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はじめまして魔王様

「はじめまして、魔王をしていましたリリカと申します」


ドアの向こうに立っていた女性はそう言ってから頭を下げた。

魔王だからもっと高飛車なのとか神様モードのリナみたいなのを想像していたんだが……。


「半年前帰ってきた時のことよ、この小娘は勝手にこの家に住みついていたの。

それをとがめて出て行くように行ったら襲いかかってきたから返り討ちにして、ついでで給仕としてつかっていたのよ。」


魔王様が給仕……さすが神様はスケールがでかかった。

というかなぜ魔王はこんなところにいたのだろうか。


「ここにいた理由は休暇だそうよ、人間は弱いし魔族はワンマンプレイヤーが多いから魔王と言っても形だけだったらしくてね、あまりに暇だからしばらく休みをくれと側近さんに行ったらあっさり受け入れられたそうよ。

それでやることもないしのんびりできるところを探していたらここにたどり着いたみたい。」


そしてぼこられて給仕にされて……散々だなおい。


「あげく魔王の座も当時の側近に奪われて元魔王様へと成り下がっちゃったのよ」


「泣きっ面に蜂が飛んできて後頭部にタイキックだな」


「不幸なんてのは重なるものよ」


神様に言われると嫌な説得力があるな。

それにしても……このつんけんした表情……さすがまおう、侮れない可愛らしさだ。


「それで、これからどうするんだ?」


この魔王さまの今後も、俺たちの今後のも、どっちもどうするのだろうか。


「ひとまず英雄ツルギだけど手は打ってあるから放置で問題ないわ」


「どんな?」


「神聖ロズアリア首都に私の知人を送り込んだわ。一応最高神クラスの神だから捕まるようなことはないと思うわ。

動いてもらうために秘蔵のお酒を根こそぎ持って行かれたけど……」


あ、お酒持ってかれたんだ。

そういえばこの家の床下にも幾つか酒瓶おいてたな。


「そいつにメッセージを渡したのよ。英雄を解放して人間至上主義の撤回を命じる、断れば神の怒りを買う。ってね」


「神の怒りって……槍くらいは降らせそうだな」


「そんなことしないわよ」


そう言ったリナの目が泳いでいたのはここだけの話としておこう。

多分こいつ降らせる気だ。

槍じゃないにしても何か降らせる気だ。


「まぁ英雄はそれでいいか、子供はどうする?」


「あんたが決めなさいな、あの子供を助けたのはあんたなんだから」


そう言われてしまうとどうしょうもないんだが……このままほっとくのは一番ダメな選択だよな。

いくら力を手に入れたといっても子供なんだし。

うーん……一番いいのはここに連れてくることかな。

でもレイスって言ったけか、彼は大丈夫だとしてもほかの子供はここに来れないしな……。


「リナ、レイスと他の子供たちをここに連れてくることはできないかな」


「……やろうと思えばできなくもないわ」


「本当か?」


「確かに現状だとそれが一番いい方法だと思うわ、でもある意味最悪の方法でもあるわよ」


「どういうことだ?」


リナの表情がとても険しい。

それに最善で最悪の方法と言われても意味がわからない。


「簡単に言うなればあんたの血をほかの子供たちにも飲ませるのよ」


「飲めばここに来ても魔力過多で体を壊すことはない、でも飲まなければここに来ることはできない……」


「そういうこと、つまり子供たちに枷を付けてでもここに連れてくるか、断った子供を野垂れ死にさせるかの二択よ」


なるほど確かに最悪だ。

命の保障としては最善だけど今後のことを考えると……。


「レイスと子供たちに話を聞いて決めよう」


「あらそう」


リナは予想していたと言わんばかりにそう呟いた。


「彼女、リリカはどうする」


「ここで給仕させるわ、というかこの娘は私が無理やり血を飲ませたから、私の命令には逆らえないようになってるし、死なない体をあげたからほっといても問題ないわよ」


あぁ……なんかリリカがかわいそうになってきた。

もうなんというか……絶望に絶望を重ねたみたいな状況に追い込まれたのにまだ絶望することが残っているような。


「じゃあ俺たちはどうするよ」


「そうね……前とは反対方向に行ってみましょう。

そろそろギルド登録とかもしたいし」


ギルドか……そういえばそんな話もしてたな。

確かに異世界と言ったらそういうお仕事もあるもんな。


「そういえばそのギルドの段位性ってのはアルファベットだっけか」


「この世界は……というか私たちはね」


「なんでだ?」


異世界でアルファベットが通じるとは思えない、通じない記号を使う意味がわからない、何より誰が思いついたのかという話になる。

この段位性には謎がいっぱいだ。


「私の趣味で翻訳の意味を変えたの」


帰ってきた答えは予想の斜め上だった。


「はい?」


「ほら、こういう異世界物のお約束でギルドがあって大体の段位はアルファベットでしょう?それ見てていいなーって思ったの。

でもそれだとこっちの世界の住人には通じないから別の段位を設けたのよ。

だけど私たちにとってはそんな段位よりアルファベットのがわかりやすいの、なにより親しみやすいの。

だから段位の部分だけ翻訳の意味を変えてアルファベットにしたのよ。」


「……つまり、本当は違うけど俺とリナだけアルファベットに翻訳されるようになっていると?」


「そのとおりよ」


「じゃあ本当の段位は?」


「この世界の段位は物の重さね、最上級だとこの世界で命の意味のレシア、最低レベルは羽毛を意味するトレス、でもアルファベットのがわかりやすいでしょう?」


たしかに俺はレシアだ~とか言われるよりSランクだ~のがピンとくる。

なるほど面白い話だ。


「じゃあまずは子供たちと話をして、次にギルドか」


「そうね」


「よし、じゃあ準備だ……っ」


立ち上がろうとした瞬間、めまいがしてベッドに座り込む羽目になった。


「まだダメよ、三ヶ月で魂と精神を神レベルに昇華させたんだから。相当な荒業なのよ」


三ヶ月で精神と魂を神様のそれにした……あれ?けいさんがあわないなー。


「もしかして俺が半年間寝ていた理由って……」


「えぇ、その昇華の影響ね。三ヶ月間寝ていたのは反発とダメージが原因だけど」


「……まぁ倒れるよりは迷惑かけないか」


「そのとおりよ、いい感じに神らしい考え方ができるようになっているようだし問題なさそうね」


リナが満足そうなので何よりです、はい。


「それじゃ俺が回復次第出発かな?」


「そうしましょう」


こうして俺たちの次の目的が決まった。

残念なことに俺が完全に回復したのは、それから一月経ってからだったが目覚めてから一週間で旅を再開するめどはたった。

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