おいでませ異世界
「なるほど、森だ」
あの扉をくぐった瞬間、世界が暗転して何も見えなくなった。
そのあとすぐに世界は色を取り戻したが……そこは一面見渡す限り森だった。
というかジャングル、木がとてつもなくでかい。
俺が両手伸ばして……五人集まっても眼の前の木を囲むことはできないと思う。
そんな木が群生しているわけで、当然日の光もほとんど当たらない。
ひとまずあの女神が来るまで待つとしよ『お待たせ主』来たか女神。
「はやかったな」
「うん、あっさり納得してくれたよ。やっぱ話し合いは大切だね」
その話し合いには暴力がつきものだろうに。
それにしてもなんか雰囲気が違うような……いや、女神もなんだけど俺自身なんか体に違和感がある。
女神に関してはいまだにあのシルエットなんだけどね。
「あぁ、言い忘れてたね。この世界に来るにあたって、私は普通の人間の姿を取り普通の人間として生活する。そのため言葉づかいもだいぶ砕いたものとなる。ここまではいいかの?」
ふむ、違和感がすごいけどまぁあり。
まだシルエットなのはいただけないが声がかわいらしいからな。
「さっきまで話していた時のような威厳を出すつもりもない。今の私はまだ影にしか見えないだろうけどすぐに普通の女性の姿を取る。それにあたって主には頼みがある」
「なんだい?」
「年頃の男女という旅人は目立つ。なので当面は夫婦ということにしたいと思っておるのだがな」
「なんだと!?」
夫婦……夫婦か……いいな。うんすばらしい。
夫婦ってことはあんなことやこんなこともありなんだよね……女神にも……穴はあるんだよな……。
「主さいてー」
「心を読みやがった!?」
「表情がそこはかとなく最低だったので読ませてもらった。まぁそういった営みに関しては応相談ということで、普段から敬語は抜き、呼び方も人がいないときだけ主と呼びそれ以外の場合はすべて名前で呼ぶつもりだ。」
「もちろんかまわないさ、応相談か……まぁいいとしよう。それで、俺は君を何て呼べばいい」
俺はあの日みた女神の名前をまだ知らない。
あの日というか今日なんだけどね、ともかく名前を知らないのでなんて呼べばいいかもわからん。
「そうだな……ではリナと呼んでくれ」
「名前の由来は本名?」
「いんや、大盗賊キラーにして大魔導師のあれ」
あぁなるほど、あの大魔導師か……うん、まぁつっこみはやめておこう。
「それじゃあ俺のことは「スルトと呼ぼう」はい?」
なんで名づけられてるの?俺。
「日本人の名前ってこの世界だと恐ろしく目立つのでな、なのでこっちではそれなりになじみ深い名前で呼ばせてもらうぞスルト」
「そういうことならしかたない……苗字は?」
「王族のみ国の名前を苗字として使っている、一般人は貴族も含めて苗字は使わん。一部の帰属は特別な紋章で区別しているようだがな」
なるほど、苗字みんなないのか。
俺の知ってるファンタジーの王道ものだとみんな苗字有りか、貴族以上の階級者のみ持ってるって設定が多かった気がするな。
「さて、ここまではいいかの?」
「おう、ばっちりだ」
「そうか、では今後の予定を決める。まず主にはこの世界の常識について学んでもらう。幸いこの森に人が近づくことはないのでゆっくり時間をかけて学んでもらうぞ。それと並行して主が使っている新しい肉体の動かし方と戦い方の勉強だ。それらを終えたら森から出るとしよう」
なるほど、今後はしばらくお勉強か……いや必要なことだもんな。
常識を知らないで無礼なことして騒ぎになるなんて嫌だもん俺。
ただそれ以上に気になる項目があったな……。
「新しい肉体って……」
「あぁ、言ってなかったの。主の体はゼロから作り直した。」
「はい?」
「いや、普通の地球人の肉体で主の望みをかなえるのは不可能なのでな。まず不老不死ということで老いない肉体、神の器を使って肉体を形成、最強ということなので考えうる限りの力を与え、空間移動だのなんだのも付け加えてみた。まぁその身体だけを見れば神、それも最高神クラスの物だ」
つまり……なんだ?俺ってば神様になっちゃったということですか?
「別に神になったわけではない。肉体が神の物で魂は人間の物だ。もっともその肉体に宿って百年も待ってれば神の魂へと昇華しうるけどな」
「あーつまり神様になるのは確定事項だけどまだ違うってこと?」
「うむ、バカの割には呑み込みが早いの。新しい肉体のおかげだ」
こいつは一言余計なんだな。
そこはかとなくカチンときたがここは抑えておこう。
「たかが人間の身で最高神の中の最高神を使役できるわけがなかろう。それに見た目もあれだったので私好みにいじらせてもらった」
「見た目も?」
「うむ、百人中百人は振り向くイケメンだ、まぁ浮気したらその顔を溶かして化けものの顔に変えてやるから覚悟しておくといい」
こわっ!女神こわっ!
よく神話の女神様って嫉妬深く描かれていたりするけどこれは怖いわ。
「さて、それではそろそろ寝どこを探して勉強に勤しむとするかの、主様よ」
あ、その主様って呼び方素敵。
なんかきゅんとくる響きだ、いい。