番外03 - 分離
無の化身、ゼロナイトは自身の力に疑問を感じていた。
ゼロナイトとなった当初は如何なるものにも干渉できず、それで問題なかった。
だが現在、強力な悪を討つために身に付けた力は、無の化身としては身に余る代物だ。
ゼロナイトは自身を弱体化するために、様々な者達を取り込んだ己の肉体を、
再び分離させようと考えていた。
その時、宇宙の意思から横やりが入った。
「再びダークナイトを世に解き放つのは許容できない。
宇宙のパワーバランスが崩れ、多くの犠牲者が出るだろう」
ゼロナイトは言い返した。
「それについては考えがある。ダークナイトの本質は悪なのか?
闇とは光のない所。つまり本質的には無に近いはずだ。
うまくいけば、貴殿の危惧したようにはならん」
時は進み、太陽が地平線に沈んだその時、ゼロナイトは動いた。
「頃合いだ」
宙に浮いていたゼロナイトが、ゆっくりと地に足をつける。
その瞬間、辺りを暴風が渦巻いた。
ゼロナイトの輪郭がぶれたと思ったら、ゼロナイト自身は消滅し、
ゼロナイトが消滅した周囲に、5つの者が等間隔に現れた。
一人は、漆黒の鎧姿を取るダークナイト。
一人は、純白の鎧姿を取るレイナイト。
一人は、ひび割れた赤茶色の鎧姿を取るカースナイト。
一人は、黒髪で旅人の服を着た人間、名はミッド。
一つは、ぼんやりとした黄金色のドラゴンの姿をした何か。
ミッドは自身の姿を見回しながら言った。
「鎧が脱げている?呪われた鎧から解放されたのか?」
「その通り。もう君はただの人間だ。この場所は危ないからこれで避難しなさい」
言葉を返すのはレイナイト。
レイナイトは翼を持つ白いユニコーンを召喚すると、ミッドをユニコーンに乗せ、
遠くの場所までミッドを逃がした。
「おいおい、せっかく最強の存在になれたと思ったのに、なんだこの状況?
しかも俺の本来の肉体とも引き剥がされてんじゃねえか」
カースナイトは、ダークナイトを恨めし気に見ながら言う。
一方、黄金のドラゴン状の何かは一咆えした。
「お前の力は私が引き取ろう、パージドラゴンの魔力よ」
レイナイトが言うと、ぼやけたドラゴンはレイナイトの周りをぐるりと取り巻いた、
と思うと霧散し、レイナイトの肉体に吸収された。
「俺たちも一つになってまた暴れようぜ、兄弟」
そう言うとカースナイトは、ダークナイトに吸い込まれるように近づいた。
あと1センチで二者が触れるというその時、ダークナイトは黒煙となって霧散した。
辺りはすっかり夜の暗闇に沈んでいた。
「なんで逃げるんだよ!」
別の場所に再び出現したダークナイトは、カースナイトの叫びに答える。
「呪いの力無しで自由な肉体を得た今、お前はもう用済みだ」
「残念だったなカースナイトよ。既に無きゼロナイトの意思を継ぎ、貴様を今ここで滅する」
言うとレイナイトは光球を放った。
”ライトボール”
ライトボールはカースナイトにぶつかると、そのまま貫通した。
カースナイトは(元からあるひび割れを除いて)無傷だった。
「この俺に物理的な攻撃は効かん」
カースナイトは鼻で笑うと、反撃に転じた。
”ブラックホール”
カースナイトは唱えたが、何も起こらなかった。
「くそ、これはダークナイトの形態じゃないと使えんか。ではこれだ」
”ギガス・ブレイカー”
カースナイトが構える赤茶けた剣が巨大化し、レイナイトに迫る。
”ティタン・スレイヤー”
レイナイトの光輝く剣が同じく巨大化、ギガス・ブレイカーを受け止める。
と、赤茶けた巨剣は鍔迫り合いに耐えきれず、ボキッと折れた。
「まだだ!」
”カースボール”
不気味な赤茶色の球体三連弾がレイナイトを襲う。
レイナイトはこともなげに球体を躱すと、カースナイトとの距離を一瞬で縮めた。
”ブレスドサークル”
レイナイトが唱えると、カースナイトの真下の地面に、光の魔法陣が現れた。
「か、体が動かん」
「やはりな。呪いと祝福は反発し、打ち消し合うのだ」
動きを封じられたカースナイトとは対照的に、レイナイトは余裕綽々だ。
そして、レイナイトが剣を持っていない方、左手が小さなドラゴンの頭状に変化した。
「ほう。パージドラゴンも加勢してくれるようだ」
”パージブレス”
ドラゴンの口から凄まじい光が放出され、光の魔法陣の端に触れると魔法陣内部に沿って流れが起き、
光の大竜巻となった。
「ぐああああああ!」
カースナイトの苦しげな声が響く。
レイナイトの左手は元の姿に戻り、光の放出も止まった。
光の大竜巻はしばらくの間回り続けていた。
が、唐突にヒビが入ったと思うと、粉々に砕け散った。
「!」
レイナイトは身構えた。
わずかな破片だけとなったカースナイトが光の魔法陣を破り、ゆっくりと足を踏み出して出てきた。
「ここで終わらせん、俺に牙をむく奴は全て潰す」
「ダークナイトの中核だけあって、大したしぶとさだ」
カースナイトの執念に、レイナイトは気圧されそうだった。
レイナイトがふと隣を見ると、ダークナイトが2メートルほどの漆黒の球体を発射する寸前だった。
”ネオダークボール”
2メートルの暗黒球はカースナイトに着弾すると、カースナイトの姿そのままの漆黒の空間となった。
「ち、か、ら、が、に、く、し、み、が」
カースナイトの断末魔の言葉は、当人と共に、闇に溶けて掻き消えた。
ダークナイトの新たな技は、触れたものを一定量取り込み、無に帰す力が宿っていた。
「共に歩んだ兄弟よ、今安らかに眠れ」
ダークナイトは呟いた。
その場には、ダークナイトとレイナイトだけが残った。
「後は貴様だけか、ダークナイト」
レイナイトは純白の剣を構える。ダークナイトも無言で漆黒の剣を構える。
そのまま十秒ほど経過した。
「やめだ。貴様からは以前のような邪悪な気配が感じられん。しばらくは様子を見るとしよう」
そう言うとレイナイトは剣を収めた。
「ライトニング、戻ってこい」
レイナイトは再び翼を持つユニコーンを召喚すると、それに乗っていずこへ飛び去った。
一人残ったダークナイトは剣を収めると、近くの岩場までテレポートした。
ダークナイトは暗闇や影の有る場所へなら、自由にテレポートできるのだ。
ダークナイトは岩場から1メートル四方の立方体に岩石を切り出すと、
それを掴んで再び元の場所へテレポートした。
カースナイトが消滅した場所に立方体の岩石を置くと、
ダークナイトは漆黒の剣で岩石を何度も細かく斬りつけた。
岩石は簡単な墓石の形となって、その場に収まった。
”ブラックホール”
ダークナイトがその場に散らばった余分な岩塊を一掃すると、
こじんまりとした墓場がそこに誕生した。
「呪いは強い負の感情からなる。時々悼んで鎮めなければな」
ダークナイトは墓石に一礼した。
ダークナイトは遠くまで見渡せる崖の上に立っていた。
そのうち太陽が昇り、夜が明けた。
辺りに光が満ちると同時に、ダークナイトは風に吹かれた塵のように消えていった。
ダークナイトを形成する中核はもはや呪いではなく、
世界の理となったのだった。




