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番外09 - 闇vs闇、雷



夜空には、半月より少し膨らんだ十日夜(とおかや)の月が煌々と輝く。

その下を、漆黒の鎧に身を包んだ者たちが、互いに引かれ合うかのように接近していく。

その二名は、ある程度の距離まで近づくとピタリと止まり、抜剣して対峙する。

一人の名はダークナイト。闇夜の化身である。

もう一人の名は闇の鎧戦士(ダークウォーリア)

ダークナイトより二回りほどごつい鎧を着込んでいる。

ダークナイトが闇の鎧戦士を見ると、32という数字が浮かんだ。

その者が、32人もの人間を殺しているということだ。

「俺は闇の鎧戦士(ダークウォーリア)。正直、仲間の仇討ちなんぞに興味はないが、

 強者をこの手で葬ることが俺の生き甲斐だ。

 幾人もの鎧戦士を屠ってきたお前はそこそこの強さと見た。

 ということで、相手をしてもらおうか」


闇の鎧戦士が話し終えると、少しの間静寂が訪れる。

先にダークナイトが仕掛けた。

”ギガス・ブレイカー”


「夜の訪れ」


両名がほぼ同時に唱える。

ダークナイトの剣が6メートルほどの大きさに巨大化し、

鎧戦士共通の弱点である剣めがけて水平に()いだ。

が、闇の鎧戦士はふっと消え、巨剣が通り過ぎた後に闇から現れた。

(テレポートか?)


ダークナイトがそう思う間に、闇の鎧戦士の姿がぶれた。

次の瞬間には、ギガス・ブレイカーごとダークナイトは上下に真っ二つになっていた。

その直後にガキィィィンと、けたたましい音が鳴り響く。

切り裂かれたギガス・ブレイカーは霧散し、闇へと還る。

「この世界、『青き世界』で迫り来る夜の速度は時速1666キロ。マッハ1.4に達する。

 俺はその速度で行動できるんだよ」


闇の鎧戦士が余裕の態度で話す。

ダークナイトは上下に分かれた体を即座にくっつけると、闇の鎧戦士の至近距離で術を繰り出す。

”ブラックホール”


直径2メートルほどの大きな漆黒の円盤が現れ、辺りの物をすごい勢いで吸引し始める。

だが闇の鎧戦士は、攻撃をものともせずにその場に立っていた。

ブラックホールの凶悪な引力の影響を微塵も受けていない様子だ。

「闇の魔法は俺には通じん。俺も同じ闇属性だからだ」


闇の鎧戦士は豪語する。

技が無駄だと判断したダークナイトは、即座にブラックホールを閉じる。

「その程度の技なら俺にもできる。

 ブラックホール」


闇の鎧戦士が唱えると、剣を持っていない方の左手の前方に、小規模のブラックホールが形成された。

猛烈な暴風が吹き、ブラックホールに吸い込まれていく。

「!」


当然の如くダークナイトの身体に影響は無いが、精神的動揺は隠せなかった。

ダークナイトは、直径1メートルほどの漆黒の球体を闇から造り出し、闇の鎧戦士に放った。

”ネオダークボール”


「無駄だ」

ブラックホールを閉じた闇の鎧戦士は、そのまま左手でネオダークボールを受け止める。

「ん?」


ネオダークボールは闇の鎧戦士の左手を呑み込み、そのまま左腕をも呑み込んだ。

遅まきながら危険を察知した闇の鎧戦士は、己の持つ漆黒の剣を遠方へ投げる。

その直後、闇の鎧戦士の体はネオダークボールに完全に呑まれて闇へと消えた。


ダークナイトは己の剣を闇から生成すると、闇の鎧戦士が投げた剣を追いかけた。

投擲(とうてき)された剣に夜の闇が渦巻き、まず剣を掴む右手首が、そして闇の鎧戦士の全身が再構築された。

そしてダークナイトの放つ斬撃を、闇の鎧戦士は剣で容易く受け止める。

(ちっ)


ダークナイトは心のうちで舌打ちした。

闇の鎧戦士を倒す絶好の機会を逃したのだ。

「なかなか物騒な技を持っているな、そのままお返ししよう。

 ネオダークボール」


闇の鎧戦士は、直径1メートルの漆黒の球体を、剣から放った。

ダークナイトはその場を動かず、漆黒の球体は彼を直撃した。

漆黒の球体は霧散し、その中にダークナイトが平然と立っていた。

「バカな。なぜ傷一つ付けられん」


闇の鎧戦士の問いに答えるように、ダークナイトが語る。

「最初に貴様の剣を受けて分かった。貴様の体は呪いに支配されている。

 ネオダークボールは、混じり気のない真なる闇を極めて初めて放てる。

 貴様が撃ったのは、単なるダークボールだ」


闇の鎧戦士は軽く衝撃を受けたようだ。

「呪いを媒体としない闇の力だと?そんなことが可能なのか?

 お前は闇属性の魔物ではなく、闇属性の精霊だとでも言うのか。

 にわかには信じがたい」


動揺する闇の鎧戦士に、ダークナイトは冷たく言い放つ。

「そろそろ終わりとしよう」


「ふん。お前の速度では、俺に触れることすらできまい」


そう言うと、闇の鎧戦士はふっと消える。

次の瞬間には、ダークナイトの両手足が切断され、宙に舞っていた。

再び現れた闇の鎧戦士は、自らの胸部を見た。

鎧に、薄っすらと横一文字の切り傷が付いている。

「貴様の速度にも大分慣れてきた。

 俺は闇夜の精霊だ。

 貴様の言う、夜の速度を俺が習得するのも時間の問題」


両手足を即座に結合、再生したダークナイトが言う。

「おのれ、小癪な」


今度は両者の姿が消える。

両者が姿を現したとき、両名は互いの剣を斬り結んでいた。

闇の鎧戦士が持つ漆黒の剣に、ほんのわずかにヒビが入った。

(まずいな。気にくわないが、手段を選んでいる場合ではないか)


少しばかり思考した闇の鎧戦士は、ダークナイトから少し距離を取ると、漆黒の剣を高く掲げた。

「ダークナイトとやら。お前を吸収し、我が力に変えてやる」


闇の鎧戦士がそう宣言すると、その手に持つ漆黒の剣から、

ブラックホールとは種類が異なる不気味な引力が発せられた。

ダークナイトの輪郭が本人の意思と関係なく闇の霧と化し、闇の鎧戦士の剣に吸い込まれていく。

かつてない危機を感じ取ったダークナイトは、次の一撃に全てを懸ける。

ダークナイトは剣を持つ右腕を自ら切り離し、闇の鎧戦士の剣へと突撃させた。

右腕が闇の鎧戦士の剣に吸収されるその刹那。

”ギガス・ブレイカー”


ダークナイトの剣が一瞬だけ巨大化し、すぐに縮小して闇の鎧戦士の剣に吸い込まれていった。

その一瞬の攻撃で充分だった。

闇の鎧戦士の剣は衝撃で、全体にヒビが入ったと思うと、粉々に砕け散った。

闇の鎧戦士の体は細かい闇の粒子となって、闇に溶けて消えた。

「呪いという不純物と再び一体化するなど、ご免こうむる」


全身を瞬時に再生させたダークナイトが、吐き捨てるように言う。

直後、ダークナイトからさほど離れていない所に稲妻が落ちる。

耳をつんざくような雷鳴が轟く中、ダークナイトは動じずにその場を去った。




そして翌日の夜。

夜空は暗雲に覆われ、時折雲の間に稲妻が走る。

ダークナイトは人気(ひとけ)のない荒地を彷徨い歩いていた。

突然、ダークナイトの真正面に稲妻が落ちた。

雷光と雷鳴が治まると、稲妻の落ちた場所に一人の鎧戦士が立っていた。

黄金(おうごん)色に輝く鎧の体。

その肉体に、時折スパークが走る。

鎧戦士は、雷鳴のようなくぐもった声で喋った。

「我は雷の鎧戦士(サンダーウォーリア)

 鎧戦士のサブリーダーである我までも引っ張り出したことは褒めてやる。

 だが貴様はここで最後だ」


雷の鎧戦士は、右手に装備した剣を高く掲げる。

呼応するように、ダークナイト無言で剣を抜く。

雷の鎧戦士に表示される数字は1。

雷の鎧戦士が唱える。

「落雷」


太い稲妻が空から落ち、ダークナイトに直撃した。

ダークナイトの節々から白い湯気が立ち昇る。

「無駄だ」


ダークナイトに全くダメージは入っていなかった。

ダークナイトは、習得した夜の速度で、雷の鎧戦士の剣めがけて斬りかかる。

斬撃は、最小限の動きでいとも簡単に躱された。

「落雷は通じんか。ならば、雷速」


気が付くと、ダークナイトは稲妻のようにジグザグに肩から切り裂かれていた。

斬られた断面は小さな爆発を起こし、ダークナイトの鎧のヒビが広がっていく。

負傷箇所は即座に再生させたが、ダークナイトは驚愕した。

夜の速度:マッハ1.4程度なら目視、迎撃できるが、雷の鎧戦士の動きを全く目で追えなかったのだ。

雷の鎧戦士が通った軌跡は枝分かれして強く発光して目に焼きつき、

稲妻がそのままぶつかって来たように見える。

「どうやら闇の鎧戦士から『夜の訪れ』をコピーしたようだが、その速度では我には通用しない。

 雷速は音速換算だと、マッハ453にもなる」


雷の鎧戦士が軽く説明する。

文字通り、速度のケタが違ったのだ。

ダークナイトはあくまで闇の精霊。

闇の領分である夜の速度を大きく超越することはできないのだ。

それがダークナイトの限界だった。

「さて、こちらも決定的な有効打がない訳だが、

 貴様が何かの拍子に消滅するまで何度でも切り刻んでやろう」


雷の鎧戦士が攻撃宣言をする。

(なんとしてでも奴の速度を落とさねば)


ダークナイトは僅かな時間で考えた後、防御のための術を展開した。

”ネオダークボール:グレインモード”

”剣召喚”

”ブラックホール”


ダークナイトの周囲を無数の米粒大のネオダークボールと、200を超える漆黒の剣が浮かんで覆う。

更に正面には、大きめのブラックホールが1つ設置された。

反則的な再生能力を持つダークナイトは、普段なら防御や回避など真面目にする必要がない。

なので、彼が全力で防御に徹するのは初である。

「落雷」


ネオダークボールの雲が、落ちてきた稲妻を吸収して一部消滅する。

結果、その部分が手薄になった。

次の瞬間には、雷の鎧戦士は消えていた。


ダークナイトは頭から稲妻状に切り裂かれたが、雷の鎧戦士の剣は、ダークナイトの腹部で止まっていた。

ダークナイトの狙い通り、雷の鎧戦士は充分な速度を出せなかったのだ。

それが切れ味に影響し、ダークナイトの体内で剣が止まってしまったのだった。

「くっ、抜けん」


ダークナイトの再生力に捕らえられた鎧戦士の剣は、引き抜くことができなかった。

ダークナイトは浮いていた漆黒の剣の一つを手に取ると、鎧戦士の稲妻を纏う剣を思いきり叩き折った。

鎧戦士の剣は剣身から二つに折れた。

ダークナイトの腹部に埋まっていた破片はその漆黒の体から解放され、地面に落ちた。

雷の鎧戦士の体が崩れ、その全てが細かい稲妻に変換された。

稲妻が止むと、やがて辺りに静寂が訪れた。

体を元通りに再生させたダークナイトは、展開していた術を全て解除した。


鎧戦士を倒すたびに鳴り響いていた稲妻が落ちる様子はない。

それは雷の鎧戦士が、偵察のために毎回落としていたものだったのだ。

いつの間にか夜空の暗雲が晴れ、星々と11日目の月が輝いていた。

一瞬、月がまるで太陽のように輝いたかと思うと、

天は昼のように明るくなり、またすぐに元の夜空に戻った。

新たな強敵の予兆に、ダークナイトは身を引き締めた。



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