表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/48

俺の願い

『起きなさい子供達よ』


微睡みの中で俺は、俺たちはそう告げられた。


今何が起こって何をしているのか理解できない。

確か俺は大学で授業を受けていたはずだ。

そう、確か水嶋先生の授業……卒業論文のための授業である専門ゼミだっただろうか。

とても大切な授業なのでうたた寝などした記憶もないのに……いつの間にか寝てしまっていたのか?


『起きなさい子供達よ』


この声は誰のものだ?

そもそも子供と言っているが俺たちは大学四年生、最低でも二十一歳だ。

子供というには無理のある都市だろう。

十九歳で少女と言い張るのも相当無理があるのに二十過ぎて子供は完全にアウトだ。


『おい、そろそろ置きなさいよ』


声が荒くなる。

それに連れて言葉使いも悪くなった。

声の主がイラついているのがよくわかる。


『起きろ小僧ども』


あ、これは完全に切れてる声だ。

もう言葉遣いとかひどいものだし。


『……佐山ヒトシ』


なんか名前呼ばれた、俺じゃない。

けど知っている名前だ。

同じゼミの、友人という程の関係ではないが何度か論文のために討論したことがある。


『初恋は小学生の時隣のクラスの女子生徒、三年生になった頃放課後にその子の縦笛を舐めているのが見つかりいじめられる。四年生の頃その子の水着を盗んで互の家族と教員PTA全体を巻き込んだ大きな事件へ発展させる。五年生の頃、その子の体育着を自分のものとすり替えるがサイズの違いからバレて全校集会でつるし上げられる。六年生の頃、その子に襲い掛かり同学年の男女全員から殴られ病院に担ぎ込まれるも子供ながらにナースにセクハラしすぎてその日のうちに強制退院させられる。この先も聞きたいか?他の者の過去もばらされたいか?ん?』


「「「「「おはようございます!」」」」」


この場にいた全員が迷わずに起きることを選択した。

尊い犠牲はあったが気にしてはいけない。

そんなことより……ここはどこだろう、真っ白な空間で果てがあるのかさえわからない。

太陽も月も雲も空も地面も壁もなにもない空間だ。

あるのは白い色と、ゼミの知人たち、それと光り輝くひとりの女性だけだ。


『おはよう、我が子達よ』


光り輝く女性がそういった。

我が子とはどう言う意味だろう、ここにいる他のメンバーとは大学で知り合った仲で兄弟どころか親戚でもないはずなんだが。


『信じられないかもしれないが私は神だ』


女性はこちらの考えを無視して話を進める。

神様……これが夢でないとしたら相当痛い人かもしくは厨二病の患者くらいだろうか。


『そこの御坂トオル、次私をいたい人呼ばわりしたら君の過去を全て暴露す……おいなんだ、黒歴史の一つもないのか。かめはめ波の練習すらしてないとは……夢のない人生よのう、トラウマも変わった経歴も何にもない。』


この人心を読んだ?

なんかひどい言われようだけど平和が一番だろうが。

黒歴史とか……自分の過去に恥じることなんかないさ。

そうやって事なかれで生きてきたのだからな。


『事なかれ……ね。その割には随分とかっこいいこともやっていたみたいだけど、これは自身の元みたいだしバラしても痛いものじゃあないんだろうね……あーつまらん。』


「俺のことはどうでもいいでしょう、それよりその神様がなぜ俺たちと話しているのですか?それにここはどこですか?」


神様相手の口調としては少々乱暴だと思うけど自分の過去覗かれたとなるとそうなる。

黒歴史ではないけど恥部が一切ないわけではないから。


神様というのは信じないと話が進まないし心も過去も読めるから一応信じておく。


『あぁ、そうだね。話を進めようか。えーと、君たち十二人は私の暇つぶしの対象として選ばれました、おめでとうございます。』


暇つぶしの対象。

とてもありがたくないです。

というかなんか残念な気分になった。


『えーと、あまりに暇だったんで世界を作ってみたのですがその世界はどうにも発展が遅いというか刺激が足りないというような感じなので起爆剤を投下したいと思います。私が直々に出向いてもいいのですがそれだとつまらないのでみなさんに頑張ってもらいたいと思います。代わりにみなさんの願いを六つ叶えて差し上げます。どんな願いでも神の名に誓って叶えて差し上げましょう。』


この神様結構いい性格している。

というか世界って暇つぶしで作れるんだ、願い六つも叶えてくれるんだ、直々に出向いても問題ないんだ等等言いたいことはいっぱいあるけど黙っておこう。


「あの……いいですか?」


俺の左側から声が聞こえた。

ゼミで数少ない美人の三原さんだ。


「なんでも、絶対に叶えてくれるんですか?」


『もちろん、神様の座もかけちゃってもいいよ』


神の座を随分気軽にかけてくれるなこの神様。


「じゃあ、ピアノの才能が欲しいです。今後の人生の苦難をすべてなくして欲しいです。お金いっぱい欲しいです。人気が欲しいです。人から好かれたいです。私を元の世界に返してください。」


三原さんはいっぺんに願いを言い切った。

なるほど、絶対願いを叶えろといったのは最後の願いを叶えるためだったのか。


『チッ、あんたのようなつまらんこ娘こちらから願い下げだ。五つの願いはすべて叶えておいた。そこからっささと帰れ。』


そう言って髪の指差した場所には扉が出現した。

三原さんは何の迷いもなくその扉を開け、その向こうに消えていった。

それと同時に扉は消えてしまった。


『ほかの奴らも帰りたいというやつばかりか……これは初めての試みだったとは言え大失敗だな……ん?』


神は顎に手を当てながらブツブツ言っている。

そんな時ふと俺を見た。


『お前はまだ願いが決まってないのか、帰りたいならさっさと他の願いを決めてしまえ。』


願い……願いか……。

正直に言ってしまうと地球って退屈なんだよな。

娯楽には困らないが生活、生きていくとなるとこれ以上なく退屈な場所だと思う。

この機会、異世界とか言っていたからもしかしたら憧れたファンタジーの世界の可能性もあるんだけどな……。


『お前が想像しているファンタジーの世界と瓜二つだぞ、何しろ元がお前の世界の娯楽だからな。』


なるほど、神とは娯楽を下に世界を構築できるのか。

なんというかスケールデカすぎてわからんな。


『なんだ?私の世界に来てくれるのか?』


「いいですよ、あなたが本当に願いを叶えてくれるというならね」


一人、また一人と地球へ帰っていく仲間を横目に見ながら俺はそう答えた。

家族には悪いと思うがファンタジーの魅力には勝てない。


『家族は気にするな、お前の代わりを送り込んでやるし記憶も改ざんしてやる。願いもなんだって叶えてやろう。』


家族の心配はいらなくなったか……これで心置きなく願いを叶えてもらえる。


「心を読んで叶えたりはしないのか?さっきのやつらみたいに。」


願いを叶えてもらう立場として、心読まれたらちょっとまずい願いもあるんでそこが一番気になる。


『読まん、ねたばれはつまらんからの。さっきのやつらは皆地球に帰りたいという願いがあったのでな。その中でお前だけ何も考えていなかったからな。一度心を読むのをやめている。』


これで心配事はなくなった。

おし、はじめるか。


「一つ、あらゆる言語を自動翻訳、これは文章や俺が書いた字も含む」


ファンタジーの世界について言語がわかりませんとかお話にならないからね。

これは多分一番大切だ。


『ふむ、言語は大切だな』


「二つ、世界最強の戦闘力、魔法があるなら魔法も使えて肉弾戦も強く武器とかの熟練度もマックス。手加減することも思いのままだ」


即効殺されてもつまらないしな。

それに手加減ってのは力加減ができなかったから頭なでたら子供の首取れましたなんてなったらいやだもん、犯罪者とかなりたくない。


『なるほどなるほど、王道というやつだな』


「三つ、転移能力、数センチの距離から別の世界まで、どこへでも自由に転移できる力が欲しい」


『ほほう、移動系の能力、あると便利だからな。異世界へ行けるというのは地球に戻って暇つぶしの道具も手に入れられるしいいな』


「四つ、不老不死。年齢は俺の身体能力が最も優れている年齢で止めて欲しい」


『はっは、来たか不老不死。かまわん、なんでもといったのはこちらだ。その願いも叶えてやろう』


これで空間転移と言語能力の複合技で世界が滅びるので別の世界に生きますなんてことも可能だ。

宇宙空間に放り出されて考えるのをやめるなんて真似したくなからね。


「五つ、何かと先立つものが必要だからな。ある程度の金を用意してもらいたい」


『たしかに何をするにも金は必要だからのう、いいだろう。選別替わりに山ほどくれてやろう、おまけに無限のものを入れられる革袋もつけてやるもってけドロボー。さぁ、最後のひとつの願いを言うがいい。』


これは便利なおまけがついた、四次元ポケットもどきがあれば今後生きていくのがずいぶん楽になるな。


「その前に質問だ、これから俺が行く世界に召喚や使い魔といった概念はあるか?」


軽くあたりを見渡しながら尋ねる。

もうこの空間には俺と神の二人しか残っていない。

他の奴らはもう帰ってしまったようだ。

挨拶でもすればよかっただろうか。


『あるな、といっても普通の人間は狼の魔獣を使い魔にできたら優秀と言われている。召喚はないな』


「ならば、ここに誓え。俺の願いをどんなことをしてでも叶えると。」


『しつこいのう、私の持てる全ての物をかけて願いを叶えてやろう』


その言葉を待っていた。


「なら六つ、最後の願いだ。神よ!俺の使い魔となれ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ