認識の章
竹内は布団を飛び出した。
幸い明日は大学も無かった。
彼は早速預かった言葉通りに廃墟へ向かわんとする。
そのためにもまず下調べをした。
都内から遠く離れた埼玉の廃村。
そこに目をつけた竹内はアクセスの手法をプリントアウトし、
明日背負うリュックの中にあるファイルへと封ずる。
思ったよりも早く目的地は見つけられた。
彼のあまりにも衝動的な日帰りの旅が始まろうとしていた。
翌朝。
竹内はもうホームに立っていた。
始発でいつもとは逆向きに揺られる事一時間。
ローカル線へと乗り継ぎ更に揺られる事数十分。
思ったより簡単についてしまった。
帰りの時間を調べ、駅を立ち山々をかき分ける。
あまりの人気のなさに戸惑いすら覚える竹内。
彼の心の中には少しばかりの恐怖とえも言われぬ興奮と期待が渦巻いていた。
到着。
いよいよ目的地であった廃村に到着した。
そこら中に混在するあばら家。
そして散在する生活の跡。
彼は心を躍らせた。
自分が生まれてこの方見てきたものとは、かけ離れた光景だ。
首輪を解かれ広野に放たれた飼い犬のような心地。
その開放感とそこはかとない内なる独占欲の満足感に竹内は酔いしれた。
しばらく立ちっ放しのままでいた後、彼は散策を始めた。
最初のあばら家に入る。
誰かに会うはずもないのに挨拶をしてしまう竹内。
もちろん返事は無い。
しかし彼を出迎える人形が一体その足元に転がっていた。
塗装の剥げた人形はかなり古いものと思われる。
それはもの悲しげに打ち捨てられていた。
そのあばら家は本当につい最近まで人が暮らしていたかのようだった。
竹内は至る所を巡らんと意気高く散策を続ける。
使い古した浴槽。
コケが生えているまな板。
埃を被った食器の群れ。
古いはずのあらゆるものが竹内の眼には新しく映った。
彼の活動はそれにとどまらなかった。
あらゆるあばら家を回り尽くした後、
彼は更に森の奥深くへと分け入って行く。
特に理由などは無かった。
いわば好奇心と衝動が彼にそうさせていた。
彼は日常とはあまりにもかけ離れた世界に大きな満足をした。
気付けばもう夕陽が自分に差している。
集落まで戻ってきた竹内は満足げにその場を後にしたのだった。




