークナイトの剣が受け止め、火花が散った。
何度かの武器のぶつかり合いの後、
ついに漆黒の剣がグリフォンスロープのリーダーの首を捉えた。
グリフォンスロープの頭が飛び、重力に引かれて体ともども地面に墜落した。
ダークナイトはデモンドラゴンフライの力でジグザグに飛行し、1以上の数字が出たグリフォンスロープを次々と斬り捨てた。
残りは0が表示されるグリフォンスロープが4体。
ダークナイトは一旦剣を鞘に納めると、口を開いた。
「最期に言い残すことは?」
すっかり恐怖で委縮していたグリフォンスロープ達が話し出した。
「助けてくれ!僕は人殺しなんて嫌だったんだ!ボスが怖くて仕方なく従っていただけだ!」
「そうよ!私は人なんて食べたくなかったもの!野生の獣の方が好きだわ」
「もう駄目だ、殺される」
「どうせ殺られるくらいなら一矢報いる!」
一体のグリフォンスロープが、ライオンの鉤爪でダークナイトに一撃当てた。
すかさずダークナイトは手刀を相手に叩き込み、
攻撃してきたグリフォンスロープは気を失って墜落した。
ダークナイトの鎧に付いた爪痕は瞬時に修復された。
「人も殺せぬ雑魚どもにもう用は無い。失せろ」
残った3体のグリフォンスロープは、気絶した一体のグリフォンスロープを担ぐと、
人間の村には目もくれず、一目散に逃げ去った。
ダークナイトは人間の村を離れ、適当な地面に降り立った。
デモンドラゴフライの頭を撫でてやると、それは満足したのか、
闇の霧となって霧散した。
やがて朝となり、太陽が地平線から顔を出した。
ダークナイトの色が薄れていき、まるで無と同化したようにその場から消え失せた。




