嘘と
翌朝、子供たちを起こしてリリカの作った朝食を食べながら話を切り出した。
「お前らには言ってなかったかもしれないが俺とリナって読心術が使えるんだよ」
俺の言葉にレイス含む子供六人が目を見開いた。
まだ誰がよからぬ企みをしているのかはわからないけど、明らかに怪しいのが二人。
その二人だけ少し汗をかいている。
「それでな、実は今回連れてきた、レイス以外の五人の中に良くないことを企んでいるやからがいてな~」
まるで世間話のように話を進める。
子供たちの視線は俺に集中している。
一度スープを飲むのを止めて、少年に微笑みかける。
汗をかいていた方のやつだ。
「男女一人ずつだった、それでだな」
そう言った瞬間、俺が笑顔を向けていた少年と、俺の横に座っていた少女が食卓の上に置いてあったナイフを掴み俺とリナの首につきつけた。
「レイス」
リナがそう呟いた。
それと同時に、リナの首にナイフを突きつけていた少年の腕、その肘あたりにフォークとナイフが突き立てられた。
そのナイフとフォークはレイスが握っている。
「あああぁあぁぁぁぁっぁああ!」
少年が腕を抑えて叫ぶ。
「リリカ」
俺の言葉にかまどの前にいたリリカが立ち上がった。
そして、一瞬の間に俺たちが囲んでいたテーブルを通り越し、窓際で包丁についた血を拭っていた。
その動作に応じる様に少女の首が落ちた。
余談だが我が家の包丁はオリハルコン製の物とヒヒイロカネ製の二種類がある。
リナが食材をさばく際に切れ味を追求した結果こうなった。
これまた余談だが、まな板は世界樹製で鍋やフライパンは魔力伝導に優れたミスリル。
魔力の伝導だけでなく熱伝導も良かったので採用した。
これだけで大国の国家予算に匹敵すると言われたときは頭痛がした。
「いやはや、うまくいったもんだな」
「予想外に単純だったわね」
本来は心理戦が始まると考えていたが、所詮は子供だったというべきだろうか。
いくら神の血で思考が強化されても経験が足りなさ過ぎたのだろう。
それはほかの子供たちにも見られる。
レイスを除く三人は何が起こったのかを理解した瞬間嘔吐した。
レイスは自分が何をしたのか、それをはっきり理解した上でこらえているように見えた。
リリカは包丁の切れ味にうっとりしていた。
「さてさて、それでこのふたりはどうしようか」
「首謀者のところに首から下だけひき肉にして贈るのはどうかしら」
「いまいちインパクトに欠けるな……送って、目の前で弾けるのはどうだろ。
ほら北の拳法くらったモヒカンみたいに」
「あれはあれで面白いんだけどね……あ、ならいっそ両方プラスアルファというのはどうかしら。
首下はミンチだけど首から上はまだ思考していて、何かメッセージを与えてそれを喋った瞬間残った頭も弾けるとか」
「いいなそれ、インパクトとしては最高だ」
だんだん自分が人間としての思考を捨てていることに気づいたけどどうでも良くなった。
この辺も神の精神とかの影響なんだろう。
「悪魔が……」
レイスに腕を刺された少年がそう呻いた。
「あながち間違いでもないわよ、神と悪魔、コインの裏と表、悪と善、そんなのは表裏一体。
知ってる?元天使の悪魔だっているのよ?神と悪魔の違いなんて人間の願いを聞くか否かよ」
リナ曰く、悪魔なんてのは神のもうひとつの姿。
悪魔となって人間の願いを叶える対価をもらう。
その対価の余りで無病息災やら家内安全などの簡単な願いを叶えるそうだ。
「さて、じゃあ言い残すことはないわね。さようなら、名も知らぬ少年少女」
リナがそう言った瞬間、首を切り落とされた少女と腕にナイフとフォークの刺さった少年は消えた。
あとには血のついた食器が落ちるだけだった。
このナイフとフォークもオリハルコン製なんで一般人に渡すわけにはいかない。
「あの二人の黒幕って誰だったんだ?」
ふと気になったのでリナに質問をぶつける。
その質問にリナは、飲み干したスープの皿をまだうっとりしていたリリカに渡して、おかわりを要求してから答えた。
「女の子の方は奴隷になった、つまり罪を犯した子供のリーダー格。
監獄管理とかそう言う奴らも賄賂を渡したことで簡単に合わせてくれたみたいね。
あの少女は盗品の管理役だったからお金もあったみたい。
それでレイスの情報を得るために一緒に行動していて、私たちと神の血のことを知った。
それを盗人リーダー格に話して今回の件につながったみたいね」
哀れといえば哀れ、愚かといえば愚かな結末だな……。
多分リーダーに惚れていたんだろう。
でなければ自分だけ幸せならとか考えてここで生活するというのもあったわけだし。
「少年の方は国そのものね。
レイスが最初に神の血のこととかを話した後、神聖ロズアリアの偵察隊が到着。
金で釣ってあちこちから情報を得ていたみたい。
その時少年も声をかけられたけど偵察隊は少年の話を鵜呑みにすることはなかった。
けれど神を名乗る者がいれば神聖国家としては処罰を下せるし、そういうものを連れてきた兵士はボーナスも出るみたいだからね。
その力か神と名乗る者、この場合私達ね。そのどちらか片方、もしくは両方を連れてきたら大金を用意するって話だったみたいよ」
なんとも……擁護のしようがないお話で。
なんで金が必要だったかはわからないけど金に釣られたってことか。
「お金に釣られた理由は、一生を遊んで暮らせるだけ用意するって話だったから見たい」
ますます擁護できなくなった。
「残った三人は大丈夫そうか?」
わざと、レイス以外の子供に聞こえる声で質問する。
「……大丈夫よ、最初は私たちに対する怒りとかがあったみたいだけど裏切られたと感じたのか、今ではあの二人に対する憤りのが強いわ。
それに私たちが本気になったら、そう考えたら変なこと企む気はなくなったみたいよ」
「それは何より、最後に一つ。
レイス随分いい反応していたな」
ある意味一番気になった。
なんであんなに早く反応して、行動に移せたのだろうか。
「修練の賜物よ。
私はレイスが起きるまで動けなかったから部下やお友達に頼んで子供たちの安全と、レイスの特訓をお願いしていたの。
地力が違うからリリカには勝てないけどレイスは……私たちと、リリカと、英雄ツルギの次に強い存在よ」
あぁ、リナの部下の人か。
また押し付けられたんだろうな。
それとリナのお友達がどんな神様なのか、ちょっとだぇ気になる。
だが、それ以上に半年も俺のそばにいてくれたということに感激した!
ついにデレが始まった!
一緒にお風呂にも入ってくれたしデレは素晴らしい!
……まだ一線は越えていないがなちくしょう。




