番外10 - vs光の鎧戦士(ライトウォーリア)
雲がほとんどなく、よく晴れた夜。
夜空に輝くは、半月と満月の中間程の、12日目の月。
ダークナイトは漆黒の剣を地面に軽く突き立て、敵対する鎧戦士をただ待っていた。
やがて、前方の暗闇がぼうっと微かに明るくなったかと思うと、
純白に光る鎧を纏った鎧戦士がその場に立っていた。
白く光り輝く剣を既に抜き、右手に装備している。
「私は光の鎧戦士。鎧戦士達のリーダーを務めている者だ。
貴殿に葬られた10名の鎧戦士達。その仇を取らせてもらう」
ダークナイトは地面から漆黒の剣を引き抜くと、片手に装備した。
光の鎧戦士を見て、浮かび上がる数字は1。
彼もまた、人を一人殺している。
ダークナイトは先手必勝とばかり、高速で光の鎧戦士まで距離を詰めた。
”ギガス・ブレイカー”
鎧戦士の弱点である剣に、ダークナイトの5メートル級の巨剣が迫る。
巨剣はあっさりと、鎧戦士の剣、そして光の鎧戦士自身を通過した。
(手応えが、ない?)
ダークナイトはギガス・ブレイカーを解除すると、光の鎧戦士から距離を取った。
「私の身体はほとんど質量が無くてね。並みの攻撃ならすり抜けてしまうんだ」
光の鎧戦士は解説する。
「この幻影のような剣も、私の速度と合わせることで、初めて実体のある刃となる。このようにね。
亜光速」
ふと気が付くと、光の鎧戦士はダークナイトの背後で背を向け、剣を構えていた。
ダークナイトの手首、肘、足首、膝、肩、脚の付け根、首が切断され、
そこでダークナイトは初めて斬られたことに気づいた。
雷の鎧戦士の時と違い、光の鎧戦士の軌跡すら目に残らなかった。
それだけ速度が桁違いなのだ。
「私の最大速度は光速の99%。音速だとマッハ89万くらいにはなるかな。
1秒もあれば、この『青き世界』を7周半はできる」
光の鎧戦士はさらりと恐ろしい事実を口にする。
ダークナイトは無言で肉体の再生に努めた。
だが更なる異常に気づく。
「再生できない。バカな」
そう、ダークナイトは光属性の攻撃に弱いのだ。
「おやおや。もしかしてこれで終わりかな?」
光の鎧戦士が無自覚に挑発する。
”ネオダークボール”
ダークナイトはバラバラの状態のまま、漆黒の球体を放つ。
光の鎧戦士に直前まで迫ったネオダークボールは、いとも簡単に回避された。
「さすがにこれに触れたら、私も無事では済まないからね。
受け止めてあげることは出来ないよ」
光の鎧戦士に慢心は無いようだ。
「さて、と。私の剣はなぜか貴殿によく効くようだから、
丁寧に細かく切り刻んであげれば倒せそうだね」
ダークナイトの命運ももはやこれまで、という時に。
遠くから馬に乗った人相の悪い男が、光の鎧戦士に向かって駆けてきた。
その後ろには、有翼の白いユニコーンに乗った全身真っ白い鎧の騎士が追っていた。
ダークナイトと因縁を持つ、レイナイトだ。
「そこの人、助けてくれ!」
男が叫ぶ。
「貴様は人を殺めすぎた。人間社会に引き渡して、然るべき罰を受けてもらう」
レイナイトは冷徹に宣告する。
ダークナイトはテレポートで頭の向きだけ動かし、男の方を見た。
男に浮かぶ数字は6。
男は光の鎧戦士の近くまで来て、馬を止めた。
「うげっ、あの真っ白野郎がもう一人!?いったいどんなマジックだ」
次の瞬間。
男の首が宙に舞った。
光の鎧戦士が剣を振るったのだ。
光の鎧戦士に浮かぶ数字は、2に増えていた。
頭部を失った男の体は馬からずり落ち、馬は怯えていななくと、遠くに走り去った。
「なんてことを。奴は同族である人間に裁かせるべきだったのに!」
追いついたレイナイトは、怒りで声が震えている。
「青き世界のゴミを処分しただけだ。非難される謂れはない。
さて、次は貴殿の番だ。ダークナイト」
光の鎧戦士は悪びれることもなく言う。
正直、殺人鬼の処分に関しては、ダークナイトも光の鎧戦士と同意見だった。
「ん?そこでバラバラになってるのはダークナイトか」
レイナイトは初めてダークナイトの存在に気づく。
「それはまあいい。そこの白いのは少し懲らしめてやらねければな」
「やめておけレイナイト。貴様には無理だ」
ダークナイトが茶々を入れる。
「私を懲らしめるか。面白い。
貴殿を滅するつもりはないが、少しの間遊んであげよう」
光の鎧戦士は標的をレイナイトに変えたようだ。
「はあっ!」
レイナイトが光の鎧戦士に斬りかかる。
20分後。
レイナイトは衝撃で吹き飛ばされ、ダークナイトのパーツの山に背中から突っ込んで止まった。
「くっ、強い。この私がまるで赤子扱いだ。私にもっと力があれば」
「同感だ。俺も奴に勝ちたい」
レイナイトとダークナイトの想いが同調する。
その時。
レイナイトの体が光の粒に変わり、ダークナイトの体が闇の粒に変わっていく。
「これは!」
「俺たちが合体した当時の現象と似ているな」
二名が話している間に、光の鎧戦士がゆっくりと近づいてきた。
「待たせたねダークナイト。今楽にしてやろう」
光の鎧戦士がダークナイトを滅ぼそうと攻撃を仕掛けるその刹那。
レイナイトとダークナイトの体が全て、白と黒の粒子へと変換され、
二重螺旋を描いて上空へと昇ると、一点に全て集中・凝縮された。
その一点が大きな爆発を起こし、辺り一帯に爆風が吹き荒れた。
光の鎧戦士は爆風に動じず、平然と立っている。
爆発が収まると、その中心に、全身透明の鎧騎士が姿を現した。
「何者だ?」
光の鎧戦士が問う。
「再びこの姿に戻ってしまったか。だがダークナイトの意地、レイナイトの怒りを受け継ぎ、
一時的にこの大きな力を振るおう。
私の名はゼロナイト。虚無の化身だ」
途中まで独り呟いてから、ゼロナイトが問いに答える。
「察するに、ダークナイトは貴殿の一部となった様子。ならば貴殿ごと斬るまで」
「やってみるがいい」
言うが早いか、光の鎧戦士は宙を舞い、亜光速の剣でゼロナイトの全身を隈なく数百回斬りつける。
だがゼロナイトの体には、傷ひとつ付かなかった。
「無と一体化し、非実体化した私には、如何なる攻撃も効かん」
”空切り”
ゼロナイトが唱えると、無数の透明な刃が光の鎧戦士へと襲い掛かった。
だがそこは光の鎧戦士。亜光速の動きで、空切りを難なく躱し切った。
「いくら貴殿でも、亜光速の戦闘にはついて来られまい」
光の鎧戦士が言い放つ。
ゼロナイトは、自身の手のひらを見つめていた。
手に浮かぶは、50703という数字。
だがゼロナイトは数字とは全く別のことを考えていた。
(虚無の力でテレポートを極めれば、いけるかもしれん)
ゼロナイトはテレポートし、現れては消えるという連続テレポートを実施した。
「なかなか厄介な技だ。だがまだ遅い!」
光の鎧戦士が罵る。
ゼロナイトが現れる刹那の瞬間を見切り、光の鎧戦士は彼を斬りつけた。
ゼロナイトの透明な鎧に切り傷ができる。だがそれは瞬時に修復された。
一方、ゼロナイトは連続テレポートから新たな手応えを掴んでいた。
ゼロナイトは透明な剣を構えなおして言う。
「ゆくぞ、新技」
”超光速”
「亜光速」
ゼロナイトと光の鎧戦士が同時に叫ぶ。
何者も目に捉えることができない早業で、両者が激突し、すれ違う。
光の鎧戦士の剣に異変が生じていた。
刃の中ほどで、二つに折れていたのだ。
「なぜだ。亜光速以上でないとこの剣は」
光の鎧戦士の言葉はそこで途切れた。
力の源を失い、事切れたのだ。
光の鎧戦士の体が光の粒子へと変わり、辺りへ拡散して消滅した。
「私の体は虚無と同質ゆえに、光速を超えることができたのだ」
既に葬った相手へと、ゼロナイトは答えた。
「さて、役目は果たしたぞダークナイトよ。再び二つに分かれるが良い」
ゼロナイトがそう言うと、ゼロナイトの輪郭が二重となり、二つの像が充分な距離を取った。
その一つがダークナイトに、もう一つがレイナイトへと変わった。
「おっと」
急に重力に抗えなくなった二名は、地面へ墜落する。
体勢を立て直したレイナイトは、落ちこんでいた。
「ああ!少し懲らしめるつもりが、命を奪ってしまった。なんたる失策!」
一度合体した影響か、ダメージが消えて完全な姿に戻ったダークナイトはそれを鼻で笑う。
少し経って、気を取り直したレイナイトが言う。
「さらばだ、ダークナイト。もう貴様と合体することもなかろう」
「こちらもご免こうむる」
ダークナイトが言い返す。
レイナイトは有翼のユニコーンを召喚して跨ると、何処かへと去っていった。
ダークナイトは、たまたま近くにあった木に違和感を覚えた。
風もないのに全体の木の葉がざわついている。
それは一時的なもので、しばらくして治まった。
「きっと小動物か何かだろう。
しかし今度ばかりは、ゼロナイトにならなければ確実に滅びていた」
ダークナイトは苦笑する。