3、カレーな食卓
「で、その黒魔女さんってどこにおいでですの?」
ママがのんびり訪ねると、白魔女エリミネートリア…略してエリがドレス姿で座敷に座って、カレーを食べながらうむと頷く。
「ここらに気配はするのだが、ようわからんのじゃ
大罪犯して塔に封じられていたのに、牢番をたぶらかして逃げてしもうた
こちらは迷惑千万、とはいえそなたらに出会えて幸運であった」
「ひどい悪運だよ、貧乏神」
ぼそっと、聞こえるように一太がつぶやく。
エリがサッと目をそらして、ニッコリ感嘆の声を上げた。
「そ、それにしても、この黄色い物は見た目は悪いが美味いのう。のうドミノ」
隣でドミノという黒ネコも、べろりと口元を舐めて顔を上げる。
ネコのくせに、人間と一緒のカレーを食べていた。
「美味かあ、こげん美味かと初めて食ったたい」
「まあ、遠慮なく食べてね。ねえパパ」
ママの隣でパパは、いつものようにフッと微笑みながら無言でビールを飲んでいる。
パパはまだ若いのに白髪交じりの髪で、それをオールバックに撫でつけて見た目も格好いい紳士だ。
エリも一目で気に入って、隣りに吸い付いていた。
「うむ」
ちらっと、パパが食器棚に視線を走らせる。
「あら、一太ちゃん、パパがコップ取ってって」
「あー、はいはい」
一太がコップを取りパパに渡す。
するとパパは、それをエリに渡してトクトクとビールを注いだ。
「これは何じゃ?煎じ薬か?」
「ビールだよ、お酒」
無言のパパに代わって一太が答える。
「ふむ」エリが恐る恐る口を付け、気に入ったのかクイッと空けた。
「おお!なんと美味い煎じ薬じゃ」
「おいらもおいらも!」
ドミノが横でピョンピョン跳ねる。
皿を持ってきてそれに注ぐと、ネコまで酒盛りをはじめた。
「こりゃ美味かあー」
「いいけどさ、一体いつまで居座る気?うちも貧乏なんだけど」
空の炊飯器を見て、一太が冷たい目でエリ達を見る。
するとママが、急にウルウルと一太にすがりついた。
「まあ、うちはそんなに貧乏だったの?まあ、ママは何も知らないのね」
「う……いや、そんな極貧じゃないんだけど。2人はヤバイかなあって」
「でもドミノちゃんはネコですもの、大丈夫よ。ね?」
ママのウルウルには、一太も弱い。
「そ、そう、だね」
頬を引きつらせながら、仕方なく頷いた。
「キャアッ!じゃあ家族が増えたお祝いよ」
ママがはしゃいでまたエリにビールを注ぐ。
「うむ、よろしく頼むぞ、ママさんにパパさん」
「よろしくばい!」
「うむ」とパパも頷く。
「くそー、なんだかなー」
何だか偉そうなエリにむかつきながら、一太はパパの視線を受けて、台所へビールのつまみを作りに行った。