Round1
失速した3号艇のわきを1号艇と6号艇が飛んで行った。
わたしが紙屑になった投票券を棄てて煙草に火を付けると、後ろから声をかけられた。
「お前、いまの3から買ってたの?」
振り向かないでも分かる。金貸しらしからぬ爽やかな声。月一の離れられない関係。
親の顔より見た男に向き直りもせず
「勝ちゃあ元金も減らせるからな」
と言うと、金貸しはやはり爽やかに
「そう言って勝ったことねぇだろ」
こう言って笑った。
一列後ろに座った金貸しが肩越しに金属の短い筒を渡してきた。
受け取って眺め回していると、金貸しはクツクツと笑って「やるぜ。飲めよ」と言い、同じ缶のだよと開けて飲んでみせた。
なおもわたしは不思議そうな顔をしていたのだろう、金貸しは「地球土産だよ。あっちじゃコーヒーをこうやって缶に詰めて売ってんだ」と言ってもうひと口飲んだ。
今さら薬でも混ぜて誘拐もあるまいと自分を納得させて、金貸しがしたようにプルタブを引いた。
小さな飲み口が開いた缶の中から、薄っすらとコーヒーの匂いが立ち上る。ひと口飲んでみると薄いが香料の混ざっていないコーヒーの味がした。
「うまいか?」
金貸しが手料理を振る舞ったような顔で訊いてきたのが可笑しくなって笑うと、少し不機嫌そうに「なんだよ、飲まねえならやるんじゃなかったわ」とそっぽを向いてしまった。
「悪かったよ、そうじゃないんだ」
そうじゃないんだが……となおも笑い続けるわたしに、金貸しは鼻を鳴らしてさっきのレースに話を戻した。
「なんで3号艇からなんだよ?デビューしたての新人だろ?抽選で引いたエンジンも半端だし、オイルも悪い。太陽フレアで宙域荒れてるし」
「だから買うんだよ」
遮るように言うと金貸しは黙った。
まばらな客席に、次のレースに向けた返し船のエンジン音だけが響く。
「だから、買うんだよ。応援とか浪漫じゃねぇんだ」
「あいつに自分を重ねてんのか?」
「そんなセンチメンタルな話でもねぇんだよ」
自分でも何が違うのかわからない。ただ、買わなきゃいけない気がする。それを上手く説明できない。
しばらく黙って聞いていた金貸しが、一列後ろから移ってどかっとわたしの隣に腰を下ろした。




