番外01 - レイナイト
ダークナイトがパージドラゴンを仕留め、己の闇の力を増大させていた頃。
遠く離れた草原に、強烈な光が差した。
光は白いプレートメイル(全身を隈なく厚い金属で覆った鎧)の形をとり、
その場にゆっくりと立ち上がった。
宇宙の闇が一点に多く集まった結果、光と闇のバランスを取るために
光もまた、一点に多く集まったのだ。
その光から生まれた鎧騎士は、生まれながらにして、
自らの名前、能力、使命を知っていた。
純白の鎧騎士は、己の傍らに力を集中させた。
ぼうっと淡い光が集まり、翼をもつユニコーンとなった。
「お前の名は、ライトニングとしよう」
鎧騎士はユニコーンに語り掛け、ひょいと跨った。
「駆けろ、ライトニング。私の宿敵ダークナイトを共に探そう」
ライトニングに跨った鎧騎士は、当て所のない旅に出たのだった。
鎧騎士が山中の森を進んでいた時。複数の気配が回りを取り囲んでいることに気づいた。
馬を止めると、木々の影から盗賊達がぞろぞろと現れた。
「金目の物か、命か、どちらかを選べ」
盗賊の頭が声を張り上げた。
「盗賊。人々を脅かす下種どもか」
鎧騎士が剣を抜き放つと、盗賊達も同様に得物を構えた。
「やれ」
盗賊の頭の一声で、盗賊達は一斉に鎧騎士に襲い掛かった。
盗賊の剣と鎧騎士の白く輝く剣が交差した瞬間、
盗賊の剣はいとも簡単に真っ二つに折れた。
矢がいくつか鎧騎士に飛んできたが、その白い鎧を貫くことなく
折れて地面に落ちていった。
鎧騎士は、盗賊達の得物だけを次々と潰していった。
「だらしねぇ奴らだ。俺がやる」
盗賊の頭が剣を持ち直した時、彼の剣は折れた。
鎧騎士の剣が盗賊の頭を貫く、と思いきや、剣はピタリと止まった。
「た、頼む、金はありったけやるから命は助けてくれ!」
盗賊の頭は命乞いをした。
「お頭、こいつもしかして『盗賊殺しのダークナイト』じゃねえんですか?」
一人の盗賊の問いに鎧騎士が答えた。
「あのような輩と一緒にするな。私の名はレイナイト。
そのダークナイトを追っている。お前、奴の居所を知らないか?」
盗賊の頭が頭を横に振ると、レイナイトは剣を収めた。
「知らんか。ならお前たちに用はない、この場から立ち去れ」
「た、助かった。おいお前ら、撤収だ!」
盗賊達は、壊れた得物を拾い集めると、そそくさと逃げていった。
レイナイトが山を下りる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
ちょうど、2kmほど遠くに村の明かりが見えた。
だが少し様子がおかしい。明かりが大きくなり、煙が立ち昇っている。
「ライトニング、あの村へ急げ」
レイナイトを乗せたライトニングはギャロップで村へ駆け出した。
村に着くと、入り口付近の二軒が炎に包まれている。
「離して!まだ家に子供が!」
母親らしき女が叫んでいた。
レイナイトは轟々と燃える家の中に飛び込んだ。中では一人の子供が震えていた。
「もう大丈夫だ。脱出するぞ」
その時、燃え盛る屋根が二人の上に崩れ落ちてきた。
レイナイトは素早く左手を掲げると、唱えた。
”ホワイトホール”
大きな白い円盤が左手の上に現れると、そこから極太の光線が噴出した。
光線はやすやすと天井を吹き飛ばし、夜空が姿を現した。
レイナイトは子供を抱えると、ライトニングを飛翔させた。
燃える家から脱出したレイナイトは、母親と思われる女に子供を差し出した。
「ああ、テイル。無事でよかった!あの、なんとお礼を言えば良いか」
レイナイトは女とは別の方を見ていた。
少し離れた場所で痩せた男が、赤く大柄な狼に押さえつけられている。
狼が大口を開けた瞬間、レイナイトを乗せたライトニングが、狼に体当たりした。
狼は体勢を立て直すと、レイナイトと対峙した。
「お前は魔物の類だな?なぜ村人を襲う」
狼はグルルと唸り声を上げると、口を大きく開けた。
「言葉を解さんか。ならば」
レイナイトは白い剣を抜き放った。
次の瞬間、狼の口から灼熱の炎が発射された。
炎はレイナイトを呑み込んだ。狼はまだ唸り声を上げている。
炎がふわりと消えた。そのただ中にレイナイトが無傷で立っていた。
「この肉体は熱さすら感じぬようだ。どうだ、まだ抵抗するか?」
狼はレイナイトに襲い掛かり、頭に喰らいついた。
「その狼は、既に一人食い殺している。
そいつを退治してくれ!でないと、この村はいずれ全滅だ!」
狼からついさっき解放された男が叫んだ。
「殺しはしたくなかったが、やむをえまい」
レイナイトの剣が一閃すると、狼は胴体から真っ二つになった。
狼の顎の力が緩み、狼の上半身が地面にどさっと落ちた。
狼は息絶えたようだ。
村の消火活動を手伝った後、レイナイトはダークナイトの情報を聞いて回った。
「ダークナイト?聞いたことねえな。
だが、さっきの狼がやってきた方角に何かあるかもしれねえな。
噂によると、魔物を生み出している何者かがいるそうだ」
「情報提供感謝する。ライトニング、行くぞ」
村人と会話を終えたレイナイトは、狼が来た方角、南の方に馬を進めた。
20kmは移動しただろうか。レイナイトの目の前には、崖に穿たれた洞穴が口を開けていた。
洞穴からは邪悪な気配が溢れ出ていた。
いよいよか?とレイナイトは気を引き締め、洞穴へと入った。
洞穴は、数十メートル進んだところで少し広めの空間へつながり、そこで終わっていた。
レイナイトの体から湧き出る光が、空間をぼんやりと照らした。
空間の真ん中に、光を寄せ付けない人型の闇が座っていた。
ダークナイトの気配と似ているが異なる者だ。
レイナイトは少し落胆した。
「この付近に出没する、魔物を生み出しているのはお前か?」
レイナイトは問いかけた。
「いかにも。このダークロードが魔物を創り、世に放っている」
ダークロードと名乗った者は、黒く古めかしい衣服を羽織り、
その顔はまるで漆黒のドクロのようだ。
「人間を無差別に殺す魔物の主を放っておくわけにはいかん。
悪いが、今ここで退治してくれる」
「魔物生成の実験場を見た者よ、生きて帰れると思うな」
レイナイトはライトニングを消して、ダークロードと対峙した。
剣を振るうのに、ライトニングは少々邪魔なのだ。
レイナイトは白い剣を抜き放つと、一気に距離を詰めて切りかかった。
ダークロードは黒い三叉の槍を召喚し、剣を受け止めた。
レイナイトが力みで両腕が震えているのに対し、ダークロードは涼しい顔だ。
「これでどうだ!」
”ティタン・スレイヤー”
レイナイトの掛け声とともに、白い剣が巨大化し、ダークロードを押しつぶさんとした。
「バリア展開」
ダークロードの周囲を丸いバリアが覆い、巨大な白い剣はそこでピタリと止まった。
「ダークブラスト」
ダークロードのバリアに小さな穴が開き、そこから強烈な闇がレイナイトめがけて噴出した。
”ホワイトホール”
レイナイトは剣を元に戻すと、ホワイトホールで応戦した。
しかし、ホワイトホールの光線は、闇に蝕まれ、
闇がホワイトホールを突破してきた。
「ぐっ!」
レイナイトの左半身は、闇に吹き飛ばされた。
「勝負あったな」
ダークロードがバリアを解き、近づいてくる。
「夜空を照らす星々の光よ、私に力を与えたまえ!」
レイナイトが唱えた瞬間、何条もの光の筋が洞窟の天井を突き抜けて、
レイナイトに降り注いだ。
レイナイトの失われた半身が、みるみる再生し、完全に元に戻った。
「うーむ、再生能力持ちか。やっかいよのう。ならばこれだ」
ダークロードは再び黒い三叉の槍を持ち、恐るべき速度で突きを放った。
レイナイトは剣で受け止めようとしたがあっさりと弾かれ、
三叉の槍はレイナイトの首を貫いた。
「ぐががっ、まだ私は戦」
レイナイトが言い終わらないうちに、ダークロードの呪文により
直方体のバリアのようなものに囲まれた。
バリアの壁はだんだんと狭まり、レイナイトはトランク大に押しつぶされた。
レイナイトの意識は遠のいていった。
「こやつを捨てておくか」
ダークナイトは呟くと、トランク大の黒い直方体を念力で持ち上げ、
洞穴の出口に向かって歩き出した。
それから一年もの月日が経ち。
R.I.P.と書かれた墓石にヒビが入り、数条の光が溢れ出た。
墓石は爆発を起こし、木っ端微塵となった。
そのもうもうと煙が立ち込める中に、レイナイトが直立していた。
「闇の封印を破るのに、ずいぶんと手間取ってしまった」
レイナイトは頭を軽く掻くと、拳で地面を殴った。
その時、西の空に黒煙のような闇が広がった。
レイナイトはライトニングを召喚すると、素早く跨り、
西の空へと飛び去った。
「この気配は間違いない。ダークナイトだ」
しばらくして、レイナイトとライトニングは闇の上に出た。
闇は、直径100kmくらいまで広がっているようだ。
「地上を照らす太陽よ、邪悪なる闇を祓いたまえ!」
レイナイトに呼応して、太陽の日差しが強烈になり
辺り一面に広がる闇の約半分を消し去った。
闇が消えて地上を見渡せるようになった時、
レイナイトは確かに黒い鎧騎士の姿を視認した。
「見つけたぞ、わが宿敵!」
本編 05 へと続く。




