お前使い魔になれ
『……は?』
神が三十秒ほど停止してから一言だけ声を絞り出した。
「お前俺の使い魔になれ」
『……使い魔だと?……この私が?神である私が人間の使い魔?それも全てにおいて平均よりはるかに劣る小僧の……?くく……くくかかかかか……いい度胸だ小僧』
あ……ちょっと怖い、光っている女性とは表現したけどロングヘアとシルエットしか見えない物体が大爆笑しながら怒気放ってくるとかシャレにならない。
というか全てにおいて平均よりはるかに劣るって……そりゃ運動は苦手だし物覚え悪いし不器用だしブサイクだしスタイル悪いし性格悪いといろいろ最悪だけどそれでも頑張っているんだぞコノヤロウ。
成績とかそういうのなんとかしようと必死にやってようやく平均までこぎつけているんだぞ。
黒歴史なんかできるヒマもなかったほど頑張ったのになんて言い草だ駄女神め。
というか未だに笑ってるし、そろそろ戻ってこいよ。
もう敬語なんか使ってやるものか。
『ふぅ、何世紀ぶりかに大爆笑した。それにしても使い魔か……』
駄女神が光のシルエットのまま顎に手を当て考え込んでいる。
なんか彫刻とかでこんなのありそうだ。
「今更叶えないとか言わないよな?約束なんだし」
『うむ、まぁ私個人としては使い魔になるのは問題ないんだが……』
あ、問題ないんですか。
だったらさっきの怒気なんだよとは言いたいけど黙っておこう。
『他の神々がうるさいだろうからな……それに私が使い魔となると小僧の世界最強という願いがとても難しくなってしまう』
「ほかの神々?それに難しいってどういうことだ?」
『まぁまて、順を追って説明する。先ほども言ったように小僧にこれから言ってもらう世界は私自ら創造した世界でな、その元として小僧の世界の娯楽を使ってみたのだ。その結果過去にないほど広大な世界と強大な種族が多数生まれてな、三百年ほど前までは種族間でいがみ合っておったが最近は平和そのもので種族間のぶつかり合いなんかもほとんどなくなっているのだよ。』
「それはいいことなんでない?」
『それだけを見ればな。問題は戦争とは技術力を急速に引き上げてくれるものである、ということにある。平和になった今、これ以上の技術力向上は見込めない、正確には急速な向上だがゆったり技術力を磨いていくなんてのは見ててつまらん。だからといって今のまま何百年も戦争が再開されるのを待つのもつまらん。そこで、起爆剤として魔族という新しい種族を生み出したのだ。』
あ……なんとなく話が読めてきた。
『問題はその魔族が思いの外いい出来で最下級の神くらいの力があるんだよね』
あーやっぱり強すぎてどうにもならなくなっちゃったわけですか。
『それに【世界を適度に混乱させろ】って命令を下した一匹に至っては勝手に魔王とか名乗っちゃってさ。タチが悪いことにそいつは普通の下級神くらいの実力があるのよこれが。もっとも、世界は私が作ったものだから限界容量なんてあってないようなものだし適当に神送り込んでもいいんだけど……ここにも問題があってね。私が作った世界のためか中級神程度の奴らじゃ普通の人間レベルまで力を抑えられちゃうらしくてね……魔族をどうにかするには最高神クラスでも送り込まないといけないのよこれが』
なんかものすごく軽く語ってくれちゃってますが大問題なのでは?
『でも最高神って基本的に食っちゃ寝してるニートなんで命令してもそんなことやってくれないしね……なにより神なんかが出てきたら速攻で片付けちゃうから人間かほかの種族の技術力向上にはならないわけよ。そこで選んだのがあんたら十二人、もう十一人は帰宅しやがったけど一人確保できただけども重畳だわ。むしろ一人に絞れたからこそある程度自由に願いをかなえられるというものね。』
最高神がニートっていいのかそれ……というか最高神に命令ってこの神もしかして結構えらい?
『それで世界最強とかそこまではよかったんだけど私を使い魔にするとなると問題が一つ……神々なんか二、三発どつけばおとなしくなるからいいとして、あんたをその世界最強とするには私以上の力が必要となる。なにしろ私がそこについていくことになるわけだから、どうあがいてもあんたはナンバー2にしかなれないの、最強は無理なの。それに私以上の力を持った神なんていないし、いても働かないでしょうからね』
今この神さらりと自分が最強の神だって言いやがりましたが?
というか神をどつくって……。
『最強は無理でも私に準ずる程度の力はあげられる。それとも私を使い魔にするのをあきらめて神を含む中で私を除いて世界最強とするかのどちらかを選んでもらわなきゃならないわ』
「じゃああんたに準ずる程度の能力で」
迷うわけがない、最高神に準ずる不老不死とか神となんら変わらんでしょそれ。
チートとか最強系主人公とか大好物だった俺にとってご褒美でしかない。
『即断即決、いいわねさっぱりしてて。じゃあ神々どついて納得させておくから先に行ってなさい。遅くても一時間もすれば合流できるから。場所は人が立ち入れない危険な森の中、あんた……いえ、これからは私は使い魔だからね、ふーむ……よし、主と呼ばせてもらおうかしら。主の世界の創作物がもとになっているから天プレは山森、そんな世界である字はチートで最強で卑怯くさい実力の持ち主、揚句不老不死。さあ主の準備は出来たわ。その扉を通って新たな世界へ旅立ちなさい』
女神がノリノリで手を叩くとさっきゼミの仲間が地球に変えるのに使った扉と全く同じものが現れた。
見た目は学校の教室の扉、つまり引き戸。
なんか微妙な気分になってくる。
そう思いながらも取っ手をつかみ、引き開け、一歩踏み出した瞬間、世界が暗転した。
〈side 女神〉
『よろしいのですか?あのような願いをかなえて』
『いいのよ、面白そうじゃない』
私の主は気づいていなかったようだけど今回のことはあらゆる神によってみられていた。
途中怒気を飛ばすとか余計なことをしたのもいたけどそれはどうでもいい。
問題は、主が認められたかどうかということ。
『あのものが力におぼれたりすると思いませんか?』
『その時はその時、そもそも私というストッパーがいれば何とでもなるでしょう。それに主自体力加減ができるようにとも考えていたみたいだしね。最悪の場合荒神でも戦神でも闘神でも神ならなんでもいいのよ。力さえあればね。』
すくなくとも暴走するようならそれなりの方法で対処するつもりだしね。
『そうですね、では今後はどうされる予定で?』
『そうね、ひとまず主を鍛えるわ。まずは精神、それから力の使い方、最後に今回主たち十二人を呼んだ本当の理由を話してすべておしまい。もっとも十一人には逃げられたけど……あの逃げたやつらは今後が大変ね。』
『はい、まあ彼らについては順次報告しますのであなた様はどうぞあの世界を堪能してください』
『ふーん、報告してくれるんだ。珍しく働くのね。まぁいいわ、言われるまでもなく堪能し尽くすつもりよ。あなただって知っているでしょ?私は地球という世界のファンタジーとシミュレーションゲームというものが大好きだってこと、私が今回ありとあらゆる知識を使って創り出した、あらゆる神にとってあらゆる意味で最高な世界。それを主もろとも育てるなんて堪能しなければもったいないわ。あぁわくわくする。』
『ふふ、そうですね。ではそろそろ……』
『そうね、何かあったら報告お願いね。』
『万事、お任せください』
ふふ、優秀な部下がいるって最高。
さぁ、私も早く主の下へいこう。