第7話
例の研究所に対するクレームで一番多いのは、「戻ってきたはいいが、中身が別人」ってこと。それにつきる。
体は確かに、「戻ってきてほしい」と願ったその人なのに。中身は全く別のーー大抵は好ましからざる人物にすり変わっている。
愛し、待ち望んでいたはずの相手に、めちゃめちゃに傷つけられ、食い物にされ。研究所にクレームを上げても、取り合ってもらえない。
曰く、『死というイレギュラーな体験をして、普段は抑制されていた性質が表に出てきたということでは?』
曰く、『あなたに見せていなかっただけで、元々そういう面があった、ということでは?』
心ない言葉に、故人の生前の姿まで、貶められる。
もし、兄さんがそういう目に合わされたら、間違いなくブチ切れる。正気を失って、何をしでかすか分からない。
僕はかなり警戒していた。
幸いなことに、ジェイはごく常識的ーーかどうかはともかく、好ましい人物に見える。この人相手なら、兄さんがブチ切れるような結果にはならない、と思いたいんだけど。
「ところで、君の義姉さんの部屋と言うと、どこになるんだ? 私もそこを使うことになりそうなんだが」
「えっと、元は主寝室を使ってましたね。兄さんと一緒に」
「彼と? もしかして、ベッドも一緒?」
「はい、確か」
「弱ったな。いくら私が酔狂と言われるからって、男と同衾する趣味は無いぞ?」
いたずらっぽく言われて、僕は瞬間、硬直した。
立ち姿や歩き方を見てて、何となくは気づいていたんだけど。もしかして、この人の性別って……?
困ったな。もしも、義姉さんの体の中に、精神だけとは言え、別の男が入り込んでいるなんてことを、兄さんが知ったらーー。
ううっ。ここは、聞かなかったことにしよう。秘技、知らんぷり。
僕、何か聞いたっけぇ? 気のせいだよなぁ。うん、うん。