第11話
何のためにここにいるのか。ーーもしかしたらジェイは、そのことをこそ、話したかったのかもしれない。
そして、兄さんの側に聞く体勢が整うのを、ずっと待っていたのかもしれない。
僕にも話を聞いて欲しいと、ジェイは僕と兄さんの二人を促して、兄さんの書斎へと場所を移した。
ルドルフ・ミュラー・シュミット 再生医科学研究所。及び、それに類する研究機関について、ジェイやその周辺の人々は、設立当初から問題視していたのだそうだ。
「問題となる点はいろいろあるが、一番厄介なのは、彼らが『魂』の問題を無視していることだ」
『魂』のことなど全く視野に無く、ただ遺体の損傷を修復し、科学的に生前の状態に戻せれば、死者を再生させられると考えている。だが。
「我々は、物にも魂が宿ると考えているし、生き物にも、ましてや人には、すべからく魂が宿っている。
そして、肉体の死とともに、魂は肉体を離れる。それを呼び戻すことは、高位の術者でも不可能だ」
厳しい口調で言われたジェイの言葉に、兄さんの身体が強張った。
義姉さんを取り戻すのは不可能と、宣言されたも同然だからかな。
でも、僕が気になったのは、ちょっと別のところで。
「あの。ジェイの言う『我々』ってーー?」
ジェイって、もしかして何かの術者なの?
「悪いが、詳しく話すことはできないんだ。科学とは異なる理を知るものだとだけ、思っていてくれ」
ふうん? まぁ、どうしても詮索しなくちゃ、ってことじゃないけど。
「ともあれ、彼らがしていることは、魂の宿っていない、空っぽの生きた器を次々に作り出しているようなものだ。空っぽの器には、何かが入り込もうとする。
ーー大抵は、良くないものが」
それこそが、研究所に対するクレームの原因に繋がるもの、だろうなぁ。