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4、ボンデージの魔女

「ううー、眠いー」


一太が目をしむしむと、擦りながら学校へ急ぐ。

昨夜は遅くまでアイロンを掛け、おかげで宿題が夜中までかかった。その上今朝はきちんと起きて、みんなの分のお弁当に朝ご飯を作り、食器を洗って洗濯物を干してと、信じられないほど忙しい。

おかげで毎日授業中はゆっくり寝るので、すっきりするけど勉強どころじゃない。

このままじゃ全寮制の進学高校、松蔵学園は更に遠い。

早くあの家から逃げ出したいのに、最近は赤点ばかりだ。


「一太ーっ、一緒にいこー」


タタッと理子が駆け寄ってくる。

彼女はいつも女友達と登校するのだが、最近はその友達が朝練で先に行ってしまうのだ。


「おはよっ」

バーンと背中を叩かれて、ヨロヨロと一太が足を取られる。


「痛いじゃないか。止めてくれ、目が覚める」

「なんで?」

「一時間目に集中して寝るんだ。そしたらあとは勉強できる」

「集中してって、ずっと寝てるジャン」

「心がまえだよっ」


まったく、一日中嫌な奴につきまとわれる。

俺が一人になれるのは、トイレと風呂だけだ。

何だか悲惨な状況の一太は、早く机に伏せて眠りたい。

急ぐ彼は、半分も目が開いてないグラグラした頭で、いきなり路地の交差点で女性とぶつかった。


「きゃあんっ」「わあっ」


ドスンと尻餅を付いて、一太が相手の女性を確認する。長い黒髪の凄い美人だが、格好が凄まじい。声を掛けるのをすっかり忘れて思わず見とれた。

朝っぱらから、ぴっちりと身体にフィットした派手な真紅のワンピースは超ミニスカート。

しかも一太に向かって編みタイツの足をガバッと開いている。

さすがに眠気も吹っ飛んで、思わずランランと女性の股間に目が釘付けになった。


「いったあい、いやん」

「あ、あ、す、すいません。あの、俺、ちょっと目が悪いもので」


眼鏡を外して、一太がコシコシとレンズをハンカチで拭く。その一太に美女はパッと顔を上げ、キャアッと奇声を上げた。


「きゃあああんっ、あたしの好みいっ」

「は?あ、あの」


ガバッと黒髪の美女が、一太に抱きついてくる。真っ赤な顔でちょっと嬉しい一太だが、そこに理子が割って入った。


「ちょ、ちょっと離れなさいよオバン!これはあたしの物よ、あたしが先に目え付けたんだからね!」

「何よん、無粋なブスねえ」

「ムカッ、何がブスよ、この可愛い理子様に向かって。大年増の色ババア!」


くそう、悔しーっ!相手は美人のナイスバディだから、年しかけなすところが無い。


「これはねえ、このサキューラ様が頂きよん」

「何よ渡すものかっ」


グッと後ろから一太を抱いて引っ張る。すると美女は前から抱きついて引っ張り、グイグイと引き合いになった。

嬉しいけど、一太はたまらない。


「何だよ、離せよこの2人とも!いてててて、俺は誰の物でもないよっ、俺は俺んだあ!」


昨日から、俺は呪われてるのか、それとも単に運が悪いのか。

きっと女難の相が出ているに違いない。


「もうっ、乳臭いガキのくせにしつこい女ねん!」


バサッと、いきなり美女の背からコウモリ羽が広がった。


「わああっ、妖怪!」

「んま、失礼だわん。巣に持って帰って、ゆっくり遊びましょ」

「巣?巣って、ワアッ」


バサッバサッバサッ


風を巻き起こし、サキューラと共に一太の身体が浮き上がる。


「この泥棒妖怪!一太を返せえっ」


そこへ理子がぶら下がり、行かせる物かと足を引っ張った。

しかし理子がズボンをグイッと引っ張ると、一太のズボンがずるっと抜ける。

ズボンと一緒にパンツも下がる。


「ギャーエッチ、止めてー誰か助けてー」


虚しい悲鳴が辺りに響く、しかし朝の出勤時の忙しい時間帯、振り向く人はいても助けてくれる気配はなし。

誰もがサキューラの、あまりにも正当派悪魔らしい非常識な姿に、特撮映画か何かの撮影とでも思っているらしい。笑いながら、やたら携帯で写真に収めていく。

ここでズボンと一緒にパンツが脱げて、しかもフルチンで空を飛んだら恥の上塗り、明日から街を歩けない。学校に行けない。


「うん、もう、往生際が悪いわねん」

バサッバサバサッ


サキューラは羽の動きを更に早めて、引っ張る理子の足も浮き上がる。


「あ、あ、キャアッ、一太あっ」

「ひー、パンツから手を離せえっ」


「聖なる者共!浄化の光で汚れを燃やせ!」


ボオンッ!ゴオオオ!


「きやあああんっ!」

いきなり声と共に、サキューラの身体が燃え上がる。


「ギャアアッ!火っ、火ーっ」

「あちっあちあち!いてえっ!」


その火に焦がされながら、一太と理子が、ドスンと地に落ちて尻餅を付いた。

バタバタと三人が争っていたそこへ、ようやくエリとドミノが現れる。

ウフフフッと不気味に笑うエリは、何だか目が飛んでいる。ドミノはその横で、フウッと毛を逆立てていた。


「ウフフフフ、見つけたぞ黒魔女サキューラ。国一番の白魔女エリミネートリアグランチェスカ・マヌーケが成敗してくれる」


「やあねえ、マヌケブスに見つかっちゃったん。ん、もう、野暮ったい火ねん」


サキューラは身体を覆い尽くす火を、まるでほこりを払うように払ってしまう。

次第にカアッとエリの目が、血走っていった。


「おのれ、自分こそ若作りの年増ブスのクセに、国一番の白魔女の力を受けてみよっ」


エリが、スッとかんざしの一本を取ってクルリと指で回す。

するとそれは、ヒュッと伸びて杖に変わり、エリは杖の先に付いた鈴をしゃんしゃん鳴らして空高く掲げると、電柱にガンとぶつけながらまたクルリと回した。


「聖なる風よ、大いなる力でこのブス女の身体を千に引き裂けっ」


ビョオオオオオッ!!

いきなりサキューラ目指して風が巻き上がる。

その風はどんどん大きく竜巻のように巻いて、辺りのゴミ箱に家の植木に瓦までがガタガタと舞い上がりはじめた。


「ホホホ!こんなそよ風、涼しいくらいよん」


サキューラも風に巻かれながら笑い声を上げ、爪を鷹のようにシュッと伸ばし、それを地面に突き立てる。するとそこから、地響きを上げて地面がエリに向かって大きく裂けた。

ビシッ!ゴゴゴゴ


「キャアア、一太あっ」「逃げろ、理子っ!」

ビシッシャアアアアッ!


地面からは水道管が割れたのか、大きく水が吹き上がる。

「なんだなんだ、わあっ!」「地震?!」


ワイワイと近所の人まで騒ぎだし、騒然となってきた。


「やめんねエリッ!フギャア!」

バリッバリバリ!「ぎゃあっ」


ドミノが慌ててエリに飛びかかり、引っ掻いて押し倒す。一太はサキューラに駆け寄って、「やめろっ!」とその頬を思い切り叩いた。


「きゃんっ」


思いがけなくただの人間に、バシッと叩かれてサキューラが頬を押さえてひっくり返る。

すると地響きは収まり、ドミノのおかげで風も止まった。

人々が家を飛び出して空を仰ぎ、興奮して何事かと話している。しかし、それがここにいる女2人の仕業だとは、誰も気が付いていないようだ。

一太が二人の間に立ち、双方に思い切り怒鳴り声を上げる。本当にたちの悪い大人達だと、心底あきれ果てていた。


「人に迷惑かけて、何が魔女だよ馬鹿野郎!そんな力を持ってるんなら、たまには人の為になってみやがれってんだ。顔洗って出直して来いっ」


一太の怒った顔なんて初めて見る。理子はその毅然とした態度に惚れ直しながら、時計を見てワッと飛び上がった。


「一太!遅刻だよ!まずいよ、完璧に遅刻」

「行こう、理子」


ポカンと見つめる魔女2人をあとに、ずり落ちたズボンを上げて学校へ向かう。


「うう…一太に、怒られてしもうた」


ポツンと尻餅付いたままエリが、目をウルウルさせてつぶやく。ドミノが背中を向けて、ケッと言いながらしっぽでエリの涙を拭いた。


「加減を知らんからこんな事になるとたい」


サキューラは頬を押さえて座り込んだまま、呆然と宙を視線が泳いでいる。

ん?とドミノが覗き込むと、その目はうっとりハートになっていた。


「はあ…あの子、す、て、きん」

「いかん、病気が出とるたい」


ドミノが呆れて白黒の魔女に、大きく溜息をつく。

やがて大きな地割れに人が集まり、消防車やパトカーまで押し寄せてきた。


「まずかばい!エリッ、サキューラ逃げるよ!」


ドミノはしっぽを二股に分けると、2人の魔女の身体に巻き付けてあたふたと走り出す。


「キャアアッ、化けネコおっ」「ひーっ」


しかし今度はその二股しっぽのネコに人々の視線は集まり、更に騒ぎはパワーアップしていった。


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