美人連れ×治安悪い×食堂=
宿屋はすぐに見つかった。
リヤカー引いて歩いていると商店街のおばちゃんやらおっちゃんやらがやたら話しかけてきて、リヤカーもろとも毛皮売ってくれとか言い出してきた。
全部リナが断ったけど。
リナ曰く、ここまで邪気を溜め込んでる相手を信用することはできない、だそうだ。
ただ情報交換として、宿屋の位置を教えてもらうために干し肉あげたりとかはした。
そのままリヤカー引っ張って宿屋に到着、リヤカーは荷物にシートかけて物理的魔術的両面で施錠しておいたから盗まれることはない、と思う。
「一晩泊まりたい」
宿に着いてすぐにリナがそう告げた。
それに応えるようにして奥から一人の女性が出てくる。
樽のような体型の中年女性だ。
「一晩15R、食事つけるなら20Rよ」
Rはこの世界の共通通貨の単位、リーフといい平均月収は5000R。
1R出せばまともな食事にありつける。
そのあたりを考えるとずいぶん高い宿屋だ。
「高いな……」
「そのぶん安全性は保証するよ」
女性がそう言うが信用できない、リナを見るとかすかに首を横に振っている。
この宿屋に止まったら、多分だけど良くないイベントに巻き込まれるだろう。
「すまんが手持ちでは足りないんでな、またの機会にさせてもらうよ」
「手持ちがないなら身ぐるみ全部で構わないよ」
止まる前に悪いイベントはやってきたみたいだ……いつの間にか入口に男が二人立っている。
多分外にいたんだろうな。
ほかにも置くから数人の男が現れた。
ひいふうみい……全部で十七人いる。
それぞれが武器持っているあたりこういう荒事専門なんだろうか。
入口を二人が塞いで正面二十五人が群れている。
正直な感想暑苦しい。
「さて、どうする?裸で泊まるか、裸で出て行くかだよ」
女性の言葉に武器を持った男性たちがニヤニヤと笑う。
多分リナのヌードを期待しているのだろう、俺も期待している。
「スルト、火は使っちゃダメよ。まだまだ制御の甘いするとじゃこの街まるごと焦土にしかねないんだから」
り長いったのは火の魔法を使うなという意味、リナ曰く俺の魔法にはムラも無駄も多いらしく下手に使うと大惨事になりかねないそうだ。
修行していた頃からずっと言われ続けている。
「土もダメね、電気は十中八九相手が死んじゃうわ。水でもスライスしちゃうだろうし……素手でやりなさい」
「はいはい」
ともかく魔法は禁止だそうです。
武器が禁止なのはありがたい。
森での三カ月間、先頭修行のほとんどが体術修行だったから武器の扱いに慣れていないのです。
数字で言うなら八割が体術、一割が魔法プラス体術、残りその他って感じでした。
「おいやる気だぜこの優男」
後ろにいた二人がゲラゲラと笑い出す。
ちらりと見てみると一人は片手斧、もう一人は両手剣を持っている。
まず近いこいつらから片付けよう。
「すっ」
軽く息を吸って、吐き出す瞬間にバックステップ。
「ぐえっ」
正面にいた俺の急な後退に気づかず、片手斧を持った男にタックルを決める形になった。
男は扉を突き破って外に転がり出た、ピクリとも動く気配はない、まず一人。
そのまま右足を軸に両手剣を持った男を蹴り飛ばす、片手斧の男と同様に外に転がり出て動かなくなった、二人。
「てめぇらヤッちまえ!」
正面にいた十五人が各々武器を取り出し斬りかかってくる。
リナはいつの間にか受付机の向こう側に逃げ込んでいる。
「リナ!あれをやるぞ!目を閉じてろ!」
大声でリナに指示を出す
「バカが!」
残り十五人のひとりが叫んだ、それに合わせて十五人と女性の計十六人全員が一斉に目を瞑る。
もう一度言う、十六人だけが目をつむっている。
「バカはアンタらだよ」
そう言いながら武器を持った十五人の脇をすり抜けるようにして走る。
その際に腹やみぞおち、顔面を一発ずつ殴るのを忘れない、これでまとめて十七人っと。
「さて、まだやるかい?女将さん」
「チッ……負けだよ負け、煮るなり焼くなり好きにしな」
そう言って女将さんは両手を挙げた。
「リナ、どうする」
「スルトはどうするつもり」
質問を質問で返された、どっかの誰かさんふうに言うなら国語のテストで○点だな。
「憲兵に突き出す……と言いたいところだけどこの街の人間は信用ならないからな。三日くらい気絶させておけばいいだろ。それで記憶の改変も済ませれば」
「五十点、それじゃ寝床に困るわ。だから正解はこうよ」
リナが手を軽く打ち合わせた。
あたりに音が響き渡る。
「一晩でよろしいですね?お題は結構です」
さっきまであんなに偉そうにしていた女将が級に接客モードになった。
つまり洗脳して記憶の改変もしてというわけだ、さっきの兵士たちみたいに。
「最上級のお部屋を用意させていただきます、どうぞこちらへ。ほれあんたらいつまで寝てるんだい! 」
女将さんが今しがた俺が気絶させた男たちを蹴り飛ばす、どうやらリナが何かしていたらしく手に伝わった感触と比べて男達に酷い傷はないようだ、みんな直ぐに立ち上がった。
「「「訓練ありがとうございました!」」」
どうやらド付き合いは訓練というふうにしたらしい。でも一体どうしたら宿屋で訓練するんだろう。
「お待たせいたしました、こちらのお部屋をお使いください」
女将に案内されたのは入口のすぐそばの部屋、どうやらここが一番セキュリティーが高いらしい。
よくよく考えれば一番目立つもんな。
「お食事は後ほど運ばせていただきます。どうぞごゆっくり」
そう言い残すと女将はいそいそと奥へ引っ込んでいった。
あぁ疲れた。