01 闇堕ち
ミッド:「ナイフを2本」
武器商人:「600ブロンになります」
ミッドはダガーを革袋にしまおうとして、
店の隅にひっそりと置いてある鎧に目がとまった。
ミッド:「あの鎧は売り物なの?」
武器商人:「これですか?この品は ある古城に立ち寄った際
城内で偶然見つけたものでして」
「城の持ち主に聞いても、こんな物は見た事がない、
と気味悪がっていましたので、うちで引き取ることになったんです」
「まだ鑑定が済んでいませんが、もし買うのでしたらお安くしときますよ?」
ミッド:「うーん・・・いくら?」
武器商人:「1000ブロンでどうです?」
ミッド:「よし、買った!」
武器商人:「まいどあり〜」
武器商人の店を後にし、購入したものをチェックする。
ナイフ。調理用 兼 護身用である。
貧乏な旅人には必須のアイテムといえる。
鎧。
・・・なんでこんなものを買ってしまったのだろう?
おかげで所持金の半分が吹っ飛んだ。
そこそこの重量と体積があるせいで
持ち運ぶのに苦労する。
大金をはたいたので
もったいなくて捨てる事も出来ない。
しょうがない・・・装備して運ぼう。
通気性が悪そうなので、汗だくになりそうだ。
いざ着込んでみると、全く重さを感じず
間接の部分も柔軟に曲がるので動きやすかった。
しかし、この格好は全く旅人らしくない。
どこぞのはぐれ兵士のようだ。
日が暮れてきた。暗くなる前に
宿泊予定の村まで着きたいところだ。
近頃は治安が悪く
あちこちで盗賊団が出没していると聞く。
急がねば。森の中の曲がりくねった道を
小走りに進んでいく。
急カーブを曲がりきると、そこには
十数人の男達がたむろしていた。
全員剣で武装している。
最悪だ。
盗賊団のメンバーがこちらに顔を向けた。
団員A:「こりゃ驚いた。兵士様がたった一人で迷子のご様子だ」
団員B:「生かしとくと厄介だ。バラしちまおうぜ」
どうやら生き延びるには、戦うしかないようだ。
勝率は絶望的だが。
鎧の腰の辺りに備わっていた剣を抜く。
盗賊団団長:「やる気か。おもしれえ。野郎ども、油断するなよ?
兵士はそこそこ剣の腕は立つはずだ」
もっともこちらは、兵士ではなく、ただの旅人に過ぎない。
剣術も得意とはいえない。
全身を覆う鎧の強度をあてにするしかないだろう。
団員が次々と襲い掛かってきた。
団員の斬撃を剣で受け止める。
パリンッと軽い音がして、こちらの剣が折れた!
そのまま斬撃を受け、地面に倒れる。
鎧がスパッと切れ、うっすらついた傷から血が滲み出る。
なんて脆い鎧だ!
団員の剣が閃き、ミッドの両腕が吹っ飛んだ。
切断面から、血が噴き出す。
団長:「おい、もたもたしてねえで、さっさと止めを刺しやがれ!」
いよいよ最期かと思ったその時
辺りがうっすらと暗くなった。
日が完全に落ちたようだ。
団員の剣が、ミッドの首に直撃する。
キィィィンと高い音をたて、団員の剣が静止した。
鎧はいつのまにか全身真っ黒に染まり
斬撃を弾く程度には丈夫になっていた。
暗闇のように真っ黒になったミッドの背後から
何かが飛んできた。
盗賊に切り飛ばされた、ミッドの両腕と剣だ。
こちらもやはり、漆黒に染まっている。
飛んできた両腕は
いつのまにか出血が止まっていた切断面に
ピタリと収まった。
折れた剣も元通りになっていた。
・・・影のように黒く染まっている事を除いて。
団員C:「ば、化け物だぁ!」
団長:「う、うろたえるな!今どき、化け物なんて珍しくもないわ!」
「首を狙え!さすがの怪物でも、首切り落としゃ殺せるだろう!」
近くにいた盗賊が、ミッドの首めがけて突きを放つ。
防御が遅れ、突きをまともに受けてしまった。
剣はミッドの首を貫き
後頭部を覆う鎧に突き当たって止まった。
団長:「やったか!?」
盗賊B:「手ごたえが・・・無え」
ミッドの持つ漆黒の剣が閃き
突きを当てた盗賊をばっさりと斬り捨てた。
盗賊の剣が、ミッドの首からするりと抜け
地面に刺さった。
団長:「撤退だ!全力で逃げろ!」
盗賊たちがバラバラの方向に逃げだす。
ミッド:「逃がすか」
ミッドは疾風のような速度で盗賊達に追いつき
次々と斬り捨てた。
ミッド:「残りはお前だけだ」
目の前に回りこまれた盗賊団の団長は腰を抜かし
ガタガタと震えていた。
団長:「た、助けてくれえ!お、俺の全財産をやる!
どうか命だけは・・・」
ミッド:「そうだな、手持ちの金全部と、ついでにお前の命も頂こう」
そう言うが早いか、ミッドの剣は
団長を頭から真っ二つにした。
盗賊たちの死体から金を漁りながら
今の状況について思考を巡らす。
確かに両腕は切り落とされ、首も貫かれたはずだ。
だが、両腕は何事も無かったかのように元通りにくっつき
首に至っては刺された感覚すら無かった。
首の傷の有無を確かめようと、首の辺りに手を伸ばす。
首があるはずの位置には、なんと何も無かった。
恐る恐る手探りで自分の顔や首から下を探ってみる。
いくら探しても、自分の元の肉体はなく
あるのは頑丈な鎧だけだった。
半ばパニックになり、鎧を脱ごうとしたが
いくら力まかせに引っ張っても、鎧はびくともしなかった。
脱げない。もしや呪われた鎧なのか?
”まだ鑑定が済んでいませんが〜”
武器商人の言葉を思い出す。
着てしまったからにはもう遅い。
呪い除けでも探したほうが良いのだろうか?
いや、先程の人間離れした能力、
あれもきっと呪いの一部だろう。
だとすれば、これほど便利なことはない。
呪い除けなど全く不要だ。
この容姿だと怪しまれるので村には行かず
森の中で野宿することにする。
夕食は・・・今の状態だと食べられないだろうし
腹も空いていないので、抜いても構わないだろう。
辺りはすっかり暗くなり
空には星々と三日月が輝いている。
ミッド:(他にすることもないし、寝るか。)
一向に眠くならないので
ひたすらに森の中を散歩していたら
空がうっすらと明るくなってきた。
これはチャンスだ。
散歩中に見つけた池のある場所に早足で向かう。
明るくなれば、池を覗き込んで
自分の姿を確認できる。
池に到着した。
水面に映るミッドの姿は、影のように真っ黒だった。
顔は闇に覆われているが
自身の両目だけはハッキリと見える。
ミッド:「俺も化け物の仲間入りってか」
急に水面の光が増したので
ミッドは地平線に視線を移した。
日の出だ。
体に違和感を感じたので、再び池の水面を覗き込む。
そこには、銀色の鎧を着た
20代ほどの青年が映っていた。
どうやら元の姿に戻ったようだ。
ほっとため息をつくと、グゥゥと腹が鳴った。
食料調達は、まだ続ける必要がありそうだ。