野宿
結局その日は野宿となった。
まず俺たちが暴れすぎたことで猛獣のような扱いを受けている。
つまり話しかけようとすれば全力疾走で逃げられるし、何かを買おうとするとギロチンのような勢いでシャッターが閉まる。
視線を向ければ首が折れるのではないかという勢いで顔をそむけられた。
非常に居心地が悪いが、甘んじて受け入れる。
一度腹を立てたリナが逃げ出した男を本気で追いかけるという事件が起こったが問題はない。
どうにかこうにか、夕食を口にすることもできたし火の使用許可もある。
虫の羽音は気になるが五感を操作することで無視する。
「明日……だね」
「そうね、あのバカがちゃんと仕事をしてくれていたらね」
「……最悪の場合適当な男でも差し出すか」
「それも一興」
他人を犠牲にするという行為に慣れてきている自分が嫌になる、なんてことも思わないほどに慣れてしまった。
人間はなれる生き物というが……それは神様になっても変わらないもんなのだろうか。
「神はね、慣れるのではなく耐えるのよ。
スルトはまだ完全には神になりきっていない。
だから慣れるのよ」
「……不完全な神様ってなんかフラグだよね」
「死亡フラグでないことを祈っておきましょう」
さらりと言われたが、リナに抱き着きたくなる言葉だった。
今までは祈っておきなさい、と言われていただろう。
けれど祈っておきましょう、つまりは一緒に祈ってくれるという事だ。
それだけ心の距離が近づいているのだろう。
そう思う事にする。
「リナ」
「なに」
「失礼します」
すでに藁山に横になっていたリナに背後から抱きつく。
腹部に手をまわしている為、危ない事にはなりえない。
「……暑い」
「布団が無くて寒いんだ、少しだけ頼むよ」
「……わかったわよ」
拗ねたように言って見せたリナだったが、紙の肉体というのはとても便利だ。
リナの耳が真っ赤になっているのが、こんな暗闇であってもはっきり見える。
そのことに気付いているのだろうか、さっと髪を上げて耳を隠されてしまった。
「おやすみリナ」
「……おやすみなさい、スルト」
リナの表情は見えないが、先ほどから小刻みに震えている。
その理由はわからないが、いやなら力ずくで振りほどくだろう。
そもそも俺は力を入れていないから簡単に脱出できる。
問題は、俺が寝付けるかどうかだ。
魔法使い予備軍だった綺麗な体だったのでどうしたらいいのかわからないが……我慢は大切だと思う。
月を見上げてそう思った。
≪sideリナ≫
スルトに抱き着かれている。
母体に包まれているような安心感、というのはこれの事だろう。
口では暑いと言ってしまったが、暖かくて気持ちいい。
スルトはなんだかんだでへたれだからこれ以上のことはしないと思うし信じている。
されてもいいけれど、それならムードを考えてほしい。
あぁ、久しく味わっていなかった。
人と触れ合う喜びというのはこういうものだったんだな。
今日はいい夢が見れそうだ……その前に耳を隠しておこう。
たぶん真っ赤になっているから。




