バルバトス
「これはすごい威力だな」
リナが魔法を行使した跡を見て一人の男が声を上げた。
その姿は他の者と同じく豪勢な鎧装束だが、よく見ると剣の造りが少し違っている。
何と表現していいのかわからないけれど、精巧な作りのようだ。
「あぁ申し遅れた、俺が今指名されたこの国の王だ。
名前はバルバス、お互いに損にならない範囲でよろしくしたいところだな」
「俺はジョン、こっちはジェーンだ」
「知っている、突然俺の国に表れて、ギルドで暴れて、強烈な気配をまき散らして国民をばったばったと気絶させたカップルだろ。
有名だぞお前ら」
どうやらさっきリナがスルトと呼んだことには気づいていないらしい。
もしくは気付いた上でスルーしてくれているのかもしれない。
どちらにせよあまり重要なことではない。
ひとまずバルバスの様子を観察してみる。
ガタイはそれなりによさそうだ、正確な数字まではわからないけれど180cmはこえているだろう。
それに装飾が少ないとはいえ武骨な鎧を着て最前線に来られる程度の実力はあるらしい。
武器も、よく見ると使い込まれた跡がある。
以上のことを踏まえて国王というのはうその可能性が高い。
そう考えてリナに視線を向けると唖然としていた。
「り……ジェーン? 」
「バルバ……ス、だったわね。
いろいろとあんたと交渉がしたいのよ。
そっちにとっても悪い話じゃないと思うけれど」
「交渉か、かまわんぞ」
唖然としていたのは一瞬で、すぐにいつもの不敵な態度を見せる。
もちろん顔を隠しているため顔には出していないが、少し焦りが見えるのは関係が進展してきたからだろうか。
「そうだな、こういうのは有利な側が条件を出すのがセオリーだ。
というわけで、俺が出す条件はお前らを俺の城に招待したい。
どうだ」
自分が有利と信じて疑わない、その様子が見て取れる。
正直な話負けるとは思えないが、数の上では向こうが有利ということなのだろう。
俺たちと、向こうの戦力差を考えていないというのは言うまでもないことだろう。
「こちらの条件は二つ、かかわるな、そしてギルド登録を認めろ」
「いいぞ、おいギルマス。
こいつらを登録しておけ。
ランクなんざ適当で構わん。
俺の権限で最高ランクにしてもかまわん」
自称国王のバルバスの言葉に臨戦態勢だったギルドマスターが恭しく礼をしてギルドに向かって歩き出した。
たぶんバルバスの命令を聞いてのことだろう。
「お前らも解散だ解散、ほれとっとと持ち場に戻れ。
あとけが人連れて行け、骨が折れてるかもしれんから気をつけろ」
その場にいた全員が、バルバスに対して頭を下げて散り散りになり始めた。
……何かがおかしい。
俺の記憶の中でよく似たことがあった気がする。
「ジェーン、こいつもしかして」
「ひさしぶりね、バルバトス」
「おう久しいな最高神。
何世紀ぶりだっけか。
旦那ができたと聞いて見に来たけどなかなかいい男捕まえたじゃねえか。
神に向かって使い魔になれなんて言うだけのことはあるぜ」
やはり、というべきだろう。
こいつはリナの同類、神様か悪魔だ。
その性格から悪魔よりなのかもしれない。
「おいスルトとか言ったけか。
お前いい男じゃねえか。
気に入ったぞ」
「え、あ、はい」
急に声をかけられて少し焦る。
というかいきなり気に入られたとか言われてもごつい鎧の男が相手だとどうしてもしりの穴がむず痒くなる。
「おい、最高神。
一晩この男貸してくれよ、何度か相手してるんだろどうせ。
三人一緒でも構わねえからげぶはっ」
バルバス、いやリナの呼び方からするとバルバトスか、奴がそういった瞬間思わず蹴り飛ばした。
いつの間にか俺の目の前に移動して、肩に手を置かれていたのもあって嫌悪感がすさまじい。
それに合わせてリナがバルバトスの腹にこぶしを叩き込んでいた。
おそらく今リナは仮面の下で顔を赤くしていることだろう。
それが見れないのが非常に残念であると同時に、バルバスに対して怒りを覚えてくれたことにうれしくも感じるし、殴られたバルバトスがうらやましいと思ってしまったあたり俺はもう戻れないのかもしれない。
そしてこのバルバトスという男、男色ということを除いては案外趣味が合うのかもしれない。
ビクンビクンと反応を示していることから恍惚の表情をフルフェイスの鎧の下で浮かべている可能性もある。
だからと言ってこの男に好き好んで近づくことは未来永劫ないだろう。
そう決心した。




