表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

番外08 - vs熱、冷気



4000メートル級の高い山々。

山の中腹から頂上までは、真っ白な雪に覆われている。

雪原に林立するたくさんの樹氷。

その半数近くが、樹氷の怪物と呼ばれる異形の魔物だ。


やがて夕方になり、太陽が地平線に沈んだ。

辺りの夕闇が急激に濃くなっていく。

斜面の積雪の一部がぼこっと盛り上がる。

盛り上がった積雪が爆発のように舞い上がると、

そこには全身漆黒の鎧で出来た戦士が現れた。

その者の名はダークナイト。

呪われた魔物から、紆余曲折を経て自然の化身である精霊へと変化を遂げた人外である。

やがてダークナイトの周りに、樹氷の怪物達が鈍重な動きで近寄ってきた。

ダークナイトはその怪物たちを軽く見回した。

0、0、0、0、0、0、1、0、0、0。

怪物たちの体に数字が浮かんで見える。

ダークナイトは、生物が殺人を犯した回数を見る能力を獲得していたのだ。

ダークナイトは漆黒の剣を抜剣すると、滑るように移動し、

1の数字が浮かんだ樹氷の怪物を真っ二つに切り捨てた。

斬られた怪物は少しの間もがいたが、やがて息絶えた。

樹氷の怪物たちがまだまだ押し寄せてくる。

ダークナイトは0が浮かんだ怪物に興味を示すことはなく、

時折くる怪物の攻撃を紙一重で躱すに留めていた。

その時、雪山の(ふもと)から、煙のようなものがダークナイト側に向かってくるのが見えた。

その煙はみるみるうちに接近し、ダークナイトの目の前で止まった。

煙が通った後は、積雪が残らずきれいに溶けている。

少しして煙が晴れると、その中から焼けた鉄のように赤く発光する、鎧戦士が現れた。

「俺は熱の鎧戦士(ヒートウォーリア)だ。ダークナイトを討伐しに来た」


熱の鎧戦士が話す。

鎧戦士に浮かんだ数字は1。

ダークナイトは無言で剣を構えなおす。

熱の鎧戦士は既に、赤く発光する剣を手に装備していた。

「焦熱地獄」


熱の鎧戦士が唱えると、周囲の雪原が一瞬で溶け、膨大な湯気が夜空に昇った。

樹氷の怪物も1体残らず溶けて、ただの樹木に戻ってしまった。

その樹木も一つ、また一つと火が付いて燃え出し、辺りは瞬く間に火の海と化した。

「なんとも陰気な精神だ。わが熱で、肉体もろとも灰に還してやろう」


熱の鎧戦士はダークナイトをそう評した。

辺りの動植物は(ことごと)く燃え尽き、対峙する二体を除いて生物が存在できない不毛の地へと変わっていた。

しかもそれだけでは終わらない。

強力な熱で地面が融解し、辺りは溶岩の海へと変化した。

足場が無くなったので、ダークナイトは物影移動で熱の鎧戦士の2メートルほど上にテレポートした。

そして落下しながら漆黒の剣で、鎧戦士の弱点である剣へと斬りつけた。

ぬるっとした手応えと共に、真っ二つになったのはダークナイトの剣の方だった。

「はあっはっはっ、無駄だ。俺の剣は俺の使う術のどれよりも温度が高い。

 この剣に触れたが最後、如何なるものも融解、蒸発する」


熱の鎧戦士があざ笑う。

ダークナイトは溶けた剣を捨て、新たに夜陰から剣を取り出した。

辺りの熱は更に高まっていき、ついにダークナイト自身も脚から徐々に溶け始めた。

早期決着しないとまずい。

そう思ったダークナイトは暗黒の球体を連射した。

”ネオダークボール”


「火砕流」


熱の鎧戦士の言葉と共に湧き出した高熱の煙は、

ネオダークボールを呑み込むと、そのままダークナイトへ直進してきた。

ダークナイトは上方にテレポートし、火砕流を躱す。

既にダークナイトの体は、下半身が融解して無くなり、上半身も高熱により赤く発光し始めている。

ダークナイトは再び剣を捨て、新たな剣を作り出して、両手で装備した。

ダークナイトはテレポートで、熱の鎧戦士と刃を交えた。

「何度やっても同じこ」


熱の鎧戦士は言葉を失った。絶対無敵なはずの、己の赤い剣が二つに切り裂かれていたのだ。

”ネオダークボール:ブレードモード”


もはや両腕だけとなったダークナイトは、ネオダークボールを剣状に変形させ、斬りつけていたのだ。

ネオダークボールは、あらゆる物体を取り込んで無に還す性質がある。

熱の鎧戦士の剣がいくら高熱であろうと、ネオダークボールの前には無力だったのだ。

熱の鎧戦士は形を失うと、高熱の溶岩となって、周囲の溶岩と混ざり合った。

溶解が進み、両手のひらだけとなったダークナイトは、溶岩地帯から遠く離れた場所にテレポートした。

手のひらが十分に冷えると、ダークナイトの全身が1秒経たずに再生した。

「手ごわい相手だった」


ダークナイトは独りごちる。




翌日の昼。

熱の鎧戦士によって溶岩地帯に変えられた山岳を、氷のように透明な鎧戦士が登っている。

剣を手に装備した鎧戦士は、麓まで流れてきた熱い溶岩を踏みしめる。

その途端、溶岩は熱を失って岩盤に変化した。

鎧戦士は、そのまま山の中腹まで上り詰めると、白く半透明な剣を岩盤と化した溶岩に突き刺した。

山はみるみる冷えて、やがて空から雪まで振り出した。

数時間後、山はすっかり元の雪山に戻った。

ただし、木々は全て燃え尽きてしまったので、雪山名物の樹氷が形作られることはなかった。

鎧戦士は剣を岩盤から引き抜き、鞘に納めると、雪山を降りていった。

「此度の戦いで犠牲になった全ての動植物よ、冷気の棺で安らかに眠るがいい」


下山した鎧戦士は山に向かって呟く。




日が沈み、また夜が来た。

草がまばらに生える窪地にて、ダークナイトは鎧戦士の到来を待っていた。

やがてそれは来た。

全身が、氷のように白く半透明な鎧で出来た戦士。

その鎧戦士が一歩前に進むたび、夜の気温が少し下がるように感じられた。

「私は冷気の鎧戦士(コールドウォーリア)。狩られる理由は言わずとも分かるね?」


冷気の鎧戦士が言い終わると、ダークナイトと鎧戦士は互いに剣を抜き、対峙した。

冷気の鎧戦士に浮かぶ数字は1。

その者もまた、殺人を犯している証だ。

「絶対零度」


冷気の鎧戦士が術を唱える。

聞きなれない言葉に、ダークナイトは首を傾げる。

「解せぬといった様子か。貴殿にも分かりやすく言うならば、

 温度の下限であるマイナス273℃の冷気で凍てつかせるということだ」


冷気の鎧戦士が解説している間に、地面や草がピシッと凍り付いた。

ダークナイトは構わずに、自身の漆黒の剣で、冷気の鎧戦士の剣を斬りつけるため、

脚を動かそうとした。

しかし、脚どころか、体全身1ミリたりとも動かすことはできなかった。

ダークナイトは完全に凍り付いてしまったのだ。

ダークナイトは物影移動で冷気の鎧戦士のすぐ上にテレポートし、半ば無理やり剣を交錯させた。

だが全身が動かせず、剣に力が入らないため、漆黒の剣は氷のような剣に簡単に折られてしまった。

ダークナイトは再び物影移動で距離を取り、漆黒の球体を放った。

”ネオダークボール”


氷筍(ひょうじゅん)


地面から、上下逆さまになった極太のつららが生え、ネオダークボールを遮った。

ネオダークボールはどでかい氷筍の真ん中を一部呑み込むと、そのまま消滅した。

ダークナイトは少し考えを巡らす。

(身体を自由に動かせんことにはどうにもならん。

関節一つ動かせないとは)


そこまで考えて、ダークナイトの頭に閃くものがあった。

”ネオダークボール:グレインモード”


小石よりも小さい、無数のネオダークボールがダークナイトの周囲を覆った。

「無駄だ。氷筍」


冷気の鎧戦士は、巨大な氷筍を生成し、再び盾とする。

ところが、小粒で無数にあるネオダークボールは、全てダークナイト自身に降り注いだ。

それらはダークナイトの全身の関節を削り、(ことごと)く破壊した。

「自らを攻撃するとは、気が()れたか?」


冷気の鎧戦士が困惑する。

ダークナイトは答えずに、漆黒の剣を暗闇から取り出して、しっかりと()()

「!」


驚く冷気の鎧戦士を目で捉え、ダークナイトは高速で前進すると、漆黒の剣を水平に振り抜いた。

”ギガス・ブレイカー”


漆黒の剣が巨大化し、大きな氷筍ごと、冷気の鎧戦士とその剣を斬り払った。

冷気の鎧戦士が持っていた、半透明の剣がパキンと折れる。

冷気の鎧戦士は形を失い、同じ質量の水と化して地面に広がり、水たまりと化した。

水たまりは、地面の冷気に当てられ、再び凍結した。


ダークナイトは元の大きさに戻った剣を鞘に納めると、物影移動で酷寒の土地から離れる。

身体の冷気が充分に抜けると、ダークナイトは壊れた各関節を再生した。

凍った関節を砕き、体内の闇の力だけで身体の各パーツを無理やり動かした、というのがカラクリだ。

遠雷が(かす)かに轟く。

ダークナイトは遠雷に背を向け、何処へと去った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ