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番外11 - 鎧戦士達の最期



合体騎士ゼロナイトと、光の鎧戦士(ライトウォーリア)の死闘から4日後の夜。

夜空には満月を少し過ぎた、十六夜(いざよい)の月が黄金色(こがねいろ)に輝いている。

地面に座して、鎧戦士を待つのは漆黒の鎧を纏ったダークナイト。

やがて、静まり返った闇の中から、乾いた足音が聞こえてきた。

少しして姿を現したのは、全身がつぎはぎの木材で出来た鎧戦士。

ダークナイトは無言で漆黒の剣を抜き放った。

鎧戦士が語る。

「私は木の鎧戦士(ウッドウォーリア)。たとえ勝ち目の低い戦いになろうとも、我らは止まらぬ。

 せめてお前に一矢報いる」


ダークナイトは木の鎧戦士をじっと見る。

ダークナイトの目には1という数字が映った。

木の鎧戦士もまた、人ひとりを殺しているのだ。

「この場は木々が少ないな。もっと木々がある森まで場所を変えたいが、良いか?」


木の鎧戦士が提案する。

「いいだろう」


ダークナイトが応じる。


二名が20分ほど走って移動していると、やがて鬱蒼とした森が見えてきた。

そのまま二名とも森の中へと突っ込んだ。

森の奥深くまできた時、木の鎧戦士が立ち止まった。

少し遅れてダークナイトも止まる。

「この場所ならば、私の力を最大限に引き出せる。いざ勝負!」


木の鎧戦士とダークナイトは互いに抜剣し、対峙する。

両者のにらみ合いがしばし続く。

先に動いたのは木の鎧戦士。

一気に距離を詰め、木目が目立つ木剣を上段構えで思いきり振り下ろす。

それをダークナイトの漆黒の剣が受け止める。

木剣は既に下方へと移動していて、下からダークナイトの左腕を斬り上げた。

ダークナイトの左腕はいとも簡単に切断され、放物線を描いて2メートルほど遠くに落ちた。

「おかしい。私の実力は、鎧戦士の中でも下から2番目の席。

 さてはお前、手を抜いているな?」


「今はこれが全力だ」


木の鎧戦士の疑いに、ダークナイトが返す。

実際のところ、ダークナイトは大幅に弱体化していた。

ダークナイトの力は、月の満ち欠けに大きく左右される。

月が満月、あるいはそれに近くなる約3日間、ダークナイトはたったの2人力しか出せない。

更に、全ての技が封じられるというおまけ付きだ。

鎧の防御力も大幅に低下し、プレートアーマーはおろか、革鎧とやっと同等といった所だ。

もっとも、ただの木剣では革鎧レベルといえど簡単に切り裂くことはできない。

木の鎧戦士の力の中核である木剣だからこそ、鋼の剣を上回る切れ味を実現できるのだ。


現在のダークナイトでは、木の鎧戦士の攻撃を受け止め、躱すのもやっとだ。

切り離された左腕が宙に浮かび、加速すると元の位置に収まり、結合する。

間髪入れず木剣が閃き、ダークナイトの首が飛ぶ。

ダークナイトの再生力で首がくっつくと、今度は左胸を貫かれる。


こうして一晩中、ダークナイトは破砕と再生を強いられた。

やがて東の空が明るくなってきた頃、ダークナイトは木の鎧戦士に殴り飛ばされ、

地上から5メートルもの高さまで上がった。

「はやにえ」


木の鎧戦士が鋭く唱えると、森の木々から十数本もの鋭く太い枝が真っ直ぐ伸び、

ダークナイトを正確に突き刺して、空中に縫い留めた。

ダークナイトはしばらく身動きを封じられる。

少しして、東の空に太陽が顔を出す。

ダークナイトの体は日光の当たった部分から霧散し、やがて全身が影も形も無く消滅した。

「終わったか?いや、日光程度で奴が倒せるのならば、何もせずとも奴は一晩で滅ぶはず。

 油断は禁物だ」


木の鎧戦士は一人、結論を出すと、ダークナイトが消えた場所をしばらく監視することにした。




それから半日が経過した。

辺りは夕暮れとなり、木々の間からオレンジ色の光が差し込んでいる。

木の鎧戦士はほぼ動かず、監視を続けていた。

鎧戦士の大半は、飲食や睡眠を必要としない体なのだ。


やがて日が落ち、夕焼け空が徐々に夜の闇に染まっていく。

その時異変が起きた。

半日前にダークナイトを貫いていた数十本もの枝の中心に、再びダークナイトが出現したのだ。

ダークナイトは、鎧の再生能力だけで己に突き刺さった枝の槍をまとめてへし折ると、地上に着地した。

「やはり滅びていなかったか。待っていて正解だった」


木の鎧戦士が語る。

ダークナイトは月の昇る方角を少しだけ見てから言葉を返す。

ちなみに今宵は立待月(たちまちづき)だ。

「律儀に待っていたのか。おかげで力が少しばかり戻って来た」


木の鎧戦士とダークナイトは再び抜剣する。

”夜の訪れ”


ダークナイトの姿が、木の鎧戦士の視界から忽然と消えた。

木の鎧戦士が気づいたときには、木の肉体ごと、木剣が二つに斬られていた。

「その技は闇の鎧戦(ダークウォ)グフッ」


言葉の途中で木の鎧戦士は力尽き、辺りは静寂に包まれた。

鎧戦士だった木材の塊は、一気に苔むして緑色(りょくしょく)になった。

”ブラックホール”


ダークナイトはブラックホールを発動し、鎧戦士の亡骸を無に還した。




場所は変わり、上空には呪いの雲が3つ浮かんでいた。

それぞれ、血の鎧戦士(ブラッドウォーリア)骨の鎧戦士(ボーンウォーリア)闇の鎧戦士(ダークウォーリア)が形を失い、行き場を失った強力な呪いである。

その常人には見えざる3つの雲が、やがて一つに収束を始めた。

一つとなった強力な呪いは、ある村の一つの家で寝ていた男に、滝のように落ちて憑依した。

男は苦しみのあまり、跳ね起きた。

男の全身から血が噴き出し、肉が剥がれ落ちていく。

男は瞬時に絶命し、呪いに支配されてアンデッドと化した。

男の家から飛び出したアンデッドは、他の村人の家へと向かう。




立待月(たちまちづき)の下、ダークナイトはテレポートを繰り返していた。

その時、家が2軒壊された村が目に入った。

ダークナイトはテレポートを止め、その村にずかずかと入っていった。

村人はいない。

全員逃げ去ったか、あるいは殺されたか、ダークナイトには判断しかねた。

その時。

壊れた家屋から、異様な化け物が姿を現した。

体格は大柄で、体高が2メートルほどもある。

骨で出来たいびつな体の周囲を、太いひも状の血液と霧状の闇が覆う。

骨と血と闇の三色で出来た戦斧(せんぷ)を片手に持ち、武装している。

化け物から浮かび上がる数字は3。

化け物はダークナイトを見つけると、近づいてきた。

「ダーク、ナイト、憎い、殺す」


化け物が途切れ途切れに人語を発する。

「貴様も鎧戦士の(たぐい)か?」


ダークナイトが問う。

「鎧、戦士だった、思い、出せない」


化け物はそう言うと、戦斧を振り下ろし、ダークナイトに攻撃してきた。

ダークナイトは戦斧の一撃を容易に躱す。

(鎧戦士ならば、武器破壊が有効か?)


そう考えたダークナイトは、漆黒の剣で血生臭い戦斧の()を叩き斬る。

戦斧は簡単に切断されたが、すぐに自動で修復された。

(武器破壊も効かぬか。さてどう倒したものか)


ダークナイトは戦いながら思考する。

化け物が再び振るう戦斧を、ダークナイトは鎧の前腕で受け止める。

さすがに化け物の怪力が勝り、ダークナイトの右腕が斬り飛ばされた。

「この強烈な呪いの感覚、かつての鎧戦士達のものだな?」


ダークナイトはテレポートと再生能力を併用し、右腕を瞬時に修復しながら化け物を分析する。

(呪いが力の根源ならば、成すことは一つ)


ダークナイトの頭に閃くものがあった。

”ソードレイン”


ダークナイトの言葉と共に、100本強の黒い剣が、化け物へ雨のように降り注ぎ、

その場に縫い留める。

化け物が足を止めている間に、ダークナイトは漆黒の球を生成し、闇の力を込めて球体を徐々に大きく成長させる。

「ゴガァ!」


化け物が無数の剣を振り払ったが、時すでに遅し。

”ネオダークボール”


直径2メートルを超えるネオダークボールが完成し、化け物に向けて放たれた。

巨大なネオダークボールは化け物を完全に呑みこむと、辺りの空気や地面をも巻き込み、完全な闇へと還った。

ネオダークボールは、呪いや霊など、超自然的な現象をも消し去る効果があるのだ。

()くして、鎧戦士の呪いが生んだ化け物は、完全に消滅した。

「また墓を建ててやらねばな」


ダークナイトはため息交じりにぼやいた。




それから2日後。夜空に昇るは臥待月(ふしまちづき)

ダークナイトは相変わらずに、ただ鎧戦士を待っていた。

少しして歩いてきたのは、鎧を着込んだただの人間だった。

ダークナイトの目に映った数字は0だ。

「俺は人の鎧戦士(ヒューマンウォーリア)。名はラクスという。

 俺が戦うのは鎧戦士達の仇討ちではなく、ダークナイトという怪物を見極めるため。

 鎧戦士団は今宵をもって解散とする」




時は5日前に(さかのぼ)る。

木の鎧戦士(ウッドウォーリア)と人の鎧戦士、ラクスは二名で光の鎧戦士(ライトウォーリア)の生還を祈っていた。

鎧戦士のリーダー、光の鎧戦士が敗れたのを木の鎧戦士が察知すると、ラクスに向けて語った。

「鎧戦士は君と私の二名となってしまった。私は己のプライドに賭けて、ダークナイトに勝負を挑むが、

 人の鎧戦士よ、君はまだ若く未来がある。

 報復に囚われることなく、どうか生き延びてほしい」


「そんな!俺も最後まで戦います!」


反射的に言葉を返したラクスに、木の鎧戦士は首を横に振る。

「若い命をむやみに捨てるものではない」


木の鎧戦士は小さな鉢植えを、長テーブルの上に置く。

「この苗は私の分身。これが枯れた時、私の命が尽きることを意味する。

 もし苗が枯れたら、君は遠くへ逃げるか、ダークナイトに投降するかしなさい。

 では私も行ってくる」


「そんな」


ラクスは言葉に詰まり、ただ木の鎧戦士を見送る。


それから1日経過。鉢植えは何者も触れていないのに、鉢ごと真っ二つに割れていた。

当然、苗も裂けて枯れている。

ラクスは、自分に役割が回って来たことを悟った。




話は元の時間へと戻る。

ラクスの持つ鋼の剣は叩き折られ、鎧も何か所も切り裂かれてまともに機能していない。

「ダークナイト、お前の桁外れの実力は理解した。さあ(とど)めを刺せ」


ラクスは首を垂れ、最期の時を待った。

だが、その瞬間はいつまで経ってもやってこなかった。

ラクスは頭を上げた。

ダークナイトは漆黒の剣を鞘に納めている。

「俺が殺すのは殺人を犯した者のみ。それ以外の者はどうでもいい。

 貴様がもし、殺人を犯すようなことがあれば、その時は覚悟せよ」


そう言うと、ダークナイトはラクスに背を向け、その場からふっと消えた。

ラクスはふぅとため息を付くと、その場に座り込んだ。


こうして、100年弱続いた鎧戦士達の活動は幕を閉じたのだった。



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