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第16話

かなり時間を置いて、書斎から出てきた兄さんは、「説得に応じる」とだけ、ジェイに告げた。


「そうか」とジェイは頷いた。

兄さんの目が赤かったことについては、見なかったことにしたらしい。


それからの話は早かった。


「器」の状態の義姉さんの体を、どうやって「遺体」に戻すか。

「火葬するってわけにはいかないからな」と、ジェイはエンバーミングを提案した。

確かに、燃やしてしまえば悪用されることはないけど。

火葬は、ジェイの母国では一般的らしいけど。この辺りでは馴染みがないし。兄さんが難色を示している。


エンバーミングして埋葬するのがここでは一般的だし。体液除去したり、 防腐処理を施してしまえば、少なくとも「生きた器」ではなくなるしね。


変なものが入り込まないように、ジェイが体を抜け出してから処置を行うまで、間を置かずにやる必要があるんで。

話が通じやすい知り合いのエンバーマーを頼って、ジェイが何とか明日の予約をねじ込んだところで、兄さんが尋ねた。

「ときに、担当のエンバーマーは男なのか?」


……兄さん……。

僕、思わず遠い目になっちゃうよ?


そういえば義姉さんが元気だったころ、健康診断の時なんかに、義姉さんの担当は女医さんにしろって、しつこく指示してたっけ……。


ジェイは、何やら剣呑な目で兄さんを見て。

「ーー知っていると思うが、あの研究所の研究者は9割方、男だ。あんな連中に瑞姫の体を好きにさせておいて、かなり今更だと思わないか?」


うわーっ。兄さんの方に向かって、何か、殺気がびしばし飛んでるんですけど。

その後、溜まりに溜まった仕事をどうにかするためと称して、兄さんはそそくさと会社に向かった。


その後ろ姿を見送り、僕が考え込んでいると。

「ん? どうした?」ジェイが尋ねる。


「僕が小さい頃って、兄さんと交流って無くて、わりと遠くから見てたんだけど。だからかもしれないけど、完璧な人に見えてたんだ」

生まれ、育ち、容姿、能力。沈着冷静な性格、リーダーシップ。

欠けたところがなく、近付き難い。どこか人間味の薄い印象だった。


「義姉さんと知り合ってから、ちょっと残念な人になっちゃったみたいだけど。家族として接するようになって、距離が近くなったせいで印象が変わったのもあるかもしれないけど」


でも、義姉さんのことで右往左往、一喜一憂する兄さんのことが、僕は嫌いじゃなかった。

義姉さんが亡くなってからは、鬼気迫る感じで、心配ではあったけれど。でも。


「兄さん、どうなるのかなぁ」

「大丈夫だ」僕の不安に、ジェイは力強く言い切る。

「彼は、瑞姫に出会って、瑞姫に愛されていたんだ。悪い方に行くはずがない」


……この人も、義姉さんに関しては、かなりタガが外れてるんだった。



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