第18話
子を孕んでいるだろう、って……。
「……義姉さんって、妊娠してたの?」
「いや、正確にはそうではないな」ジェイが苦笑混じりに答える。
「亡くなったときに、瑞姫が既に身籠っていたなら、研究所がとっくに研究材料にしている」
……てことは?
「おまえ、男もいけたのか?」イスルギさんが、心底驚いたふうに言う。
「まさか。だが、相手が瑞姫の夫では、弱ってズタボロのところを殴り倒すわけにもいくまい。元気な時なら、蹴り飛ばしたいところだが」
「……おまえが本体で蹴り飛ばすと、普通に死ぬぞ」
「だから、瑞姫の結婚式によばれた時も、断ったんだ。瑞姫の花嫁姿は見たいが、新郎を蹴り殺すわけにもいかないからな」
うぇぇ。後半の物騒な話は冗談だと思う事にして。
兄さんが弱ってるときというと……あの時か。
あの後、二人の間でなにがしのことがあったわけ?
ジェイの本体がどんな風かは知らないけど。僕の脳内イメージでは、結構マッチョな、ナイス・ガイだ。
ああいうヒトと兄さんが、って……。いや、体は一応、義姉さんのだし。
詮索するのは止めよう。うん。
それより、何か引っ掛かるんだけど。
「ジェイはあの大量の薬、真面目に飲んでたよね?」確か、兄さんが張り付いてた間も。避妊薬も入っているという薬を。
「ああ。だが、薬は絶対ではないからな。偽薬だったりとか、研究所側の作為も想定しておくべきだったのかもしれない。なまじ、男と関係するという想定がなかったのが、迂闊だった」
ジェイはしばし俯いて、考え込んでいた。
僕も、何と言っていいか分からず、言葉を返せなかった。
子供の事に気づいていても、ジェイは今日の予約を入れた。
ジェイはこれ以上、義姉さんの体には留まれない。第一、義姉さんの体はおそらく、妊娠を継続できる状態じゃない。
そういうことだと、頭では納得できるんだけど……。
「しかし」ジェイは顔をあげ、イスルギさんに尋ねた。
「この段階でよく気づいたな。まだ着床ーーというか、この体にきちんと定着していないはずだが」
イスルギさんは肩をすくめ。。
「なに、お前だって見えているだろう。子供になるはずの魂が、お前の胎内に寄り付こうとしているのが」
ええっ、マジですか? 僕には全然見えてませんが。
「ああ。それもあって、今日の予約を捩じ込んだんだ。このままこの体を離れるのと、一度宿ってから死んだ扱いになるのと。この魂にとっても、大きな違いだからな」
その言葉に、イスルギさんは納得したみたいだけど。”大きな違い”って、どういう意味なのかなぁ……。
「それって、”このまま戻れば、転生の待ち行列の先頭に戻れるけど、一度転生した扱いで戻ると、待ち行列の最後に回される”とか、そういうこと?」
僕の質問に、二人は何とも言い難い表情をして。
やがてイスルギさんが。
「激しく違うが、そんなようなものだ」と、微妙すぎる答えを返した。