第23話
「あと四日で名前を考えろなんて、無茶もいいところだ!」
書斎で頭を抱えて唸っていた兄さんが、とうとうキレたように叫んだ。手元には、『子供の名前選び』だとか、そういったタイトルの本がいくつも転がっている。
その後には、兄さん曰くの、”最新式のスーパーコンピュータなら一瞬で終わる”暗号解析に三日もかけた、僕への怨み節も続いている。
「そこまで深刻に考えなくても……」言いかけた僕を、兄さんはギッと睨んで。
「深刻に決まっている。ここで失敗したら、子供に一生恨まれるんだぞ」
「そんな大袈裟な」
苦笑する僕に、兄さんはしばらく黙り込んで。それからおもむろに口を開く。
「おまえの性別が分かってから産まれるまでの間、父さんは何ヵ月もずっと、おまえの名前を考えていた。
俺の時は五秒で決まったそうだ。自分の祖父の名前をそのまま付けただけだからな。ーーさして親しかったわけでも、思い入れのある相手でもなかったらしいが」
……ええっと?
「悪い」兄さんは深々と溜め息をつく。
「恨み言が多くてな。俺がこんなだからだろう、メアリは”子供はもっと二人の時間を楽しんでから”と、いつも言っていた。子供好きで、本当は名前まで考えていたのに」
兄さん……。
「メアリが考えてくれたのと、同じくらいいい名前を考えたい。子供に、愛情が足りないと思われたくないんだ」
その言葉だけで、兄さんはジェイからの質問に答えていると思う。
あのビデオレターは、名前の話にかこつけて、ジェイから兄さんへ、たった一つのことを尋ねていたと思う。ーーすなわち。
あの子を、親として愛せるかどうかを。
母親は既に亡く、父親はあまり正気でない。そんな、特異な状況で授かった子供のことを。
でも、そこは心配するまでもなかったね。
「ゴメンね、兄さん。変な茶々入れて」
「あ、いや……」
「リミットまで、いくらでもゆっくり考えてよ。僕はその間に、一足先に姪っ子に会いに行くから」
「ーーはぁ?」
「僕は別に、名前決まるまで待たなくていいんだもんね。
お土産、何持って行こう? 何がいいか、サクラコさんに相談した方がいいかな?」
「ちょっと待て、おい!」
「いやあ、楽しみだなあ。じゃあ兄さん、頑張ってねー」
一足先にジェイに会って、兄さんの”答え”も伝えておいてあげよう。僕ってば、親切だなあ。
僕は、何か叫んでる兄さんに後ろ手に手を振って、スキップで書斎を後にした。
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