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ついに来た

あれから予想の三時間をはるかに超えて町の入口についた。

そんな俺たちの目の前には巨大な門と鎧を身に纏い、槍を構えた兵士ふたりがが立ちふさがっている。

えーと……今着いたばかりなのに無言で槍を突きつけられています、といえばわかりやすいだろうか。


「ひとまずその槍をおろしてもらえます?こちらに敵意はありませんので」


まずは穏便に、よく言うじゃないか話せば分かるって。


「おいルシエ、奴らの持ってきたものをくまなく調べろ。俺はこいつらを調べる。ついてこい貴様ら」


完全に無視されました。

攻めてもの救いは槍をおろしてくれたことくらいだろうか。

でもまだ警戒しているというのは伝わってくる。

槍をおろしてこそ居るが視界の端にこちらを捉えているようだし。

こちらとしても無駄に警戒されるのもアレなのでおとなしくあとについていく。

連れてこられたのは門の脇にある小さな部屋だった。


「随分厳重なんですね」


「黙れ、貴様らは俺の質問にハイかイイエだけ答えていろ」


随分と態度のデカイな兵士さんだ、まぁ街の入口を見張るのだからこのくらいのがいいのかもしれない。

森での勉強中、見張りにふさわしい人物は横暴な人間と気弱な人間を組ませたほうがいいと何かの本に書いてあったし。

たしか横暴な奴が威圧して、もう一人が迎え入れアメとムチを使い分けるそうだ。

ただ……相手は選ぶべきなんだけどね。


「貴様ら何をしにここに来た」


「ハイ」


リナが答える、いや答えていないけど。


「貴様バカにしているのか!」


「ハイ」


我が家のリナさんは挑発が大嫌いなんです……。

俺も森での特訓中、挑発したら足腰立たなくなるまでぶちのめされました。

その後ベッドの中で足腰立たなくさせてもらいたいと言ったら一晩中寝技決められたのはいい思い出……主に柔道やプロレスの技だったけどおっぱいとか当たって気持ちよかった……。


「おい!貴様もなんとか言ったらどうだ!」


あ、俺に振ってきた……なんて答えるべきなんだろうか。

兵士さんは答えないと串刺しにしてやると目で訴えてきてる。

リナはハイかイイエで答えないとあとが怖い……というかこっそり背中をつねられているので肉をちぎられかねない。


「……えーと私たちは夫婦でして、私はスルト、こっちは妻のリナです」


正直リナは怖いけどこのまま町に入れないのは困る。

お説教はしっかり受けるとして今はこっちの身分をはっきりさせよう。


「夫婦がなんの要件だ、まさか旅行とは言うまいな」


リナはそっぽを向いている。

俺が普通の受け答えをしたからすねているのかもしれない……俺は今夜野宿かもしれない。


「夫婦といっても駆け出しの商人です。私の両親も旅の商人をしていましてね、そこで修行していたのですが先日その修行を終えて独り立ちしたところなんですよ。妻もその時の修行仲間だったのですが独り立ちを気に結婚しました」


この設定は移動中に考えていたもので、商人ならあれだけの量の毛皮や牙を持ち込んでも怪しまれないだろうと考えてのこと。


「それで、要件は商売か?」


「いいえ、ギルドに寄ろうと思いましてね。商売は城下町についてからするつもりです。今回は持っている毛皮の半分を売って資金の足しにしようかと考えました」


「ふん、貧乏商人か。身体検査だ、両手足を広げて立て」


どうやら納得してくれたらしい……と思ったのも束の間。

ズゴンという鈍い音がした。

右を見るとリナが拳を振り下ろした格好をしている。

足元には横暴な態度をとっていた兵士さんが倒れ伏している。

リナがもう片方の手で胸を抑えていることから察するに、言われた通り両手足を広げたリナの胸を鷲掴みにした兵士さんがリナに殴り飛ばされたのだろう、まったくうらやま……けしからん。


「………………」


兵士さんから返事がない……首に手を当てて見るとトクントクンと動いている。

口元に手をてると生暖かい吐息も確認できた。

……外で荷物チェックをしている兵士さんも眠らせてどうにか記憶奪って街に逃げ込もう!


「リナ!そいつの記憶を奪って!俺は外にいるやつを眠らせて……あれ?」


部屋から出ようとして瞬間、リナに肩を掴まれた。

何事かと振り向いた先には外にいたであろう兵士と、さっきリナに殴られた兵士が直立不動でこちらを見ていた。


「拉致洗脳くらい一瞬あれば十分よ」


「あ……はい」


「「大変失礼しました!どうぞお通りください!ようこそメスティアの街へ!」」


兵士さん二人が敬礼まで始めた。

……俺の嫁は本当に怖い神様だ。

それにしても……ユーリカではなくメスティアってのはどういうことだ?

リナも町の名前を聞いた瞬間僅かに首をかしげていたし……まぁ街に入り込めばわかるか。

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